第12話 勇者一行の旅立ち! でも、こんなはずでは……

 ようやくメンバーが決まった僕たち勇者パーティーは、王都で武器や防具を調達した。


 僕の武器は大剣だ。当然だろう。僕は聖剣スキル持ちの勇者だからね。


 王都でも最も権威のある鍛冶屋でオーダーメイドで作ってもらったものだ。


 もちろん、性能や材質は僕が装備できるものの中で最高のもの、希少金属のミスリル製だ。


 防具も、ミスリル装備一式をそろえた。軽くて攻撃力や防御力が高いからね。


 かなり値が張るらしいが、お代は全てアンカールド王家持ちだ。これもまた当然だろう。


 柄や刀身には勇者の証として聖剣の装飾を入れてもらった。なかなかのものだ。


 「お似合いですよ、勇者様」


 鍛冶師が言う。当然のことだ。


 「どうだい。勇者たる僕にふさわしいだろう」


 僕は剣を構え、パーティーメンバーに対し胸を張った。


 「さすがはユウだ。似合っているのは当然として、既にこの世界で最強だろう」


 ゴウが僕を褒め称える。いつもありがとうゴウ。君がいればきっと全て成し遂げられる。


 「ほんと似合ってるよ、ユウ君。かっこいい」


 ジュウが言う。まあジュウの意見など求めてないのだが、そう言うのも仕方がないだろう。


 何せ僕だからね。全てが似合ってしまうのさ。


 ただし、サクは無表情だった。


 「どうだい、サク?」


 サクの表情はやはり変わらない。


 「似合ってるんじゃないの? ただ、実用性はイマイチだと思うけどね、ククッ」


 「何?」


 僕は思わず声を上げた。


 しかし、ここで言い争っても仕方ない。現地民との価値観の違い、ということだろう。


 「まあ、サクは耐久面が不安なんじゃないか? ミスリル製品は攻撃力や防御力が高い反面、耐久性にやや難があるらしいからな。でも大丈夫だ。ユウへの攻撃はこの大盾で全て防ぐからな」


 そう言ってゴウは鉄製の大盾を持ち上げた。


 非情に分厚く、相当重いはずだ。


 しかし、普段から体を鍛えていたゴウにとっては何ともないようだ。さすがはゴウだな。


 鎧兜も重い鉄製で統一している。自分が攻撃を受ける前提の装備だ。


 「ゴウの装備も素晴らしいな。敵の攻撃がほとんど通らないんじゃないか」


 ゴウは穏やかに首を振る。


 「まあ、全て無傷とはいかないだろうが、心配するな。お前達に傷をつけることはないと約束しよう」


 残りの2人は魔法系のため薄い服を着ている。


 ジュウは純白のローブを羽織っている。そして、回復効果が高まるという白い羽の帽子をかぶっている。


 「どう? 似合うかな? ユウ君」


 「フン。ああ、いいんじゃないのか」


 長旅では汚れそうだが、自ら希望したらしい。


 いかにも僧侶という感じだが、勝手にしろと言いたいところだ。


 一方、サクは相変わらず変な学生服のまままだ。


 どうやらこの学生服には相当の魔力が込められているらしく、魔法の威力が増すため服を変える気はないようだ。


 「装備はこのままでいいのか、サク。王家の予算で作り放題だぞ」


 サクは興味なさそうにしている。


 「ヒヒッ、私はこの服が一番力出せるんだよ。心配は無用さ」


 相変わらず、なぜいちいち笑うのか理解できない。黙っていればいい女なのだがな。


 「よし。装備もそろったことだし、必要な道具もそろえた。では、魔都ハイルランドに直接攻め込んで、魔王を倒そうじゃないか」


 「おう!」


 「うん!」


 2人から威勢のいい声が返ってきた。しかし、サクからは何もない。


 「サクどうしたんだ。なぜ返事をしないんだ?」


 サクは、はあーっと息を吐き話し始めた。


 「ヒヒッ。あのさあ、魔都ハイルランドに直接攻め込むって言ってるけど、一体どうやって攻め込むのさ?」


 何を言っているんだこいつは。


 「僕たちは勇者パーティーだ。もちろん、正面から正々堂々と、だ」


 僕がそう言うと、更にサクの表情が暗くなる。一体何なんだ。


 「ヒヒッ。君たちはこっちに来たばかり知らないだろうけど、王都から魔都ハイルランドに直接行くのは、ものすごく難しいんだ。まず、どのルートでいくつもりだい?」


 どのルートだと? 正面から攻める以外に何かあるのか?


 「ふむ。そのルートってのを教えてくれないか。それを聞いてから考えればいい」


 ゴウが丁寧に応じる。


 さすがはゴウだ。人間ができているから、こんな失礼な言葉にも冷静に応答できるのだろう。


 「ヒヒッ。じゃあ説明するけど、そもそもここ王都から魔都ハイルランドに直接行く方法は2つしかないんだよ。王都と魔都の間には天竜山脈っていうとても高い山脈があるのさ。1つ目は、その山脈を越える。2つ目は、その下にある天竜の断崖という、長くて大変な洞窟を突破する。そのどちらかしかないんだよ」


 なんだ。たががそんなことか。


 たとえどれほど大変だろうとも、僕たち勇者パーティーには隙がない。必ず踏破できるだろう。


 「天竜山脈を越えるルートには、何か魔物がいるのか?」


 ゴウがサクに訪ねる。確かにそれは気にならなくもない。


 「ヒヒッ、天竜だよ。高い知性を持っていて、最も神に近い魔物と言われている。もちろん、ステータスも桁違いと聞くし、強いなんてもんじゃないよ。天竜山脈の高所は天竜が縄張りにしているんだ。天竜に勝てるパーティーなんて多分アンカールド王国内には存在しないよ。噂では、高レベルの魔族の中には天竜を従える術を使う者もいるらしいけどね。山脈を越えるだけで少なくとも2週間はかかるはずだ。高所だし普段の力が出せない点も難しいところだよ」


 サクは続けざまに言う。


 「ヒヒッ。ついてに言っておくと、天竜の断崖はとにかく長い洞窟で、歴史上これまで踏破したパーティーは数えるほどだよ。少なくとも1ヶ月はかかる上に、魔物のレベルと発生率が段違いに高いんだ。さすがに天竜は出てこないけど、1ヶ月補給もなしに突破するのは相当な力がないとまず無理だろうねぇ」


 僕は即座に声を発した。


 「ふん。それが何だって言うんだ。僕たちは勇者パーティーだ。レベルは最初から20もあるし、ステータスも現地のアンカールド民とは桁違いだ。スキルも装備も最高のものが揃っている。僕には怖いものなどないんだよ!」


 サクはそれを聞いても、苦笑いをするだけだった。


 こいつは本当に勇者パーティーの一員なのか? 自覚が足りないんじゃないか。


 「ふむ、聞く限りだと確かに厳しそうではあるな。だが、俺たちは勇者パーティーだ。困難であればあるほど本来の力を発揮するはずだ。そうだろうユウ」


 ゴウが力強く述べる。


 「その通りだよゴウ。僕たちに突破できない苦難はない。なぜなら僕は勇者として、この世界に伝説を作るために来たんだからね。この世界の人々がなし得なかったことをやってのけてこそ勇者というものだ。それに、ドラゴンを倒せずしてなぜ魔王が倒せるだろう」


 僕の話を聞いたゴウとジュウの目は輝いている。


 一方でサクははあ、大きくと息を吐いた。


 「よし。天竜山脈を登って天竜を討ち取り、その勢いで魔都に侵攻し、魔王を倒すぞ!」


 「おう!」


 「うん!」


 「ヒヒッ、しょうがないね。私は忠告したからね。まあ、引き受けてしまったからには死なない程度にはやるとしようか」



 こうして、俺たちは魔王領への最短距離を選択し天竜山脈に入った。


 途中までは馬車で送ってもらったが、五合目からは徒歩での移動となる。


 標高が上がるにつれて寒くなり、1日の進行速度は遅れるようになった。


 俺たちは男用と女用の二つの魔法テントを立て、その日は泊まることにした。


 「うん。極めて順調だ。この調子でいけば10日で踏破できそうだね」


 「ああ、順調そのものだ、ユウ。このまま魔王城へと一直線に進もう」


 その夜、僕はジュウを呼び出した。


 なぜって? 僕も年ごろの男子だからね。そういう欲求があるってことだよ。


 それに、ジュウは僕には絶対に逆らわないからね。


 心の赴くままに行為後、ジュウを素早く帰らせた。


 行為が終わればジュウは不要だ。今だけ、それも僕の気の向くときだけの関係だからね。ジュウも喜んでいたしね。


 サクもいずれ誘ってみたいが、今の感じではおそらく無理だろう。


 まあいい、旅は長い。いずれそういうときも来るはずだ。僕の魅力に抗えるはずはないからね。


 その後も何日も登山を続けた。


 次第に寒さは増し風は強くなり、物資が少なくなっていった。だけどあともう少しで山脈を越えそうだ。


 「ヒヒッ。そろそろ出るかもしれないから、注意だけはしておくんだよ」


 サクがそう告げる。これまでも魔物との戦闘はあったが、全て簡単に片付けてきた。


 それもそのはずだ。僕たちは選ばれし勇者パーティーなのだから。


 その時だった。全身金色の体毛に包まれた、とんでもなく大きいドラゴンが空に現れたのは。


 大きさは20メートルぐらいだろうか。昔、アニメやゲームで見た飛行型のドラゴンそのものだ。


 ドラゴンの目からは明らかな知性を感じる。


 『誰に断ってここを通ろうとしている。ここは我ら天竜の支配する地。それを荒らそうと言うのならば、命はないと思え』


 天竜は生意気にも僕たちに警告を発した。ふざけるなよ!


 「貴様、ドラゴンの分際で言葉を発するのか。お前の言うことなど聞くわけがないだろう。我らは勇者パーティー。魔王を倒す者だ。まずは、お前を倒してやろう」


 そう言うと、僕はミスリルの大剣を引き抜いた。ミスリルには魔物特攻の特性がある。


 ゴウは大きな鉄盾を空に向けて構えた。ジュウとサクは盾の下で既に呪文を唱えている。


 『勇者? 魔王を倒す? なんと愚かな。この世界の真実を何も分かっていないのだな。我らに立ち向かうのならば、死をもって己が身の無知を償うがいい。極炎!!!』


 そう言うと、天竜はいきなりブレスを放った。巨大な炎の玉だ。


 ブレスは一直線に僕たちに向かってくる。


 「ブレスガード!」


 ジュウがゴウに補助魔法をかける。僕たちはゴウの盾の下に身構えた。


 ゴオッッッッッッ!!!


 その瞬間、ものすごい衝撃が僕たちを襲った。


 気がつけば僕たちは10メートルほど後方の雪に叩きつけられた。


 僕は意味が分からなかった。ゴウが身構えたんだぞ。


 幸い、ゴウの防御と雪のクッションのお陰でダメージは多くない。


 しかし、あの一撃をくらった僕たちは、足がすくんでしまった。


 ゴウは何とか立ち上がって盾を構えたが、盾は半分ほど溶けていた。ゴウはかなりのダメージを負っているようだ。


 「大丈夫か、ゴウ!」


 「あ、ああ。大丈夫、だ」


 「ジュウ、ゴウを回復だ!」


 「うん!」


 「ヒヒッ、だから言ったでしょうが。天竜と戦うなんて無謀だって。今なら逃げられるから、さっさと下山するよ。引き際を間違えたら本当に死ぬからね、ヒヒッ」


 何でこいつはこんな時に笑っていられるんだ。


 「ふざけるな。僕は勇者だ。天竜ごときに臆してどうする。この一撃をくらえ!」


 そういうと、僕は地面を蹴った。『剣聖』のスキル、超跳躍だ。


 天竜の裏手を取った僕は、最強のスキルをお見舞いする。


 「聖剣、エクスカリバー!!!」


 決まった! 


 はずだった。


 「10ダメージ」


 は? 何の冗談だ? 最強のスキルだぞ?


 「何と愚かな。自分と相手の力量差も分からぬとは。消え去れ下衆ども!」


 そう言った瞬間、僕は天竜の尾に打たれ、気を失った。


 ドッ!


 「ユウ!!」「ユウ君!!」「だから言ったでしょうが……ヒヒッ」





 気がついたときには、俺は粗末なベッドで寝ていた。


 僕の周りにはゴウとジュウがいた。


 「ユウ! 目を覚ましたか! 良かった……」


 「ユウ君! 良かった……良かった…」


 2人とも涙を流している。


 「大丈夫か、ユウ。お前がもしいなくなったらどうしようかと、心配で眠れなかったんだ」


 ゴウは目にくまができている。


 「私も、ほんとに心配したんだよ、ユウ君……」


 ジュウは涙が涸れきったといった表情をしている。


 聞くと、僕が天竜に尾で殴られた後、ちょうどゴウの前に飛んできたらしい。


 ゴウは何とか僕を受け止め、そのまま全員で退却したということだった。


 僕のHPは限界ギリギリで、ジュウが夜通し回復魔法を唱え続けて3日後の今日に僕は目覚めたらしい。


 体中が骨が折れたように痛い。


 僕にはこの状況を到底受け入れることができなかった。


 「なぜ。なぜなんだ。僕は最強のスキルを持った勇者で、勇者パーティーは最強のはずだ。今頃魔都について、魔王と一騎打ちをして倒していたはずなのに。なぜこうなるんだ」


 僕は悔しさに唇をかんだ。ドラゴンごとき、一刀のもとに切り捨てるんじゃなかったのか。


 すると、サクが入ってきた。サクはあきれ顔だ。


 「ヒヒッ。少しはアンカールド人の忠告も聞いてほしいねぇ。魔都に入るのは簡単じゃないんだ。まずは、南西のガードンから入っていくのをおすすめするよ。私たちの今の力じゃ、天竜山脈越えどころか、天竜の断崖も到底無理さ」


 何を言っている。僕に逃げろというのか。


 「ユウ君、どう?」


 ジュウまでもが僕に逃げの選択肢を取れというのか。


 「君は僕を回復していればいいんだ。余計なことを言うな」


 そう言うとジュウは黙った。


 遠回りして魔王領に入るなんて、そんなことは僕のプライドが許さない。


 「ユウ。おまえが動けるようになったら、いったん王都に戻って体勢を整えよう。そして次は、天竜の断崖の攻略、そうだろう」


 ゴウ。やはり君は、僕の唯一にして最高の親友だ。


 「ゴウ。君の言う通りだよ。天竜には手こずってしまったけど、今度は違う。正々堂々、正面からダンジョンを攻略し、魔都ハイルランドに侵攻するんだ」


 それを聞いたゴウは本当に嬉しそうだ。


 「その通りだユウ。君は選ばれし勇者だ。それでいいんだ」


 さすがは僕の相棒だ。僕のことを全てわかってくれている。


 「ヒヒッ。私はなぜこのパーティーにいるんだろうね。無謀だと思うけど、聞く耳もないし困ったものだね、ヒヒッ」


 サクだけは相変わらず不満を述べている。


 まだそんなことを言っているのか。天竜山脈の件は例外で、もう終わったことだ。


 これからだ。これから、僕の勇者としての伝説が始まるんだ。


 なぜなら、僕は選ばれし人間なのだから。


 全く動かない体にイライラしながらも、僕はしばらく横になっているしかなかった。


 結局体が動けるようになったのは目が覚めて10日後のことだった。


 俺たちは、王都への道のりを重い足取りで帰って行った。


 こんなはずじゃ、なかったのに……。

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