番外編 風神

これは、龍牙と元が清人に惨敗してすぐの話。龍牙は元に自身が持っていたもう一つのバグ、「身体能力の先取りをするバグ」を明かした。


「なぁ…元。」


「なんだ?龍牙?」


「言ってなかったが…俺ァもう一個…バグの力を隠してたんだ…だからな…元…お前もそれを極めてくれや…」


そう明かした時の元の反応は、意外にもさっぱりしていた。


「そうか…じゃ、教えてくれよ!そのバグってどんなのかよ!」


「そうだな…簡単に表すんだったら…「身体能力の先取り」をするバグだな…」


「身体能力の…先取り?」


そう元が尋ねる。


「あぁ…要は…自分の筋力やらを強化できるが、その分必要な水分が失われるってェバグだ…」


詳しい説明をして、龍牙は


「実際に見りゃ…分かる…」


そう言って、自身のバグの力を元に見せた。


シュー…


龍牙の体からは薄く蒸気が放たれ、蒸気が上に昇っていく。


「で、どんぐらい強くなんだ?」


元が尋ねる。


「こんぐらいだな…」


ドッ


そう言って、龍牙はそこら辺に生えている木を軽く叩く。


本来ならこれほどでは木は折れないが…


バキバキ…


見事に折れたのだ。


「す、すげぇ!」


「ま、水分量がなくなるからもうやめるが…」


そして、龍牙は本題へと話題を移す。


「でだ…元、お前に俺の奥義を教える…」


龍牙の奥義、それは、大量の水分を犠牲にした限界を超える方法。


"風神"だった。龍牙は一通り元に説明をして、難点を提示する。


「これをするのは簡単だが…極めるのが難しい…自分の限界までな…」


「なるほどな…まぁ、頑張ってみる!」


そして、龍牙による稽古が始まった。


「…違う!もっと自分の全ての力を出すイメージでやれ!」


龍牙は元にコツを教え、その後に元がそれを元にコツを試す。


「こ、こうか…?」


シュゴォォ…


「そうじゃねぇ…もっと、自分が蒸気に包まれるくれェだせ!」


「む、無理だ…!」


元がそう言うが、龍牙はそうは思わなかった。


「元、お前ァそんなタマじゃァねェだろ!!」


元はその言葉でやる気を取り戻した。


「そうだ。あの清人ってのをぶっ倒せるようになんねぇと…美沙が危ねぇ!」


そう言って元は真剣に構え、呼吸を整え、力を最大まで引き出した。


ジュゴォォォォ!


ついに元の体を蒸気が覆い、"風神"へと成った。


「フッ…やりゃあできんじゃねェか…」


それをみた龍牙はどこか嬉しそうだった。


「っはぁ!」


5秒と経たずに風神を解除して後ろに倒れた元の顔は、やり遂げたことへの誇りがうつっていた。


「…できたな…そしたら次はァ…維持する練習だ…」


龍牙の言葉に元は思わず


「えぇ…?」


と言ってしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る