第9話 清人という友

強きムクロを倒し、身体強化のバグを手に入れた2人は、山奥からの帰り道の中、早速バグの力を試していた。


「おー…なんか強くなった気もするな…」


元は少し関心した様子でそう言った。


「そうだな…」


龍牙も便乗し、自身の腕の締まりを確認している。


「なぁ、龍牙!改めてもっかい戦わねぇか?」


「おう…そうだな…今の力量の差ァ知るのにいいかもな…」


そんな会話をしていると、


ドゴォォン!


突然元と龍牙の背後から雷のような轟音が響いた。


そう。清人だ。


「この音、まさか…!」


「…そのまさかみてェだな…」


2人が振り向くと、砂埃の中から清人が歩いて出てくる。


「こんにちは。お二人とも…この何週間かで、中々強くなったのでは?」


清人が戦闘の構えをしている2人の前で立ち止まる。


「…なにをしに来た…」


龍牙がそう問う。


「…もちろん、あなた達が私"達"の邪魔にならないよう、あらかじめ始末するためですよ。」


その言葉から元は気付く。


「私…達?ってことは、仲間が複数人いるのか!?」


その気付きに対し清人は


「まぁ…そうなりますね。ただ、これから私に始末されるあなた達がそれを知っても無意味。そうは思いませんか?」


清人が挑発的に言う。


「クソッ!こいつ…!」


元が清人に飛び掛かろうとするも


「待て…元の悪い癖だ…すぐに挑発に乗る…」


龍牙がそれを止める。


「じゃあどう戦うんだよ!?」


「相手の攻撃パターンを見るんだ…観察は戦闘の基本なんだよ…」


「…おう!」


「もう最後の会話は終わりですか?ならば、こちらから…」


シュッ!


清人の俊敏かつ重い打撃は、龍牙へと向かう。


それを回避するため、身体強化バグの力を引き出そうとしたが、ここで大きな見落としがあったのを龍牙は知った。


(クソッ!そうだった…こいつは…他人のバグの力を無力化できるんだ…)


それでも間一髪、右頬に傷はできたものの回避することができた。


(…今、龍牙はバグを使わなかった…いや、使えなかったように見えた…確かに、あの時清人と戦った時も、バグが使えなかった…でも…)


龍牙と清人の連打を見ながら、元は一つ仮説を考えた。


(俺は今、バグを使える…ってことは清人との接触がなければバグの使用も可能…!?)


その仮説を検証するため、元は身体強化バグを使用しながら清人に打撃を食らわす準備をしていた。


だが…


「そうはさせませんよ…!」


清人がそう言った直後、元はバグが使えなくなった。


(…なんだこれ?清人と接触してないのに…バグが使えねぇ…!?どう言うことだ…?)


そして元が考えるときのウロウロをしていると…


(ん?ちょっとまて、今一瞬、バグの力の制御がなくなった気がする…)


そう思った元は、素早く上に飛翔した。


(…やっぱり!清人のバグは、範囲を決めて、その範囲内にいる奴が対象になる!)


ようやく仮説が理にかなった。


元はそれを龍牙に伝えるため、精一杯の声で話した。


「龍牙ーー!!清人のバグは!!範囲内の奴にしか通じねぇ!!だから早く動け!!!」


「んなっ!?」


清人は驚いて元の方を向く。


そしてそれを聞いた龍牙は、


「フッ…やるじゃねェか元…」


そう言って、元の方を向く清人の顔目掛けて身体強化バグで強化された重い一撃を喰らわせた。


ドゴォッ!


ズザー…


それによって吹き飛んだ清人は、地面に擦られても尚、恐怖を感じていた。


それに気を取られ、2人のバグの無力化を忘れていたので、


「元…今だ…!」


「おうよ!身体強化5倍と、身体能力の先取りを掛け合わせて!」


ドゴォォォォォォン!


空中から地面に倒れたままの清人に放たれた元の打撃は、地面を抉り、大地には大きなヒビができていた。


そして、清人の体がだんだんと散っていく。


その様子をみて龍牙は


「…じゃあな…清人…また上で会おうぜ…」


と言いながら涙を見せないように真上を向き、目を手で覆っていた。


「龍牙…」


その様子を見た元も、しんみりしていた。


30分程経って、元と龍牙はまた館へ帰る。


「!!2人とも!!大丈夫だった?清人がまた来たんじゃ…!」


そう言っているドアの前で待っていたであろう美沙を見て、元は尋ねた。


「美沙。もう、バグ使えるんじゃねぇか?」


美沙は驚きつつ


「…え?…ほんとだ!浮遊のバグも使える!久しぶりだぁ〜!」


そう言ってふわふわ浮かんでいる美沙は楽しそうだった。


そして自然と、2人の心も温まっていたのだった。


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