第35話 デスティニーランド
夕方に差し掛かっているが陽はまだ高く、十分な明るさがある。
それでも人混みの中から華野鳥の姿は見つけられず、時間だけが刻々と過ぎてゆく。
近くのキャストに尋ねてみたが、姿は見ていないらしい。
流石にキャストに頼って呼び出すのは最後にしたいところだ。
「迷子になったとして、華野鳥ならどこに行くかだな」
園内全体を見渡してみても、デスティニーランド初心者である俺も迷子になってしまいそうなほど園内は広く、方向感覚がわからなくなる。
俺まで迷子になっては洒落にならない。
同じような状況で、俺が行くとすればどこが適当か……。
「そういえば、さっき華野鳥たちと行こうとしてたアトラクションがあったな」
地底を走行車に乗って冒険するやつだったはず。
それなら少し先に行けばあるはずだ。
火山の麓に入口が設けられているため、一番見つけやすいといってもいい。
もしかしたら、道に迷ってあそこで待ってる可能性もなくはないか。
ダメもとでそこへ走っていくと、入口で佇む華野鳥を見つけることができた。
さっきの迷子の子に似た、寂しそうな雰囲気が全面に出ている。
「華野鳥! 無事だったんだな」
声をかけた瞬間、無表情だった華野鳥の表情が一気に明るくなった。
よほど心細かったのだろう。
俺程度が声をかけるだけでここまで表情を変えてくれるとは——捜した甲斐があったというものだ。
「ごめんね。わたしが迷子になっちゃって。どうしようか考えてたら次にいくアトラクションがあったから、ここで待っておけば来てくれるかなって」
「今頃連絡手段がないことに気づいてな、俺の方こそ悪かった」
「自宅に連絡を入れれば真千田君の連絡先くらいは教えてくれただろうけど、それだとわたしが一人になっちゃったってバレちゃうだろうなって」
「そうだな——それはマズいな。ははは……」
それはマジで連絡してくれなくてよかった。
俺の信用問題に関わるところだ。
華野鳥くらいのお嬢様になれば、その権力で俺の将来、いや、命すら危うくなるかもしれないしな。
「それじゃ華野鳥を見つけたことを星咲に知らせて合流しないと」
スマホを取り出して入力したところで、袖を華野鳥に引っ張られる。
それも結構強めにだ。
「それなんだけど、星咲さんが来るまで先に乗らない? すぐに乗れるし」
「流石にそれは星咲に悪いだろ」
「でもすぐには来れないと思うんだけど、どうかな? それにこのアトラクションは二人ずつ座るみたいだし」
確かに捜し回ってここへやってくるにも相応の時間がかかったし、星咲が真っ直ぐやってくるとしてもこの人混みを考慮すれば余裕はあるか。
今すぐ乗れば星咲が来るまでには終わるだろう。
「わかった。一応星咲には先に乗っておくことを伝えとくよ」
「真千田くんは優しいね。わたしは伝えないほうがいいような気がするけど……」
最後のほうは小声すぎて聞き取れない。
まあ大したことは言ってないだろう。
早速スマホから星咲宛に連絡を入れる。
華野鳥が見つかったことから、次に乗る予定だった地底走行車のアトラクションの前にいること。
こちらから移動すると星咲がいる場所まで迷って時間がかかる可能性があるため、ここで待つこと。
その間、時間が余るため華野鳥が先に乗りたいらしく同乗することを。
「よし、完璧だな。じゃあ先に一度乗っておくか」
「うん! じゃあ真千田くんにエスコートしてほしいな」
そう言って華野鳥が俺の腕に腕を滑り込ませてきた。
密着するというほどでもなく、あくまで上品な感じで手を添えてきただけだが。
「おいおい、これは必要ないだろ」
「だって、こうしないとエスコートしてもらいえないと思ったんだけど、違うかな?」
下から上目遣いで見上げるのは男が勘違いするからやめたほうがいいんじゃないだろうか。
華野鳥が言うように、確かにどうすればいいのかわかってなかったけど、まさか腕を組むなんて想定外すぎるだろう。
星咲にも言えることだが、女子は俺をからかって楽しんでいるフシがあるからな……いちいち動揺していられない。
「まあすぐそこだし構わないか。また迷子になられても困るしな」
「も~、大丈夫だよ~」
こんなやりとりを周りの人間が目にしたら、バカップルにでも見えてしまうんだろう。
実際のところ、全然そんな関係でも何でもないんだが。
華野鳥の希望通りエスコートし、並ぶことなく走行車の先頭車両へ案内し一息ついた。
「ふぅ……」
腕組みも解いて落ち着いたというのに、どうして心拍数が落ち着いてくれないのか。
何かモヤモヤするような、胸に引っかかるような感じがするのは気のせいか……?
「どうかしたのかな?」
「何でもない」
不安を抱えたまま走行車は出発した。
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