第21話 新たなる冒険。そして、未知との遭遇

 スタードに戻ってきてから1週間。


 俺たちは休む間もなく、冒険に出ていた。


 前に言ったように、これからする冒険はただ「生きるため」、「生活するため」じゃない。


 この異世界、アンカールドを「少しずつ変えるため」だ。


 マジョは、自分のマッドな研究と、俺たちの望みを実現するために。


 パワーは、自分の居場所と、肉のために。


 プリンは、この世界で困っている人を救うために。


 そして俺は、あの憎っくき女神エレクトラに復讐するために。


 まあ、生活費を稼がなくても、生活に困らない位の金はあるしな。


 そもそも俺ら、太いスポンサー(マジョ、ジェリー)持ちだし。


 そんなわけで、秋も深まってきた今日も、俺たちはクエストをこなしに現場に向かっていた。


 今回のクエストは、ミッキーの派遣会社から来たものだ。


 「スタードの東の農家さんたちが害獣被害に困っているらしいんだけど、報酬が農作物の現物支給だから誰も受けたがらないんだよね。だから、ラック達に頼むのがいいかな~って」


 そう笑顔でミッキーに言われたら、男としてやるしかないでしょう。


 「ふっ、君に頼まれたらやるのは当然さ。俺に任せなよ」


 ミッキーは心底嬉しそうな「営業スマイル」を見せる。


 「ほんと? ラック、ありがとう! ほんと頼れるんだから~。このクエスト誰も引き受けてくれなかったから困ってたんだよね。頑張ってね、世直し」


 ミッキーにうまく乗せられた気もしないでもないが、特に問題はない。


 だってスタードのアイドルであるミッキーが、俺のためだけに微笑んでくれているんだから。


 もちろん、他のメンバー、特に女子二人が軽蔑の目で見ていたのは言うまでもない。


 「まったく、だらしない顔だねぇ、マウスちゃん」


 「もう……」


 俺は見て見ないふりをするしかない。


 「お、おーし、と言うわけで、出発だ!」




 スタードを出発して1週間近く経った。


 スタードの東、もうすぐしたら農業都市ユタカーが近いんじゃないかという田舎に、その農家はあった。


 山の間に田んぼが広がっていて、トンボ(らしきもの)やちょうちょ(らしきもの)がたくさん飛んでいる。


 何というか、懐かしいというか、とてものんびりした場所だ。


 「ああ~、あんたたちが来てくれた人ね~。わざわざありがとね~。まあ、お茶でも飲んでいかんね~」


 そう言うと、農家らしいおじさんとおばさんが近づいてきた。年齢は60歳から70歳ぐらいだろうか。腰は少し曲がっているけど、とても元気だった。


 それにしても、この話し方はここの方言だよな。 何か、日本で聞いたことないか?


 ま、俺東京出身だから分からんけど。


 「ふむ。じゃあ、遠慮なくいただこうかねぇ」


 マジョの号令で、とりあえず俺たちは農家の家の出っ張った廊下? みたいなのに座ってお茶を飲んだ。


 すると、お茶どころか魚の寿司? みたいなのや茶菓子なんかがわんさか出てくる。


 「えっと、こんな食い切れ……」


 と俺が言う前に、パワーが全く遠慮せずガブガブ食べていた。


 「うんめぇ~。ありがとなぁ~おじさんおばさん」


 めちゃくちゃ食ってるパワーを見て、おじさんおばさんはタオル? みたいなので汗を拭いながら、本当に嬉しそうだ。


 「いい食べっぷりやね~。孫が帰ってきたみたいで嬉しいわ~」


 「実は、うちらの田んぼに最近イノブーが寄ってきとってね~。ヨネの田んぼを荒らすとよ~。ヨネの収穫前やから、困るとよね~」


 ヨネ、というのは、日本とかで食べられている、ふっくらとした主食のつぶつぶとそっくりなやつだ。


 さっき食べたけど、とてもおいしかった。あー日本を思い出すわ。


 このおじさんおばさん、方言で半分くらいしか言っていること分からないけど、要はイノブーが農作物に被害を与えているから討伐してくれ、って言ってるんだよな。


 「えっと、報酬は何なんですか?」


 プリンが気になることを聞いてくれる。プリンってほんと昔からよくできた子なんだよね。かわいいし。


 「イノブー退治してくれたら、農作物なら何でも持って行っていいよ~」


 何でも、という言葉にパワーが速攻で反応する。


 「何でもぉ~? 何でもいいのぉ~。おら、頑張るだぁ~」


 早速新調したメタルのこん棒を持ってパワーが出かけようとする。  


 「それが、今は行ってもおらんとよね~。夜中に出来るから、夜までゆっくりしときないよ~」


 それを聞いたパワーは、残念そうにこん棒を下げた。お前農作物もらいたくて仕方ないんだろ。



 それから、俺たちはおじさんおばさんの家の中や周りで過ごした。


 山や川や畑以外何もない、家も所々にしかない場所だったけど、その分のんびりできた。


 パワーは家の裏で薪割りの手伝いをしている。


 「おらのパワーにまかせろぉ~」


 そんなパワーを、おじさんおばさんは特に気に入っていた。


 「ほんと、いい子やね~。また今度、遊びに来ないね~」


 マジョはというと、レアスキル『魔法探求』を使って、今日も新しい妨害魔法の研究に余念がない。


 「ふっふっふ。また新しい魔法ができてしまったよ。ああ、マウスちゃんにかけたらどんな反応するのか、今から楽しみでしかたがないねぇ」


 俺は思わず身震いがした。俺はいつまでたっても、キスをされても実験台なわけだ。


 プリンはと言うと、外を見ながら一人で考え事をしているようだ。


 「……」


 話しかけず、そっとしておいた。


 夕方になると、そのまま家で晩ご飯を食べさせてもらった。晩ご飯も当然のようにおいしい。


 パワーなんて一切の遠慮なくガツガツ食ってたしな。


 「うんめぇ~。おら、ここに住みたいだぁ~」


 「あらあら、お世辞でもうれしいねぇ~」


 「うむ。美味だねぇ」


 「ほんと、おいしいよね」


 まあ、味付けはちょっと甘めだけど、ほんとにおいしいな。




 食事後は、そのまま夜が更けるのを待った。


 イノブーが出るのは川の近く、川のすぐそばに山がある田んぼらしい。


 大きな田んぼが2つあるため、俺たちは二手に分かれることにした。


 「二手に分かれるなら、バランスを考えて私とパワー君、マウスちゃんとプリンだろうねぇ」


 皆、マジョの提案に頷いた。防御と攻撃、ってことだな。


 マジョとパワーは家から見て手前の田んぼ、俺とプリンは奥の田んぼに構える。


 周りを見ると、月明かりがうっすらとだけ届いているだけで、かなり暗い。


 虫と蛙? の音が響いて、少しうるさいけどとてもいい雰囲気だ。


 今のところ、イノブーが侵入しているようには見えない。


 時間があったから、暗闇の中であぜ道に腰掛けた。すると、プリンも隣に座った。


 隣にいるはずのプリンの表情はよく分からない。


 待つだけでやることもないから、プリンに話しかけてみた。


 「なあ、プリン。こっちで久しぶりに再会したのに、あんまりゆっくり話してなかったな。こっちに来てしばらくたったけど、どう?」


 月の光が弱くて、相変わらずプリンの表情はよく見えなかった。


 「うん。最初は、現実から来て戸惑ったよ。別世界に来て、いきなりすごい魔法が使えるようになって、兄と一緒に勇者パーティーの一員って言われて。ゴウ君やジュウちゃんもいて、何だかできすぎなくらいだなって」


 ジュウちゃん、てのは確かユウの彼女、だったかな。


 「確かに、兄弟や知り合いが4人勇者パーティーに呼ばれる、ってのはできすぎだな」


 「でも、何だかおかしいな、と思って」


 「何が?」


 「私たちはすごく優遇されていたけど、この世界の人々は生きるのに必死で。それに、魔王を倒す目的が、悪だから、というだけじゃなくて、魔王領そのものにある気がして」


 「魔王領そのもの?」


 どういうことだ?


 「王とか貴族たちから見れば、相手を倒せば支配する土地が増えるってことだよね。王たちはそんな感じのことを言ってて。そんなことのために戦うなんて絶対に嫌だった」


 なるどほ、そういうことか。そりゃ嫌だよな。


 「確かに、魔王が悪かなんて分からないし、自分たちの利益のために戦えって言われるのは嫌だよな。そのために魔族を殺せってのも」


 「うん。でも、おに……兄は、兄たちはそれを分かってて勇者パーティーを引き受けたの。すごくつらいと思う。私はそのつらさから逃げてきただけ」


 「そんなことないって。プリンは、自分の理想に向かって頑張ってるじゃないか」


 「……ありがとう、ラック。私、この世界でラックやマジョに会えてうれしかった」


 「そうか?」


 「うん。ラックやマジョを見て、この世界で自分の生き方を貫いていいんだ、って思えたから」


 そう言われると、悪い気はしないな。


 ま、マジョは確かにある意味やばいくらい自分の生き方貫いてるしな。


 「ああ、俺は絶対女神エレクトラに復讐を貫くぞ。最後まで付き合ってもらうからな、プリン」


 ふふっ、とプリンが暗闇の中で笑った気がした。


 「うん。私も最後まで付き合うよ」


 あ~、何かいい雰囲気だな。


 今までプリンと二人でこんなに話したことなかったからな。


 プリンがこっちを向いている。相変わらず、表情はよく見えない。


 ちょっと、近づいても、いいのかな。


 そんな、よこしまなことを考えて、少し腰を浮かした、その時だった。


 ガサガサガサ。


 おい! 何でこんないい雰囲気の時に来るんだよ。空気読めよ。許さねぇぞ!


 「来たぞ、構えろ!」


 俺は小声で合図する。メタルの短剣を引き抜き、音の方向に向けて防御の構えをとった。プリンは俺の後ろで構えている。


 マジョ達の様子はよく見えないけど、同じく構えているはずだ。


 ガサガサガサガサ!


 音が近づいてくる。


 すると、目の前に5匹の巨大なイノブーが現れた。


 しかも、先頭のイノブーを中心に、一糸乱れぬ体勢を保って近づいている。


 あれ? イノブーってこんなまとまって動く魔物だったっけ?


 「運パリィ!」


 キイィン!


 イノブー達の最初の牙の一撃を、俺は短剣を構えて弾いた。当然、成功だ。


 イノブー達はひるんだが、再び隊列を組んで突進してきた。


 「なんか、変じゃないか? こいつら」


 キイィン!


 「うん。確かに変だね。イノブーって社会性が薄い魔物だから、こんな風にまとまって動くのを見たことがないよ」


 そうだ。明らかに、おかしい。


 キイィン!


 3度目の『運パリィ』を決めた後、またイノブー達は隊列を作って突進してきた。


 「プリン、これじゃらちがあかない。例のアレ、使ってくれ」


 「……わかった。『暗黒魔法 悪夢』」


 プリンは嫌そうに言いながらも、暗黒魔法を使ってくれた。


 するとその瞬間、こちらに突進していたイノブー達がバタバタ倒れ始めた。


 「よくやってくれた、プリン」


 「バカな。一体どういうことだ」


 ん? 今の声誰だ? 聞いたことないぞ。


 「ラック、前」


 プリンにそう言われて前を見ると、奥に人間らしき姿がうっすらと見えた。


 相手は動揺している。どうやら、コイツがイノブーを操ってたってことか。


 俺は一気に間合いを詰め、逃げようとした相手の喉元に短剣を添えた。


 「こ、殺すなら、殺せ」


 おい、これ女の声じゃねーか。


 もちろん、俺は殺す気なんてない。


 「お前を殺す気はない。ただ、なぜこんなことをしているのか聞く必要がある。ついてきてもらうぞ」


 「どうやら、イノブーが発生する原因を押さえたようだねぇ。お手柄だよ、マウスちゃん。『パラライズ』」


 近づいてきたマジョがそう言った瞬間、相手がドサリと俺の方に倒れ込んできた。


 その時、はっきりと分かった。


 コイツは人間じゃない。色は浅黒いし、小さいけど角が生えている。


 「まさか、イノブーが操られて、操っていたのが魔族だったなんてねぇ。魔族がこんなところまで来ているとは」


 「魔族? ほんとなの、マジョ」


 「パワー、こっちだ」


 俺は近づいてきたパワーに魔族の女を預けた。パワーは片手でひょいと担ぐ。


 「おい、こいつどうするんだよ」


 「まあ、起きたら事情聴取といこうか」


 魔族が一体何の目的でこんな場所まで来て、イノブーを使って田んぼなんかを襲撃していたのか。


 とりあえず、俺たちは気絶したイノブーを縛り上げ、魔族の女と一緒に持って帰ることにした。


 何か色々どたばたあったけど、相変わらず空はマジできれいなんだよな。 

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