第20話② これまでと、これから。そして、蠢く野望

 その後、俺たちはギルドに戻り、転職とスキルポイント振りを済ませた。


 俺は盗賊から2段階上がってアサシンに、プリンはプリーストからアシストプリーストに転職した。


 俺はアサシンの基本スキルである「暗殺」「隠密」だけを覚え、残りのスキルポイント全てを『剛運』と『超運』に割り振った。


 「暗殺」は自分よりレベルの低い相手を低確率で即死させるスキルだ。「隠密」は相手に気づかれないようにするスキルだな。



 ラック(幸村幸夫) アサシン レベル30


 HP80 MP40 力35 早さ70 器用さ70 魔力30 信仰30 

 運1725


 レアスキル 『剛運』 『超運』



 相変わらず運ばかり上がっているけど、さすがにレベル30と言ったところか、他のステータスもそこそこ上がっている。


 相変わらず強い敵に一撃でやられるHP、ようやく「運撃」が使えるようになったぐらい低いMPだけどな。


 「運撃」の消費MPが30だから、そもそも1回しか使えない。でも一度試してみたいよな、俺の運で放った「運撃」がどんだけ強いのか。


 俺はそのまま、スキルを開いた。



 スキル 盗む 解錠 罠外し 暗殺 隠密 ☆逃げ足の心得


 レアスキル 『剛運』 運判定アップ1,5倍


       『超運』 運撃+ 運パリィ+ 運回避+ 運ドロップ



 運パリィや運回避は+となり、受け流したり避けたりすることができる範囲が広がった。


 特に運パリィ+で、ある程度までの魔法を受け流せるようになったのは本当に大きい。


 てか、武器で魔法を受け流すってどんなゲームだよ。普通無理だよな。


 運判定率も大幅に上がったから、今は実感がないけど、これから冒険しながらその強さを実感していくことになるんだろうな、多分だけど。


 それから、俺たちはジェリーの店「買い取りマスタ-」に行った。


 俺たちが店に入ると、店員全員が恭しく礼をする。これがVIPってやつだよなぁ。


 「よ、ジェリー。昨日預けておいたアイテムを換金したいんだけど。あ、装備に使う分は残しといて」


 ジェリーは特上の営業スマイルだ。


 「ようこそおいでくださいました。ラックご一行様。準備しております」


 結局、換金額は装備に回す素材分と手数料を引いても、2000万イェン以上になった。


 うちのパーティーじゃ報酬は山分けだから、1人500万イェン以上もらったな。


 これで、アーンな店にも堂々と行けるぞ! グフフ。


 「私は、このパーティーに入ってまだ何もしてないから、もらえないよ」


 プリンがそう言うのは予想していた。


 「いや、これは今後の活動費、路銀として受け取ってくれ。報酬は完全に平等だからな、このパーティーは。それに、今後はプリンがこのパーティーの生命線だから。あとは、入ってくれてうれしかったしね」


 そう言うと、プリンは黙って受け取った。頬をほのかに薄く染め、嬉しそうだ。


 「ジェリー。残りのメタルインゴットを使って彼らの装備を強化したいのだけど、どの店がおすすめかな?」


 マジョがそう言うと、ジェリーは丁寧に答えてくれた。やっぱVIP待遇いいわ~。


 「はい。それなら、『頑固親父のテツ』の店がええでしょう。テツは偏屈で、避ける人も多いんですが、ええ腕してます。特に、メタルインゴットの扱いに長けとりますので」


「ありがとう、ジェリー。これからもたまに寄ったらメタルインゴット納品するからな」


そう言うとジェリーはまた最高の営業スマイルを見せた。


 「おおきに。今後もよろしゅうお願いします」



 俺たちはジェリーにもらった地図を見ながら「頑固親父のテツ」の店に向かった。


 てか、「頑固親父」ってラノベとかである、自分の見込んだ冒険者にしか武器や防具を作らない、採算度外視のマジでめんどい鍛冶屋の親父だよな? 何かだるそうだけど。


地図の通り歩いて、おそらくテツの店に着いた。


 でも、目の前にあるのはすっごいぼろい建物だ。ほんとにここに凄腕の鍛冶なんているのか?


 分からないので、俺は大声で奥に声をかけてみた。


 「おーい、誰かいるのか? あの、いたら、俺達の武器と防具作ってくれ。コイツのこん棒はなるべく丈夫なので、俺には軽くて扱いやすい短剣を頼むわ。なるべく攻撃を受け流せるやつな」


 すると、奥からいかにもな親父が出てきた。白髪が頭の周りに生えた、ハゲた親父だ。


 どう見てもこの頑固っぽうさそうな爺ちゃんがテツだろ。


 てかこの店、全然流行ってないじゃん。ほんとに凄腕の店なのかよ、これが。


 「お前ら誰やねん! ここは一見さんはお断りや。営業妨害や。帰れ帰れ」


 テツが初見の客に対してどういう対応を取るのかはジュリーに聞いていたので、俺たちはそれほど驚かずにすんだ。


 そこで、予定通り、俺はすぐにメタルインゴットを目の前に出した。


 「これでも無理ってのか? これ持ってきて営業妨害か?」


 メタルインゴットを見た瞬間、テツは俺から奪い取り、早口でまくし立て後速攻で中にこもってしまった。


 「ええもんもってるやんけ。それはよ言えよ。俺に任しとけ。お代は時価な」


 こいつ、どんな態度だよ。こっちは客だぞ?


 「まったく。聞いてたとおりだけど、ひどいなこりゃ」


 「ああ。おそらくあと3、4時間はかかるだろうから、私とプリンの防具も見に行こうかい」


 「そうするか」


 俺たちは街中に戻り、装備屋を巡った。


 マジョもプリンも、ゆっくり装備を選んでいた。


 やっぱり女子って、能力だけじゃなくて見た目も大事なのね。


 マジョは、見た目はほとんど変わっていない。相変わらずの魔法服と学生服が融合したような変な服と、同じく変な眼鏡をして……ない。あれ?


 「眼鏡どうしたんだ?」


 「ああ、より魔法効果の高いコンタクトレンズに変えてみたよ。どうだい?」


 え? この世界にコンタクトレンズあるの? いや、突っ込んでもしょうがないか。


 「あ、ああ、い、いいんじゃ、ないか」


 俺はまるで女慣れてない童貞みたいな反応しかできてなかった。イヤ童貞ですけど何か。


 だって、眼鏡を外したマジョはめちゃくちゃ可愛くて美人なんだぜ。俺じゃなくても大抵の童貞はそうなっちゃうだろ。


 「ねえねえ、私はどう、かな?」


 そう恥ずかしそうに言ってきたのはプリンだ。


 これまでは王家御用達の店で作った「いかにも僧侶」って感じの法衣? だったけど、今はゆるふわな感じのめちゃくちゃかわいい私服みたいな防具に変わっている。


 「えっと、めちゃくちゃ似合ってるよ。それって効果高いの?」


 「似合ってるだぁ~」


 プリンは少し恥ずかしそうにしている。


 「あ、ありがとう。一応、前よりいい防具、なんだよ」


 そんな感じで、女子達のショッピング? に付き合った。


 あれから3時間後、再びテツの店に向かうと、汗だくのテツがちょうど中から出てきた。


 「ハァ、ハァ、最高の素材に最高の技で応えたったわ。そこのでかいの、お前の武器はこれや」


 テツがそう言うと、奥からどう見ても大きすぎる金属色のこん棒が出てきた。いやどう見ても扱うの無理だろこれ。重過ぎだわ。


 でも、パワーのパワーが規格外なのを忘れてた。パワーは巨大なこん棒を片手で持つと、ブンブン振り回している。


 「おらにはちょうどいいだぁ~。中は木で外はメタル、おらの好みだぁ~」


 どうやら気に入ったらしい。まあ、これなら何度地面を叩いても壊れなさそうだしな。


 メタルが織り込まれた頑丈そうな腰みのも気に入ったようだ。


 そういや今まであまり言ってなかったけど、パワーって職業の呪い? で防具は腰みのだけなんだよな。


 上半身は基本的に常に裸なんだよ。まあ、普段は上着を羽織ってるけどな。


 「そこの貧弱なお前、運が高いんやろ。なら、これや」


 そう言われて出されたのは、2本の細長い短剣だった。


 全部メタルでできているはずだけど、軽い。しかも、僅かに反り返っている。攻撃を受け流すには最高のものだろう。


 防具も、俺の体力で持てるギリギリのところまでメタルを使ったものだった。


 これなら万が一攻撃が当たっても、1回ぐらいは生き残れるんじゃないか?


 最初は大丈夫かと思ったけど、やっぱりジェリーの紹介に間違いはなかったな。


  「最高だわ。ありがとうな、テツ」


 そう言って俺とパワーはテツの言い値分の金を支払った。何か満足したのか知らないけど、そんなに高くなかったな。


 「フン。もう来んでええからな! ただ、またええ素材が出たときだけは考えたるわ」


 おい、このじじいツンデレかよ。需要ないって。


 「じゃあ、スタードに戻るとするか」


 「フフッ。成長した私たちを皆がどう見るか、実に楽しみだねぇ」



 スタードに戻ると、ちょっとした騒ぎになっていた。


 それもそうだわな。俺やパワーみたいな弱い奴が、たった1週間でレベル30になって帰ってきたんだから。


 この街で最高レベルのクロ達とも、もうそんなに差はないはずだ。


 「ラックさん、一体何があったらそんなにレベルが上がったんですか?」


 ギルドの受付嬢アンは素直に驚いている。どうだい? そろそろ俺の魅力に気づいたかい?


 でも、いつまでたっても俺の魅力はアンには届いていないようだった。


 「最初からやれる人だとは思ってたけど、ほんとにすごいね、ラック。これからもうちの会社の仕事を回すから、よろしくね」


 酒場で久しぶりに会ったミッキーは相変わらずかわいかった。あースタードに帰ってきて良かったわ。後ろにいるハイはマジで、マジでいらないけど。


 「ラック、一体どうしたんだ? いきなりこんなにレベルが上がるなんて聞いたことないぞ。相当危ないことをしたんじゃないか? 確かにいいパーティーメンバーに巡り会ったようだけど、無茶をするなよ。命は1つしかないんだからな」


 こう忠告してくれたのはクロだ。ありがたいけど、俺は最短距離でクソ女神様のところに行くって決めてるからな。


 「ガッハッハ!! まあ飲めラック!」


 ガイたちはいつ会っても一緒だな。


 「ほんと面白いね、君は。今度楽しい店に一緒に行こうか」


 パイセンは俺たちが強くなっても態度が変わってなかった。さすがはパイセンだわ。


 てか楽しい店ってマジすか? 楽しみでしかたないわ~。


 俺は自分の席に戻った。改めて、俺たちパーティーは同じ机に集まり、乾杯する。


 「カンパーイ!」


 全員一気にシュワーをあおる。


 「ここまで長かったわ。最初は最悪の状態でこの世界に来たからな、俺」


 「おらも、役に立たねぇってバカにされてただぁ~」


 「私も、この世界に来て考えたり、戸惑うことが多かった」


 「私は実験さえできれば、いつでもどこでも最高なんだがねぇ」


 みんな言ってることがバラバラだな。でもこれ俺たちだ。俺は拳に力を込めた。


 「でも、俺たちは今4人揃っている。このメンバーなら何だってできそうじゃないか。明日から人助けクエスト頑張るぞ!」


 「んだぁ~!」


 「フフッ」


 「クスッ」


 ようやく、ようやくこの世界のスタートラインに俺は着いた。


 凸凹だけど最高の仲間、そして外れレアスキルの真の力。


 これからだ、俺の異世界成り上がりは。


 待ってろよ女神エレクトラ。お前が俺の目の前で跪く姿を見るまで、俺は、いや俺たちは強くなり続けるんだ。


 気がつけば、夜空に星が瞬いている。酒場の外に出た俺たちは風の赴くまま、夜空を見上げ歩いた。






ーー同じ頃、アンカールド大陸内 某所


 男と女が、密室で語り合っている。この部屋の会話は外には出ず、誰も聞くことができない。


 声はこもっていて、誰が話しているかは分からない。


 「さて、今一体どうなっているの? あなたの思惑はうまくいってるのかしら?」


 「ふふ、心配ないよ。全ては僕の思うがままさ」


 「さすがね」


 「ああ。アンカールド王国は魔王領との戦いを始め、勇者パーティーを魔王領に送り込んだ。魔王討伐のためにね。一方、魔族はあれほどの力を持ちながら守ってばかりいる。ははっ、バカばかりだ。実に笑えるじゃないか」


 「ふふふ、本当ね。踊らされているとも知らないで、笑えるわね」


 「あとは、せいぜい互いに消耗してもらうことにしよう。互いの国力が底を着いた時、僕たちの真の出番というわけさ」


 「ほんと、あなたって最高ね。一体どうやってこんなことを考えたのかしら?」


 「ふっ、僕には優秀なブレーンがいるのさ。この滑稽な絵を描いているのも、僕が今この場所にいるのも、全てそのブレーンのお陰なんだよ」


 「ブレーン、ね。その人は今、どこにいるのかしら? アンカールド王国内にいるの? それとも?」


 「ふっ、どうだろうね。まあ、うまく踊ってくれているのは間違いないさ。まあ、あいつはあいつで目的があるみたいだし、せいぜい派手に動いてくれればいいよ」


 「そういえば、あれはどうなったの? あなた、アースから来た転生者を探るためにスパイをスタードに居させているんでしょう? どうせ大した冒険者はいないでしょうけど、何か気になる情報はあったの?」


 「まあ、あるにはあったさ。僕たちの計画を脅かすような存在は当然ながらいなかったね。何せ、アースから来た冒険者には、僕たちの都合のいいようにうまく踊ってもらってるんだからね。ただ、……」


 「ただ、何かしら?」


 「どうも、普通の冒険者とは違う成長曲線を描いている冒険者がいるみたいでね。その冒険者は生きるためではなく、ある目的を遂げるために危険を冒して最短距離で冒険をしているらしい。報告書には本人は弱いと書いてあるけど、パーティーメンバーが強いらしくてね。本人もこっちに来て1ヶ月で早くもレベル30に到達して、冒険者のランクで言えばもう一流の仲間入りだそうだ」


 「へえ。私転生者なんて全く興味ないけど、そんな転生者もいるのね。でも、私たちの脅威になんてなりえないでしょう?」


 「それが、彼はとてもユニークな男らしくてね。彼の口癖は『女神エレクトラに復讐する』だそうだよ。実に笑えるね。女神様に復讐とは大きく出たものだよ。どう思う?」


 「……そんなこと、ただの冒険者になんか到底無理に決まっているでしょ? 本当に憐れだわ。笑うしかないじゃない」


 「ふふふ。だけど、油断は禁物だよ。いつ誰が、僕たちの思惑にたどり着くか分からないからね。そのためのスパイ、さ」


 女の顔は少しこわばっている。


 「まあ、気にする必要はないさ。この調子だったら、君の願いもすぐにかなうだろうしね。そのために僕はここまでやっているのだから」


 女の顔が和らいだ。


 「もう。本当に頼むわよ、ダーリン」


 「ああ、君のためなら何だってするさ。おいで、ハニー」


 そうして2人は、2人以外誰も入れない部屋でベッドに入り、体を重ねた。 

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