すれ違い
その後、甲斐の父親が会社からリストラされ転校が決まった。
引っ越しの前日。
甲斐はある場所へやって来た。
彩希が眠っている病院だ。
引っ越す前に顔を見ておきたいと思い、転校の報告も兼ねて会いに来たのだった。
「………」
無言で彩希を見つめる。
――――また、くるから。
そう心で告げて、病室を出て行こうとした。
その時、入り口に誰かがやって来た気配を感じて。
誰だろう?振り返ってみると、そこにいたのは、俊だった。
「………」
「………」
互いに無言のまま、目が合ってもすぐに視線を逸らす、気まずい空気の中。
先に言葉を発したのは、俊の方だった。
「………何しに来たの?」
「………一応、見舞い」
「そっか………」
「………」
「………」
再び無言になり、再び気まずい空気が漂う。
互いになんて言えば良いのか分からずに困っていると、ふと、甲斐が彩希の方を見て呟いた。
「あれから、半年が過ぎてるんだよな…。まだ、意識が戻る気配はないのか?」
「………」
「………状況的に、目を覚ましたくないって気持ちがあっても、おかしくないもんな…」
「………」
「なんで、水瀬がこんなに成っても、教師達は何もしないんだろうな…。戸田先生以外、見舞いにも来ないなんてさ。あんまりだろ…」
「………」
「俺、なんでこんな学園に残ってるんだろうって、時々思うんだ。さっさと転校でもして別の学校行って、毎日普通に楽しく過ごせれば良いのにって、思ってるのに…」
「………」
「バカだよな。こんな中途半端な気持ちで、いつまでもグダグダ悩みたくないのに…。でも、水瀬はいつだってまっすぐで、自分の気持ちに正直でさ。少しだけ、羨ましかったんだ。尊敬もしてた。周りにどう言われようとも、臆せず立ち向かってる姿を見てると、俺も頑張らなきゃって、思えた。なのに………」
甲斐は俯き言葉を詰まらせて、拳を握った。
結局そのまま甲斐は何も言わずに、その場を去って行った。
その夜。
久しぶりに敦也から甲斐当てにLINEが届く。
「………え?」
そのメッセージの内容を見て思わず、声を漏らした。
その内容は、こうだった。
『俊も引っ越すことになるらしい』
そのメッセージに、昼間彩希の病室に俊が来たことを思い返して。
もしかしたら水瀬に会いに来たのも、最後の別れを告げるためだったのかもしれないと、今になって思い知った。
結局、皆がすれ違ったままバラバラになってしまう。
でもこれ以上どうすることも出来ず、敦也に『連絡ありがとう』と返信を送るだけだった。
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