第3話
「どうもはじめまして」
「おまたせしてしまいました。
(二人?)
(ユーリ?)
ユーリと名乗ったテレガートンはユーリの隣に座らされるアルビノのように目が赤く、毛まで過剰に色白の女の子に疑問をもっていたし、
「いえいえ、急な来訪になったことを申し訳なく思います。
「問題ありません。防衛上の重要事項故、
『レベル分類』など、滅多に使われない能力そのものに対する評価の格付けを持ち出してわざわざこんな挨拶をするなんて、『私の力の大きさの特に大きい部分』を強調するような言い回しをするってことは、なにかしら意図をがある発言と心がけろってことなのだろう。そう考えたテレガートンは気を抜けないと薄っすらと背中に一筋冷や汗をかく。
組織の許可など、断っていた理由とは特に関係のないと知っているはずのことを言って嫌味のあるような内容のことを言うのは、なにか含みがあるが自分としては意地以外に断る理由なんてないことを知っているから言われているのだと思うと少し困るな。と、口元が引きつってくる。
「一度使ったらそのままならともかく、効果を維持するにはスケジュールの調整が必要でしらからね」
「確かに、大切な準備です」
「えっ」
ユーリのソファの後ろに立っていたクラリッサが声を漏らす。
「どうしました? クラリッサさん」
「いや、こいつの結界って」
「ごほん! ごほごほ、おほん!!」
あからさまだ。これほどわかりやすくサインを出しては、隠すわけでもなく、口に出せない機密とわざわざ口に出して言っているのと同じようなものだ。
「いえ……なんでもない」
「親しき仲にも、礼儀あり、ですよ?」
(かしこまっている口調でも声色に感情的がこもるってことは、気を許し合っている?)
クラリッサが言うには彼女とは友人関係であるらしいと、少なくとも『親しき仲』という程度のしっかりしたつながりが存在していることをテレガートンは察する。
「ところで、そちらの方は?」
「は、はい! 私は……機関の、かむ、と、機構からいわれて……えっと」
「こちら
「え!? そうだったの」
随分緊張している少女だ。事情を受けて驚いたのも彼女、カムト。
「いや、別に私はその依頼はたぶん、管轄外かと」
「対外的なアピールよ。この子を失って困るのはあなた達なんだから別に変なことはしないでしょうけど。今のうちに面通しをしておこうかと」
「
「あっ、はい」
「ごめん、なんでもない」(なんの名前だったか思い出そうと)「誰だったかなと思って」
その発言に
「そんなの……いや、説明は、まぁ、後でいいわ。私の結界の影響を頼んでいたそうだけど、結界が破れたら私達の方に反応が送られる仕組みにしてもしもの際は兵士が送られることになっているけど、湾上都市周辺限定のシステムだし、システマチックに人が送られるからってあんまり過信しないでね? それで、テレガートンさんはどこにいるの?」
「僕だ」
「貴方なの? さっき、ユーリって名乗って……あぁ、偽名? 紛らわしいわね。性別が変化したって聞いていたけど本当にまるっきり別人にしか見えなかったわね。まぁ、雰囲気は同じかもしれないけど? 貴方は依頼主の代理人じゃなくて依頼主本人ってことでいいの?」
「はい」
「でも、旧東京湾上都市に入る以上、これから何度かあるでしょうけど、結界を張って、実質的に私が護衛してそれよりも安全なことはないわ」
「なんでそんな大物が僕程度の身分の護衛に」
「それほど不相応かい? いろいろ機密情報に触れられる仕事もしているじゃない。それに、なによりあのアレクシウス・ゼンダウソンとシャノン・リヴリエールの子供なんだから、人質に取られないように気をつけるのは必要なことでしょう? もっと気をつけてね」
「あぁ、まぁ、はい。そうですけどなんで、管理機構所属でもない継承機関の貴方が僕の親のことを知っているんだよ……!」
「アレクシウスさんから直接頼まれましたからね」
「そう」
「この子を守っていただいているので、逆らう意志はないと示しておこうと」
そう言って、隣の冠十の肩をそれぞれの手を添えるように背中を抱え、目を伏せて大人しそうな表情に変わってそのまま頭を軽く下げてお辞儀する。
「んん? 貴方が急にここにきたのって、こっちの組織に服従でも示そうってきたのか?」
「まさか、利害の都合でしかないとはいえ、私の力が及ばない弟のことを守っていただけるのでしたら、その義理がある限り決して裏切ることはできないと念押しをして感謝や意志を管理機構の皆様に示そうとしているだけですよ」
「わかった。父にその意志を伝える。じゃあ、護衛を頼むよ」
約束してテレガートンも挨拶として形式的に頭を下げると、
「はい、護衛と言っても、私の場合は常に付きっきりで護衛をするわけじゃないですが……ね。威力のある攻撃に反応する結界を貴方達の周囲に貼るだけだ。反応があったときは私に限らず治安維持職員をすぐさま駆けつるつもりだけども、この結界も一度貼ってから一週間以上経てば崩れだすわ」
「そうなの? っていうか
「そうなのかな? 口止めはされたことはないから別にいいんじゃないかしら?」
訝しげなクラリッサの懸念に、面倒そうな顔をして生返事のような声で言葉を零して善志佳は視線をずらす。
「あぁ、そういうことで継承機関に依頼した結界をユーリさんに貼ることを今すぐ頼めるか」
「えぇ、もちろん」
人差し指を軽く回すような所作をして手をおろしテーブルの上のお茶を入れたカップに触れる。
「終わりましたよ」
「え? もう」
「すぐですよ。比較的シンプルな能力なのでそりゃあ、危険なので、本当に機能しているか効果を試したりしないでくださいね? 確認するならクラリッサでも聞いてください。わかるでしょう? 貴方は」
「あぁ、まぁ、結構強めの力が隠れているのはわからなくはないという程度だが」
「そうか、なら信じるしかないね」
「一応仕様を説明しておきますけど、大きめのダメージが発生するような現象に威力に応じた圧力で弾き返すだけですので、擦り傷がでるくらいのようなものでは何も動きませんけど、角材で殴られそうになったら角材を砕いてしまうように作ったので、もちろん銃弾とかは完璧に防御します」
「ありがとうございます」
頭を下げるといきなり
「これは、寝癖じゃないのね」
「え? いきなりなにを」
「体が変化して苦労も多いでしょう? テレガートンさん、今はユーリちゃんと呼んだ方がいいのかしら? どっちでもいいけど、大変でしょう?」
「はい……そりゃ。いまここにいるのは、ユーリ・リヴリエールってことでお願いします」
「えぇ、わかったわ」
彼女はテレガートンの毛先をつまんで一瞬観察したあと、テーブルに乗り出した上体をソファ側に座り直して隣の白い女の髪をつまみ、眼の前のユーリ・リヴリエールの髪に触れなおす。
「髪を編んでもいいかしら?」
「なんで?」
「もうすぐ同級生になるのよ? クラスは同じになるかはわからないけど、学友と思えばこれくらい普通でしょう?」
「そう、なの?」
テレガートンがクラリッサを見るとまったく信じていないような顔を
‡
冠十を残して
「女体化した先輩として何か困ったことがあったら相談に乗るように言われているよ!」
「いや、別に……」
「だめだよ。これでも僕は報酬を貰って仕事として御用聞きの真似事をすることになっているんだから、日常で困ったことがあったら僕に押し付けるといい。というか、下手に遠慮されるとこっちが困る」
「そう、なんですか? はい。なら何かあったら、遠慮無く」
「うん!」
眼の前のアルビノの彼女がもともと男性だった旨の発言を受けて、後部座席で端末に入れた資料の中から自分の父が繰り上げで出世することになった『デザイナーズスキャンダル事件』の詳細を確認する。
重要機密なので、一人で見るために最後尾座席に座って隣にクラリッサも座らせていないのだが、どうやら彼女はこの秘密の事情を知っているらしい。
助手席で運転手と楽しげに雑談して地図を見る彼女がもともと男性だったという内容を示す事項は資料の最終盤で、スキャンダルそのものとは微妙に違う内容に関わっている補足事項で説明が見つかった。
「これは……?」
気分の悪い事件の説明だが、最後にこれは…………なぜ、被害者がそんなことをしたのか? まるで理解ができない。納得に苦しむような結末だ。
つまり「どうやって」彼女が男から女に変化させられたのかの説明は丁寧になされているが、「なぜ」そんなことをしなければならなかったのか? が、全くもって『不明』と書いているのが何ページにもわたって記されているのだ。
屋敷に着くと、冠十は生き生きとして技術保全継承機関との連絡に必要な端末の設定を帰宅時間までに終わらせて帰っていった。
「わざわざ似たような事情のあるやつを就かせたのは、継承機関なりに気を効かせたつもりかな……?」
「わからない。だけど、アイツラに裏がなかったとしてもそれが組織全体に裏が無いってことじゃないから、スパイやその協力者の可能性はずっと排除しないでおくわ」
「といっても、
「…………否定はしないけど、問題が表沙汰にならない小さなものだとしても注意だけは必要だわ。継承機関だって敵でないだけで味方ってわけじゃないもの」
「わかっているよ。だからこそ、特に『仲良く』しないとね」
「それはそうね」
‡
パッシヴアタック!自称神様が楽園を守るための追放を悔やんで嘘吐き元少年に託したもの 空堀 恒久 @BRACKKKKKK
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