モテない幼馴染がナンパされた結果。



「え、ナンパ……だって? お前がか?」


 予想だにしていなかった答えに、一瞬呆けてしまう丈瑠。

 しかし、そんな丈瑠とは対照的に、志津香は嬉しそうに語りだす。


「そうなの! こんなこと、これまで一度も無かったから、正直ビックリしちゃって……!」


「いや、それは驚くのも無理はないよな。俺も驚いてるからな、うん」


「でね、相手は年上の男の人なんだけど……これがまたかなりの金髪イケメンで、すごくクールな感じな人だったの!」


「へぇ、そんなにイケメンだったのか?」


「そりゃもうバッチリ! 背が高くて俳優さんみたいに格好良くて、思わず見惚れちゃうぐらい!」


 両手を頬に当て、まるで恋する乙女のように語る志津香。

 それだけに彼女が嘘をついていないことは、疑うまでもない。


「なるほど……それで、どんな風に声を掛けられたんだ?」


「えっとね、学校が終わって友達と一緒に帰っていたら、その途中で後ろから声を掛けられてね。振り返るとそこには黒いジャケットを着た男性が立っていたの」


「ふむふむ」


「で、その人の左手には何故か新聞が握られてたけど、右手には私が持ってたハンカチがあってね。『おい、落としたぞ』って言いながら、私に差し出してくれたの」


「……ん? ちょっと待てよ。それってただ単に、落とし物を拾ってくれただけじゃないのか?」


「まあ、そうね。確かにそれで終わりだったら、私もナンパだとは思わないわよ。けど、問題はここからなの」


「と言うと?」


「私がその人に『ありがとうございます』ってお礼を言ったらね、その人はこう返してきたのよ。『お礼なんて別にいい。それより、これも何かの縁だ。あんたに聞きたいことがある』って」


「聞きたいこと、か。そいつは一体何を聞いて来たんだ?」


「それがね、『黒は好きか?』って言ってきたの」


「は? 黒は好きか……だって?」


「ええ、そうね」


「……なあ。それって、どういう意味なんだ?」


 志津香が言っている言葉の意味が理解できず、丈瑠は思わず首を捻る。

 すると、志津香はやれやれと呆れるように肩を竦めた。


「要するにその人は、黒いジャケットを着ている自分のことをどう思うのか、俺のこことが好きかと尋ねてきたの。そしてそれを直接的に言うのはどうかと思って、あえて言葉を濁したのよ。つまり、これはナンパという訳よ!」


「な……なんだって……!!」


 驚愕の事実を聞かされ、丈瑠は言葉を失う。そしてそんな高度な誘い文句をしてきた恋愛強者の豪胆さに脱帽するのであった。


「ま、まさか『黒は好きか?』という短い言葉に、そんな意味が込められているだなんて……! そ、それでどうなったんだ……!? 志津香はそれを聞かれて、なんて答えたんだ?」


「その、イケメンさんにナンパされたのは嬉しかったけど、あまりに突拍子も無いことだったから、思わず固まっちゃって……すぐに返事が出来なかったわ」


 両手の人差し指を突き合わせながら、志津香はその時のことを思い出して恥ずかしそうに顔を俯かせた。


「だけど、気持ちをなんとか落ち着かせて、その人に返事をしようと思ったの。初対面の人に『好きです』とか言うのは恥ずかしいから、『悪くないと思います』とかそんな近いニュアンスのことを言おうと思ったの」


「う、うん……」


「で、そうしたら……」


 ゴクリと唾を飲み込みながら、言葉の続きを待つ丈瑠。


「……私が返事をする前に、友達全員が私達の間に割って入ってきて、それを遮ったの。『この子はそういうんじゃないんです!』って言って」


「……は?」


「『すみませんけど、そういうのは間に合ってるんで!』とか『彼女そういうのに疎いんで、勘弁してあげてください!』とか言ったりしてね。なんか全力でナンパされるのを阻止されたわ」


「え、えぇ……」


「で、最終的に私はみんなに手を引かれて、その場から離れさせられたって訳。お陰で私はその人の名前を知ることすら出来ずに終わったわ……」


 肩を落としながら残念そうに言う志津香。


「せっかく初めてナンパされたというのに、これはあんまりよ……もしかしたら、カッコいい彼氏が出来るチャンスだったのかもしれないのに……」


「そ、それは災難だったな……」


 あまりの事態に、同情の念を送る丈瑠。


「……まあ、でも。そんなに悲観することでも無いのよね」


 しかし、当の本人はあまり気にしていないようだった。

 むしろ、どこか嬉しそうな素振りさえ見せているように見える。


「今回、私がナンパをされたということは、私にもそれなりに魅力があるはずってことでしょ? それが分かっただけで十分よ」


「そ、そうなのか……」


「ええ。それに今回は残念な結果に終わったけど、次こそは必ず上手くやってみせるわ!」


 ガッツポーズを取りながら意気揚々と宣言する志津香。

 その姿はどこか輝いて見え、自信に満ち溢れているようだった。


「……だから、丈瑠。それを達成する為にも、あんたにお願いがあるの」


「お願い?」


「そうよ。こんなこと、丈瑠にしか頼めないことなんだけど……」


 改まった調子で語りかけてくる志津香に、疑問符を浮かべる丈瑠。

 それに対し、志津香は真剣な顔つきでこう続けるのだった。


「その、今度のお休みの日……私と付き合ってちょうだい!!」





 ◆おまけ


A奈(志津香って今永くんって彼氏がいるくせに、ホイホイ男に寄っていこうとするから、あたし達が守ってあげないと……)


B美(ななみんってば可愛いから、私が率先して壁になってあげて、男共を寄り付かせたりはさせないんだから)


C子(志津香ちゃん、彼氏持ちのくせに脇が甘すぎなの! 昔から天然なのは知ってるけど、普段からモテたいモテたいとか抜けたこと言ってるから、こんなことになるの!)


イケメン『……なんか逃げられたんだが。俺はただ、黒が良いか悪いか聞きたかっただけなんだが……まあ、いい。逃げられたってことは、黒はダメなんだろう。よし、じゃあ2番は切って、1番か4番頭で想定してと――』




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