第11話 下地②

父が帰って来る日まで後一日つまり明日それまでにやっておきたい事がある武器を使う上で


この体では筋力やスタミナが足りない問題だ

そこである程度の基礎訓練に耐えるだけの肉体が欲しいだが8歳の体はすぐには成長しないなのでコレもスキルで問題解決を図ろうと思う


コレに関しては今までのスキルに比べれば余りにも簡単だ


今回修得するスキルは、極めてシンプルな二つ《棒術》と《身体強化》だ。


技術系統

《棒闘術》(ぼうとうじゅつ)(ポール・マスタリー) 棒術に関する技術と感覚に補助を行う


強化系統

《剛身》(ボディ・ブース)体を動かす全ての部位に魔力を流し強化することで体全体の能力を向上させられる


どちらも初心者向けでありながら、長く使える基礎スキルで、武器運用と生存率を一気に底上げしてくれる。


《棒闘術》は、その名の通り棒や杖を扱うための技術を体系的にまとめた戦闘スキルだ。
突き、薙ぎ払い、受け流しなどの基本動作が、補助的な感覚修正とともに自然に身に付く


効果は地味だが、習得後は単純な木の棒すら手足の延長のように扱えるようになり、命中精度や攻撃速度も上昇する


《剛身》は、筋力・持久力・反応速度を一時的に底上げする支援系スキル。
使い続けることで実際の肉体にも僅かながら筋肉記憶が蓄積され、持続的な体力向上にもつながる


発動時には全身が軽く熱を帯び、視界と動作感覚が研ぎ澄まされるのが特徴だ

取得方法は単純明快


《棒闘術》は、ギルド裏の訓練場で貸し出される木製練習棒を使い、「突きと薙ぎ払いの型を百回繰り返す」ことで発動条件を満たす。
この条件はゲーム時代から変わらず、コツさえ掴めば数十分で達成できる


(余りに簡単すぎて特に何か言う事と特にない)


一方、《剛身》は少し変わっていて、ギルドの鍛錬室にある「魔力負荷走路」で全力疾走を連続五回行う必要がある


走路には古代魔法の補助が組み込まれており、走っている間に魔力の流れが体の隅々まで巡ることでスキルが定着する仕組みだ


ゲーム時代なら新規キャラ作成直後に誰もが取っていた基礎中の基礎スキルだ


(むしろ何で今までこれを取りに来なかったんだ)



(あんなに苦労しなくてもここで簡単にスキルが手に入るじゃないか)


空を見上げるそうただ単に忘れていたのだ


(...なにやってんだ俺…ただのバカじゃん…)


まぁ、とにかくまずは剛身から修得しよう

以前感応視:心域通達(リンク・パルス)

を修得した迷宮のすぐそばにギルドがあるので

そこに向かう


ギルド鍛錬室


魔力負荷走路の前に立ち、深く息を吸う。
床に刻まれた古代魔法陣が、淡い青白い光を帯びて揺らめいている。


(たった五本走るだけ…)


初めの一歩を踏み出すと、足元から微細な振動と温かさが伝わってきた
魔法陣の光が足裏から脛、太腿、腰、そして胸へと流れ込み、鼓動に同調するように全身を巡る。


一周目はただのランニングの延長。
二周目から脚が重くなり、呼吸が荒くなる。
三周目には熱が骨まで染み渡るような感覚に変わった。


(これは…ただの走りじゃない、魔力が筋肉を直接叩き起こしてる…)


四周目、視界が研ぎ澄まされ、空気の流れや床の摩擦まで感じ取れる。
五周目、最後の直線で全力を振り絞った瞬間、心の中がが一瞬だけ白く閃いた


――《剛身》


「…ふぅ、やっぱり簡単だな」


汗を拭いながら、身体の内側に芯が通ったような感覚を確かめる
筋肉がしなやかに反応し、軽く握った拳にも力が満ちていた


鍛錬室を出て、ギルド裏の訓練場へ向かう


そこでは数人の冒険者が、木の棒を振るいながら型の練習をしていた。
受付で木製練習棒を借り、空いている一角に立つ


――突きと薙ぎ払い、百回


一回、二回、三回…最初は軽い動作だったが、二十回を越えると肩と腕に張りが出てくる


しかし、呼吸と足運びを意識することで、動きが徐々に無駄なく洗練されていった


八十回目あたりで、不思議な感覚が訪れる。
棒の重さや長さを意識せずとも、自然に最適な角度で動くようになったのだ



そして百回目を振り終えた瞬間、心に感覚が浮かぶ


――《棒闘術》


木の棒を軽く回してみる
手足の延長どころか、まるで意志を持った相棒のように、動きたい方向へ滑らかに動いてくれる


(これで、父さんが帰ってくるまでの準備は整った)


棒を肩に担ぎながら、俺は夕焼けの空を見上げた。
赤く染まる雲が、まるで次の戦いの幕開けを告げているようだった。これで父が帰るまでに最低限の「武器を使う体」は整った。

明日はもう、試すだけだ



翌日――父が帰ってきた。

まだ日が傾ききる前、玄関の扉が重く開き、長旅の埃をまとった父が姿を現す


あの威圧感のある背中、太い腕、鋭い目。記憶に残る幼い頃から見上げてきた「戦士の背」を、久しぶりに間近で感じた。

母が慌てて迎えに出てきた。


「おかえりなさい、気をつけてねって言ったでしょ? 本当に心配したんだから」


母の声には安堵と少しの怒りが混ざっている

俺は母の横顔を見つめながら、しばらく黙っていた


「なあ、母さん……」


「なんだい?」


母は少し身をかがめて、優しく問いかける。


「俺、父さんの武器の稽古を少しだけさせてもらいたいんだ」


「……急にどうしたの?」


(そりゃびっくりするよな)


母の声に驚きが混じった


「ずっと思ってたんだ。強くなりたいって」


「でも、あんたはまだ子どもよ?」


母は少し戸惑いながらも、心配そうに言う。


「わかってる。でも、父さんの背中を見て育ったから……俺もちゃんと強くなりたい」


(ここまで言えばどうだ)


母は目を細めてしばらく考えていたが、やがて静かにうなずいた


「わかったわ。でも無理しちゃだめよ、約束して」


(第一関門突破だ)


その言葉に少し勇気づけられ、俺は父が向かったリビングの方へ歩いた。

父の姿が見える。重そうに肩を落としながら椅子に座っていながらも、あの威圧感は変わらない。


俺は深呼吸をして、ゆっくり声をかけた


「父さん……話がある」


父は振り返り、俺を見つめる。


「なんだ?」


その声は低く重い


「武器の稽古を、少しだけさせてほしい」


父はしばらく黙っていた。やがて眉をひそめて言った


「お前の歳でか? まだ早いと思うが……」


俺は負けずに続けた。

「見学だけでもいい。簡単な稽古でも。代わりに、今の俺の力を見てほしいその後で判断してくれ」


父はじっと俺の顔を見て、少し驚いたようだった


「……八歳で、そこまで言うか」


「――いいだろう。だが、見学だけだぞ」


条件を飲んだ上で、裏庭に移動する。
そこには父の愛用する木剣と稽古用の棒が並んでいた。俺は深呼吸し、全身に《剛身》使い。体に熱が走り、視界が研ぎ澄まされる


父が見守る中、《棒闘術》で仕込んだ突きと薙ぎ払いを連続で繰り出す。足運びは滑らかで、木棒の先は正確に的の中心を捉えていた。

数十秒の演武を終えると、父は目を見開いたまま口を閉じなかった。



「……この歳で、これか……?」
驚きと僅かな戸惑いが混じった声。俺は口元を引き締めたまま言う。



「見学だけじゃなく、稽古もやっていいだろ?」


父はため息をつきながらも、口元に小さな笑みを浮かべた。



「……いいだろう。ただし、手加減はせんぞ」


こうして、父との初めての稽古が始まった


だが、流石に「ずっと見学だけ」という訳にはいかなかった


父はしばらく考えた末、条件付きで許可を出してくれた


「よし、1か月間、基礎的な訓練をしてやろう」


「モンスターの戦い方、対人戦闘の基本、そして魔法や心具の対処法まで教えてやる」


その言葉に俺は思わず顔を輝かせた


「よっしゃ!」


部屋に戻ると、自然と小さくガッツポーズをしていた。


明日からは、父が時間の空いている朝と夜に合わせて稽古を始めるらしい。

ゲームの中の自分に少しでも近づける


そう思うと、期待とワクワクが止まらなかった。


俺は子供のように、早く明日が来ることを願った。

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