約束という希望
OROCHI@PLEC
君との約束
この名前を聞くといつもあの約束を思い出す。
世界にとっては何でもないある日。
僕にとっては胸が締め付けられる様に悲しい日。
遠い所に引っ越す君と僕はある約束を交わした。
「また会おう」と。
幼い時に交わした君との約束。
僕は大学生になった今でも覚えている。
だが、その約束はまだ果たされていない。
もう君は約束を覚えていないかもしれない。
でも僕は約束が守られることを信じている。
約束とは、残酷で虚しい。
約束は希望となるからだ。
その約束が嘘だったとしても、叶わないものだったとしても、それは光となるのだ。
辿り着かない、虚構の光に。
その光は僕を捕え続ける。
中学校でいじめられた。
死のうと思った。
でも、死ねなかった。
約束があったから。
高校では勉強面や、運動面、全てにおいて周りに追いつけなくなった。
死にたかった。
でも約束の所為で死ねなかった。
大学生になった。
ある女の子と会った。
「隣の席良い?」
彼女の名前は、
彼女とはすぐに仲良くなった。
まるで前から知っていたかの様に。
そこから人生が変わった。
いつの間にか彼女と話すことで、少しずつ話すのが好きになり、友達ができ、彼女を好きになった。
「テスト見せて〜」
「やだ〜。見せるの恥ずかしいから」
そんな他愛のない話が好きだった。
そしてまた一年が過ぎ、彼女は恋人となった。
大学生活は彼女も出来て、友人もできて幸せだった。
生きていて良かったと思えた。
でも僕はまだ約束のことをずっと思っている。
今になっても僕が生きるただ一つの理由だからだ。
何故あの約束に固執するのかは分からない。
そしてまた十年が経ち、僕はとある企業に就職し、彼女との恋人という関係は結婚という関係になった。
そして今になる。
ある日の夜。
二人で酒を飲みながら彼女に話す。
「昔ね、僕はある約束をしてね……」
話終わった後、彼女は言う。
「それは良かったね。その約束のお陰であんたが生きていられたのなら」
「ところで……まさかまだ気づいていない?」
君がそんな事を言う。
「何が?」
「私ね、昔親が離婚してるのよ。それで、私の羽奏の前の性が夢見」
「……嘘だろ? でも名前が違うじゃないか」
「最初ね、あんたが気づくかどうか試そうと思って偽名で近づいたのよ。本当の名前は希奈。すぐ気づかれるかなって思ったけど気づかれないで、そのうち気づいてるけど黙ってるのかなって思ってそのままにしておいたけどまさか気づいていなかっただなんて……」
「いや、気づくわけないだろ!」
「気づかないの? あんたがテストを見せてっていった時も名前見られない様に見せていなかったし、婚姻届だって見せない様にしてたんだけど……あんた鈍感すぎるでしょ!」
「いや……分からんよ」
「まあ、私の名前は夢見希奈。つまりあなたの約束はずっと前に果たされていたって言う事」
驚きと安心感と共に絶望を覚える。
これでやっと約束は果たせた。
だが、その約束は僕の唯一の希望だった。
これからは何を頼りに生きていけば良いのか。
彼女が言う。
「なんか約束がなくなって残念っていう顔してるね」
……図星だ。
「ふふ、じゃあ私ともう一回約束しよ。死ぬまで一緒にいるって」
声高に言うが、耳が赤くなっている。
そんな君が愛おしくて返事をする代わりに彼女を抱きしめる。
甘い香水の香りが鼻をくすぐる。
手から伝わってくる感触は柔らかく、温かかった。
こんな日常がずっと続けば良い。
ああ、そうだ。
きっと僕があの約束に固執していたのは、君のことが好きだったからだ。
僕が気づいていなくても、心が気づいていたのだろう。
君が希奈だということを。
だから僕は君だと知らなくても不思議なほど、君が好きで、愛していた。
夢物語だろうか。
夢物語でも良い。
僕は真実だと信じている。
物語はゆっくり溶けていく。
夢の様に。
僕はずっと君の側にいるだろう。
夢が終わるその日まで。
約束という希望 OROCHI@PLEC @YAMATANO-OROCHI
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