第13話 2人目の仲間? いや無理だろコイツだけは

――辺境都市スタード



 俺たちは4人(俺、マジョ、ミッキー、ハイ)で酒場に向かった。景色はもうずいぶん暗くなっていた。


 冒険者の酒場「コーンマイン」に入ると、俺たちが来るのを見通したかのように、ユウが広い席を取って待ってくれていた。


 「こっちだよ~。ミッキー、ハイ」


 ユウは笑顔で手を振っている。どうやら酒場の主人に説明して場所を確保していたらしい。


 なんて気遣いのできる子なんだ。てかなんでこんな癒やし系でいい子がハイの彼女なんかやってんだろ。


 しかも、ミッキーから聞くところによるとハイとユウって同棲してるって話だしな。


 それってつまり、……そういうことだよな。


 俺の心の声が届いたのか、ハイが俺をギロリとにらむ。


 「ユウ、紹介するよ。ラックのパーティーメンバーになったマジョだよ。ものすごくレベルが高いハイウィッチなんだ」


 ミッキーがユウにマジョの紹介をしてくれている。いい子だな~ミッキー。


 「初めまして~マジョさん。よろしくね~」


 「うむ。マウスちゃんのパーティーに入ったマジョだ。以後よろしくたのもう」


 マジョもユウにうまく合わせている。どうやら問題はなさそうだ。


 マジョって興味ないものは一切無視するからな。ちょっとヒヤっとしたわ。 


 「マウスちゃん?」


 「ああ、それはマジョがラックにつけたあだ名だよ」


 ミッキーが笑顔でユウに教えている。うーん微笑ましい。


 


 あいさつをし終えると、酒と食事が運ばれてきた。


 仕事終わりの酒はやっぱりシュワーだよな。

 

 冒険者はシュワーで乾杯がメインだけど、もっと度数の高い、ウィスキーみたいな火酒ってのもあるらしい。飲んだことないけど。


 食事は相変わらず豪華だ。ブー(現実でいう豚みたいなやつ)の丸焼き。コッコ(現実で言う鶏みたいなやつ)の唐揚げをはじめ、家畜と魔物の肉料理がずらりと並んでいる。


 グレートボアの煮物なんて大迫力だ。直径30セン(現実で言う30㎝)くらいあるんじゃないか?


 相変わらず野菜は少ないけどな。でも、スライムの糸そうめんとか、植物系の味がするうまいものもあった。


 これってユウが注文しておいてくれたんだよな。めっちゃいい子じゃん。


 「ありがとうユウ。さすがだね。任せて良かったよ」


 どうやらミッキーのお願いだったようだ。ユウは嬉しそうにしている。


 「ギルドや酒場でもうすごい噂になってるんだよ~。運だけのラックさんパーティーに超凄腕の魔術師が王都から来たって~」


 こっちにいない間にそんな噂になってんのか、すげーな俺ら。


 「てかおい、ユウさんよ。『運だけのラックさん』ってどういう意味?」


 俺が冗談半分で問い詰めても、ユウは笑っているだけだ。


 ま、間違ってはないけど、言い方ってもんがあるでしょーが。


 もしかしてユウって癒やし系に見えて結構毒舌とか? やっぱハイの影響か?


 でも、ユウの言い方が優しいからか、そんなに気にならなかったけどな。


 「……今日は仕方なく一緒に冒険したが、はっきり言って釣り合ってないな、お前たち。さっさとパーティー解消した方がいいんじゃないか」


 ハイは相変わらずボソボソと毒舌を吐いている。はいはい、何とでも言えよ。


 コホン、とミッキーがジョッキを構えた。全員がジョッキを構える。


 「ラック、改めて初冒険成功おめでとう。今日は私のおごりだよ。みんなでお祝いしよう。カンパーイ!」


 「カンパーイ!」


 ミッキーの号令を合図に、全員でシュワーをあおり始める。


 意外なことにマジョは酒好きらしく、シュワーをぐいぐい飲んでいた。


 「マウスちゃん。君の物語はこれからさ。私と、あと2人いいメンバーがいれば、きっと女神エレクトラにたどり着ける。私が保証するよ」


 マジョは全く酔っているようには見えないけど、上機嫌だ。いつもより優しく語りかけてくれた。


 このマジョも悪くないな。


 てかマジョって、酔うといつものマッドサイエンティスト風の話し方じゃなくなるんだな。


 「ラックとマジョさんって、それぞれすごくユニークな特長を持ってるから、あと2人ユニークなメンバーが集まれば、本当にすごいことになりそうだね。そうなったらウチの会社からどんどんいい依頼を回すから。よろしくね」


 「ああ、次のメンバー探さなくっちゃな」


 ミッキーも上機嫌だ。ほんとありがとねミッキー。


 ハイはユウと何やら話している。聞こえないが、どうせハイが俺の悪口言ってんだろう。


 その時、いきなり俺のクビがテーブルの外側に瞬間移動した。


 「おう、ラック。初冒険だったらしいじゃねぇか。いよいよお前もいっちょ前のスタード冒険者だな。歓迎するぜ!」


 気づいたら、俺はガイの右腕に羽交い締めにされていた。


 イタタタタ! 相変わらず、なんつー馬鹿力だよ。


 「うぉっ。おいおい苦しいって、ガイ。ゴホっ。でもありがとな」


 「おう、こいつは俺からのおごりだ。一気に飲めラック!」


 そう言って俺から腕を外すと、ガイはもう片方の腕で俺の机の上に酒樽をドンと置いた。


 「ありがとなガイ! おーし、いっくぞー!」


 俺は両手で樽を持ち上げて、思いっきり飲む。


 ゴクゴクゴク。ぷはーっ。


 「うめぇー」


 「がっはっは! またなラック!」


 そう言ってガイは自分の席に戻っていった。相変わらず豪快だな。


 「ラック、パーティーメンバーが決まったらしいな。これから俺たちは真の冒険仲間だ。お互いに頑張ろう」


 そう言ってクロが俺たちに近づき、俺にシュワーをついでくれた。


 向こうではミドリたちがジョッキをあげて乾杯のまねをしてくれている。


 「ありがとうな、クロ。これからもっと頑張るから、また色々教えてくれよ。」


 そう言った次の瞬間だった。


  バシャ! ガラッガラーン!! 


 酒場内の一番奥のテーブルでジョッキが落ちる音がしたのは。


 「てめえなんざクビだ! 二度と俺らの前に顔を見せるな、この穀潰し!」


 「待ってくれえぇぇ。ちゃんと働くからあぁぁ」


 なんだなんだ、飲みの席のトラブルか?


 「一体何があったんだ?」


 冒険者の店だし、荒っぽい奴が多いからケンカはよくあるけど、これはただ事じゃないぞ。


 「すまんな。ちょっと行ってくる」


 クロは俺たちのもとを離れ、騒ぎがあった方に移動した。


 クロはこの町の冒険者の顔役だ。何事か確認しに行ったんだろう。


 俺たちは話をやめ、言い争っている席の方をのぞいてみた。


 まあ、酒場のケンカって正直わくわくするよな。人の見てる時だけだけど。


 見ると、パーティーらしき3人の男女がテーブルの周りにいる。


 その中で戦士風の男、確かギルって言ったかな。


 そのギルがテーブルから少し離れたところにいる大男に、シュワーの入ったジョッキ(この世界じゃ木製な)を投げつけたみたいだ。


 大男は俺より後にスタードに来た男で、詳しいことはよく知らない。


 大男は両手をびしょ濡れの地面につき、頭を下げている。


 「ふざけるなよ! お前が力に自信があるって言うからパーティーに入れてやったのによ。今まで5回冒険に行って1回も魔物に攻撃が当たりゃしねぇじゃねえか! しかも、盾を持たせても痛い痛いって言って話にならねぇし。お陰で俺らはクエストが消化できずに金に困ってんだよ! 目障りだから早くどっか行きやがれ!」


 ギルが大声で大男を罵倒している。


 「ごめんよおぉぉぉ。次はがんばるからぁぁぁ」


 大男はひたすら謝るだけだ。こんな体大きいのに何でそんな弱気なんだ?


 「5回冒険に行って1回も攻撃が当たらないって言ってたな。おいおい、呪いか何かでもかかってんのかよ」


 俺は率直に思ったことをつぶやく。


 すると、顔役のクロが2人の間に入った。


 「ギル、食事の席だ。みんな注目してるぞ。そのぐらいにしてやれ」


 ギルは収まらないといった様子でまくしたてる。


 「でもよう、クロ。こいつのせいで俺らはクエストが失敗続きなんだ。これじゃ生活できねぇからよう。何とかしてくれよ」


 気がついたらみんながこのテーブルの周りに集まっている。


 酔ってるやつらは「おお! いいぞもっとやれー! ガハハ」なんて言ってる。まあガイ達のことなんだけどな。あいつら面白ければ何でもいいんだろ。


 クロはギルの黙って話を受け止め、ふむ、と一息ついた後に話を始めた。


 「2人の考えは分かった。パワーはパーティーに入って5日目って話だったな。なら、まだ試用期間のはずだ。ギルたちに合わなかったということで、パワーはギルのパーティーから離れるんだ。ギルもこれ以上パワーを責めるな。お前たちにはそれぞれふさわしいパーティーメンバーを斡旋できるよう、俺が責任を持って努力しよう。マミーにも相談しておく。だから、今日はもう帰れ。わかったな」


 クロってほんと、なんて言うか立派だな。人のために動く男って感じだし。


 クロの言葉一つで、2人とも騒ぐのをやめたしな。


 「ふん。クロがそう言うなら仕方ねぇ。これ以上言うのはよそう。これまでのことも水に流してやる。けど、二度と俺たちに近づくんじゃねぇぞ、パワー」


 そう言って、ギルたちは酒場から出て行った。


 パワーと呼ばれた大男は声を上げず悔しそうに地面に向かって手をつき泣いている。


 「うぐっ、うぐっ、うぐっ」


 「なんでい、もう終わったのかよ。つまんねぇな。飲み直すか!」


 「クロはさすがだな。トラブルをさっと解決するんだからな」


 そんなことを言いながら、冒険者達は元の席に戻っていった。


 まあ最初の発言は想像通り、ガイたちだけどな。あいつらはもっとケンカを見たかったんだろう。


 俺とマジョとミッキーも元の席に戻った。ハイとユウははあまり今回の騒ぎに興味なかったらしく、2人で仲良く話をしている。


 その時、俺は見逃さなかった。ユウがハイにあーんとスプーンを差し出して、ハイが恥ずかしそうに食べたのを。


 机に戻った俺がからかってやろうとするが、ハイが殺すぐらいの勢いで俺を睨んでいる。


 うっかりからかったりしたら、とんでもないことになりそうだと感じた俺は、急いでハイから目をそらした。


 席に座り、シュワーを飲みながら、俺とミッキーはさっき起こったことを振り返った。


 「なあミッキー。ここじゃ時々冒険者のケンカがあるけどさ、さっきみたいなパーティー内のトラブルって多いの?」


 ミッキーは腕組みをする。それもまた可愛いんだよな。


 「うーん、あることはあるけど、大体パーティーでうまくいかないときは、酒場に来る前にギルドで話がまとまってるからね。どうしてもこじれるときはギルドマスターが仲裁に入るし。今回みたいに酒場で暴れてクロが仲裁に入るっていうのは、本当に珍しいよ」


 そうなのか。あいつら、よっぽどこじれてたんだな。


 「そういや、俺まだスタードのギルドマスターに会ったことないんだけど。ミッキーはあるの?」


 ミッキーは頷いた。


 「うん。マスターのマミーはあんまり表に出来ないし、力のあるパーティーとしか話をしないしね。あ、私はキャラバン作るときに最初からマミーに相談して、ギルドとうまく棲み分けするようにしたんだよ。だから私は知り合いだけど、ギルドの仕事の大抵のことはアンがやっちゃうんだよね。アンはああ見えて凄腕なんだよ。だからマミーはなかなか出てこないね」


 アンがすごいのは分かった。いろんな意味ですっごいからなー。


 つーか、俺は弱いからマスターに相手にされてないってことだよな。


 その時だった。騒動が始まってからずっと沈黙を貫いていたマジョが口を開いたのは。


 「マウスちゃん、彼がいいんじゃないかい。うちのパーティーの攻撃役にねぇ」


 「ん? 誰のことだ?」


 マジョがいきなり話し始めたので、一体誰のことを指して言っているのか分からなかった。


 そんなやついたっけ?


 「言っとくけど、上級職ですごく強い冒険者以外お断りだぞ。そんな奴いたか?」


 我ながらめちゃくちゃ偉そうなことを言ってるけど、それぐらいの奴が来ないと俺の目的である女神エレクトラへの復讐は果たせないはずだからな。


 すると、マジョはすっと指を差した。


 「あそこにいるじゃないかい。上級職でものすごく強いのは。彼だよ」


 マジョが指さす方を見てみると、手を地面について未だに泣いている大男パワーがいるじゃないか。


 「はあ? お前ふざけてるのか? あいつ5日冒険して攻撃が1回も当たってないんだぞ? しかも、防御役をやっても痛いって言って使い物にならない奴だ。冗談だろ?」


 「マウスちゃん、私が冗談を言うように見えるかい?」


 マジョは真顔のままだ。この表情の時のマジョは強い意志を持っている。そもそもマジョって冗談言わないしな。


 つまりマジで言ってるってってことか。


 「あいつが上級職で強い? どういうことだよ」


 マジョはふっと笑う。


 「それには彼をこちらに呼んで話すのが早いだろう。どうだい、一度話してみるくらいはいいんじゃないかい」


 「それぐらいはいいけどさ。やっぱ無理ってなったら無理だからな」


 マジョは頷いた。でも、表情は確信に満ちている。


 「ああ。君が直接話して無理だと判断したらそれでいいだろう。君がこのパーティーのリーダーなのだからねぇ」


 「うん、マジョさんの言うこと分かるかも。なんて言うか、パワーってラックとちょっと似てるんだよね」


 ミッキーまでもマジョに同意してきた。


 ていうかあいつと俺が似てるってどういうこと? どこがどう似てるってんだよ。


 俺ってもしかして、周りから見たらあんなにポンコツってことか?

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