【16 アズール山の麓】

・【16 アズール山の麓】


 そんな会話をしていると、アズール山の麓に着いた。

「さぁ、梨花、ここから魔物をどんどん倒していこう。無理はしないでね」

「勿論! リュウもだよ!」

 するとリュウは風の魔法使いの恰好から剣と盾を持った勇者の恰好に切り替わって、何だか表情も凛々しくなって一段とカッコ良くなった。

「何でその恰好っ!」

 と興奮しながら尋ねると、リュウは、

「強い魔物には一撃が大きい剣士スタイルのほうがいいんです。梨花さんは遠距離魔法もできますよね? 俺の後ろに居て、援護してください」

「前線も大丈夫だよ!」

「いや、最初なのでまずは魔物のパターンを覚えてください。魔物はタイプによって思考にパターンがあるので、それを感覚的に学んでください」

「分かった。リュウの言うことだから全部信じるね!」

「ありがとうございます」

 そう言って私とリュウは二人セットで、バトルを開始した。

 魔物は続々とやってくるんだけども、どんどん倒しては素材をゲットしての繰り返し。

 リュウの言う通り、魔物には何だかパターンがあって、まるでゲームのようだった。

 ちょっとプログラミングされているような感じ。

 弱い魔物はスーパーファミコンといった感じで、強い魔物はニンテンドースイッチの大型プロジェクトって感じ。

 まあリュウは強いし、私も思った通りに体が動くので、楽勝だった……と、その時だった。

 山の奥のほうから逃げてくる武道家の集団が私たちの脇を走り去って行きながら、

「ヌシだ! 逃げろ! オレたちについてきてしまった! まさか麓まで降りてくるとは!」

 と私とリュウに言ってきた。

 私は小首を傾げながら、

「倒しても大丈夫なヤツですか?」

 と聞くと、

「倒せないんだよ! 逃げろ! とにかくオマエたちも逃げろ!」

 と武道家が言ったところで、その真後ろに人型なんだけども、黒紫の煙を纏った、明らかに魔物がいて、その魔物がその武道家に対して首元を掻っ切るように引っ掻こうとしていた。

 危ない、と思ったその時にはリュウが尖った氷の斬撃みたいなのを飛ばしていたみたいで、魔物の引っ掻こうとして腕にヒットして、なんとか武道家を守った。

 リュウは私の隣に来てから、

「この山のヌシ、つまりSランク依頼のボスですね」

 武道家は震えながらその場に腰を抜かして、

「終わりだ! もう終わりだ! この距離は!」

 と叫んだ。

 リュウは即座にその武道家の肩を掴んで、後方に投げ飛ばした。

 ちょっと荒々しかったので、

「今の大丈夫っ?」

 と聞くと、リュウは、

「アズール山にいる武道家なんだから、この程度のぶっ飛ばしは大丈夫。それよりもこの魔物を退治しよう」

 と言い終えた直後に魔物がリュウに向かって鋭い爪で引っ掻こうとしているのが見えたので、私はエイリー風の神速を使うことにした。

 まずアゴに膝蹴り一撃、眉間に正拳突き、鼻と口の間に人体急所・人中にエルボーの三連撃。

 正直リュウをバカにしていたバカ二人組の時は同じ人間だし、多少力をセーブしていたんだけども、今の相手は魔物だから制限ナシで全力をぶち込んだ。

 仕上げに、まず思考する時間が欲しかったので、喉仏にキックを前方に吹き飛ばすイメージで繰り出した。

 人型をしている魔物なので急所が分かりやすいなぁ、と思いつつも、その一般的な知識の急所で合ってるのかなとは思った。

 さて、遠くに吹っ飛ばしたので、こっからリュウと会話をして、どう闘うか考えようと思ったその時だった。

「ぐわぁぁああああああああああああああああああ!」

 その魔物は声を上げて、消えていった。

 でもここから最終形態になるはず、と思って、

「リュウ! これからどうする!」

 と私は声を荒らげると、リュウは黙って魔物がいたほうを見ているだけで。

「リュウ! こっからが勝負なんでしょ! 最終形態の出方を見てから闘う?」

「いや……梨花さん、梨花……宝石が出たということはもう勝ったよ……」

「えぇっ? これで終わりぃぃいいいっ?」

「いやもう今の梨花さんの動きは俺でも見えませんでした。すご過ぎる……」

 でもエイリーってこんな感じだしなぁ、と思っていると、私たちの後方で震えていた武道家が、

「破壊の天使だ……」

 と呟き、それエイリーの二つ名じゃんと思って嬉しくなった。

「梨花さん、図らずもこのアズール山のボスを倒しました。強い魔物の出現も少なくなるはずです」

「えぇっ? じゃあもう逆に素材は集まらないのっ?」

「いえ、そういうことを気にする必要はありません。それに俺たちの分の素材は山ほど手に入りましたから大丈夫でしょう」

 そう言ってその魔物がドロップした素材をかき集めたリュウ。

 まあ魔物がいなくなればそれでいいというわけか、良かったぁ、いけないことしたんだと思っちゃった。

「それでは梨花さん、一旦ギルドへ戻って報告をしましょう。武道家さんも一緒に帰りましょうか」

 リュウは腰を抜かした武道家を背負って、一緒にギルドへ移動しようとしたその時だった。

 私はさっきの反動か何かで、異常にスピードが出てしまい、移動の足並みが合わなくなってしまった。

「リュウ! どうしよう! リュウに合わせるの大変! いや! リュウが悪いんじゃなくてね!」

「分かっていますよ、それなら梨花さんは先にギルドへ戻っていてください」

「嫌だよ! 私はリュウと一緒に居たいもん! どうにかして!」

「多分ですが、そのチャイナドレスはもう戦闘専用になってしまったんですね。魔力の相乗効果により。なので他の服に着替えてください。まあ慣れればまた大丈夫なんでしょうけども、今は武道家さんもいるので慣れるのはまたあとにしましょう」

「そっか! そうすればいいんだ!」

 私はストックしていた見習い魔法使いの恰好になった。

 でも、

「この服、あんまり可愛くない……」

「大丈夫ですよ、梨花さんが可愛いので何を着ても可愛いですよ、どんなトッピングも似合うパフェですよ」

 そう微笑んだリュウ。そういうリュウが可愛過ぎる。

 いやでも、

「そういうことじゃないんだよなぁ、服は自分アゲでもあって」

「それなら一旦家に戻ったら、梨花さん、梨花が着たい服を作りましょう!」

「ありがとう! リュウ!」

 みたいな会話をしていると、武道家がちょっと退屈そうに溜息をついた。

 そうだ、邪魔者がいたんだった、あんまりイチャイチャしないようにしなきゃ、と思っていると、リュウが、

「服は自分アゲという言葉、俺も気持ちよく分かりますよ。服を作るための初期衝動ってそうでしたから。やっぱり梨花と同じところが多くて、すごく嬉しいです」

 そう何だか照れ笑いを浮かべたリュウ。

 いやそういうハグしたくなるような感じ出すなよ、今はイチャイチャできないんだってば。

 ギルドに戻って報告すると、ギルドのお姉さんは勿論、ギルドにいた人たちもみんな驚愕していた。

 でも武道家が本当だということを証明してくれて、この人やっと役に立ったなぁとかちょっと失礼なことを思ってしまった。

 その後、私とリュウは自宅に戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る