【17 私の好きな服】

・【17 私の好きな服】


 村民用の戦闘服も完成し、ついに私の好きな服を作るということになった。

 リュウが戦闘服を作っている間、私は絵を描いていた。

 細かい設計図を描かずに、リュウは見たらすぐに構造を理解して作ってくれるという話なので、私はウキウキしながら何枚も描いた。

 大胆に胸元があいた格闘家の服から、ピッチリとしたラバースーツ、しっかり鎧で固めた勇者の服に、ビキニアーマー、スパイのようなガーターベルトのある服に、ウェイトレスとかも描いてみた。

 それをリュウに見せると、リュウは何だか目を丸くした。

 その時に『ヤバイ、調子に乗って描き過ぎた……ヒかれているかも……』と思った。

 すぐに言い訳の言葉を言おうと思ったんだけども、それよりも早くリュウが口を開いた。

「すごいです! すごい発想です! このような服が浮かぶなんて! もっと描いてください! 梨花さん!」

 ……良かったぁ、ヒかれているわけじゃなかった……ホッと胸をなで下ろしているのも束の間、

「梨花さん! 特にこの服がすごいです! こんな発想今までありませんでした!」

 と言って指差した服がウェイトレスだった。

 なるほど、こういう可愛い制服みたいなモノがこの世界には無いんだ、と思って私はいろんなパターンのウェイトレスやメイド服を描き始めると、私の真隣にやって来て、同じ角度からその絵を頷きながら見始めた。

 いや、というか、近い……頬と頬がもう付くんじゃないかというような距離。

 私はちょっとだけ離れようとすると、すぐさまリュウがくっついてくる。

 いや、嫌じゃないんだけども、なんというか、私の呼吸音を聞かれたくないなぁ、というのがあって。

 何故なら既に興奮してしまって鼻息が荒いから。

 鼻息荒く絵を描くって何かヤバイヤツっぽいから。

 自分の絵に興奮しているみたいで、自給自足のオタクみたいになっちゃってる。

 まあその一面もあるけども、今はリュウにも興奮しているというか、いやリュウは真面目に私の絵を見ているんだから、そんなよこしまな、と思っていると、リュウが、

「やっぱり梨花さんは才能に溢れていますね」

 と言いながらこっちのほうを振り向いた時だった。

 一瞬、リュウの唇が私の頬を掠めたような感触がしたのだ!

 えぇぇぇええええええええええええ!

 ちょっ!

 ……、……、えぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええ!

 言葉にならない声は口から出ず、脳内でぐるぐる回り始めた。

 ちょっ、こんなハプニング的なキス、ありえるぅ? というか今触れたよね! 触れたよね!

 でもリュウは何事も無かったように、

「梨花さんの知っている服、そして新しく浮かぶ服の設計図を全部教えてほしいです。何かこだわりがあれば全部教えてほしいです。ディティールを凝った、梨花さんの服を作りたいですから」

 何そのチュートリアルAIみたいな喋り。

 いや! その前にチューのリアルを気にしてくれよ!

 って! オジサン過ぎるな! 私の脳内!

 でもしょうがない! それはしょうがないんだ!

 私はずっと少年漫画ばかり読んできて、つまりはオジサンが描いた漫画ばかりで熱狂していて、ここぞというセンスがオジサンなんだよ!

 もっと少女漫画とか読んできたほうが良かったのかなぁ、アニメも少年漫画ありきのアニメばっか見てきたもんなぁ!

 と思いながら、ふとリュウのほうを見ると、何だかさっきより私と距離が離れているような気がした。

 というか! 顔が真っ赤だ!

「リュウ!」

 ついただただ名前を叫んでしまった。

 その私の声にビクンと体を波打たたせたリュウは恥ずかしそうに、そっぽを向いた。

 えっ? というとやっぱり、リュウも気付いていた……?

 私は意を決して、でも何か勇気が出切らないので、若干冗談っぽく、こう言うことにした。

「リュウの唇さぁ、今私の頬に当たらなかったぁ? やるぅ!」

 ……何かキモイ感じになってしまった……あぁ、そうだよそうだよ、生まれてこの方、彼氏ゼロだよ、ずっと漫画に恋して、さらにアニメ版に恋して、生身の男性なんて興味が湧かなくて、知ろうとすらしない素人なんだよ、またオヤジギャグ、ダメだダメだ、私は終わってる、私のセンスは漫画家のオジサンに染まっている、こんなんでちゃんとリュウと恋愛なんてできるはずないじゃん、あーぁ、何か若干憂鬱になってきた、こんなヤツ、ダメ過ぎるだろ、と思っていると、リュウが少し不安そうにこう言った。

「もしかすると嫌だった……ですか……? 申し訳御座いません! そんな顔されてしまうとは!」

 あっ、今、自己嫌悪の表情を私の拒否だと捉えている……? いやいや!

「違う! これは違う!」

 この場の雰囲気を変えたくて大きな声を出したんだけども、ドデカい声でどうにかしようとするって自分でもアホ過ぎると思ったその時だった。

「本当に申し訳御座いません。大切なことなのに無かったことにしようとしてしまいました。自分でもどうすればいいか分からず、そのまま気のせいだと思って流れればいいかなと消極的なことを考えてしまい。でも違いますよね、梨花さんは大切な人なんですから、ちゃんと全部言葉にしないといけませんよね」

 まず大切な人とか普通に言ってくれるところが嬉しい。

 でも何だろう、全部言葉にしないといけないって本当に何だろう、もう謝罪はしたのになぁ、いや謝罪もしなくていいんだけども、と考えたところでリュウが私の瞳を真っ直ぐ見ながら、こう言った。

「梨花さん、いや、梨花。まずちゃんと、頬にキスしてもよろしいでしょうか?」

 うぎゃぁぁぁあああああああああああああ! ハッキリ言われたぁぁぁああああああああああ!

 えっ? そういうことっ? 微妙に違くない? 微妙におかしくないっ?

 でも全然違くない! めっちゃ良い! というかピュアかよ! 奪うタイプじゃないのかよ!

 ちゃんと同意を受けてから行おうとする私の好きなほうかよ!

 でも、でも、こうハッキリ聞かれると、こっちもこっぱずかしい!

 ……ううん、それこそダメだ、リュウが真剣に言ってきてくれているんだ、ここを逃げるヤツが本当にダメなヤツだ、だから、

「リュウ、頬にキスくらい、いくらでもしていいよ」

「有難うございます。好きです。梨花」

 そう言って私の頬に顔が近付いてきて、わぁぁああああああと思っている間にキスは終わってしまった。

 優しい優しい、小さな口づけ、でもそれは私にとって大きな一歩で。

 リュウの静かな息がくすぐったくて、もっと感じていたかった。

 するとリュウが私を包み込むようにハグをして、

「ゆっくり、で、いいですかね。距離を詰めるの」

「勿論、私もゆっくりリュウのこと、じんわりもっと好きになっていきたいよ」

「有難うございます。これからも改めてよろしくお願いします」

 その後、私が描いた服をリュウはどんどん服にしていき、十数枚描いたんだけども、それを全部完成させてくれた。

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