第16話 記録の終焉、始動

戦いが終わったと思った瞬間、空気が変わった。重い。冷たい。記録が震えている。

地面が裂け、地下から黒い霧が立ち上る。その中心に、男が立っていた。黒い外套。銀の瞳。


「黒の英雄、本体――クロノ」


カイが呟いた。


「奴は、かつて“最初の記録管理者”だった。記録の番人を創った張本人だ」


俺は、言葉を失った。クロノは、ゆっくりと歩み寄る。


「レン。お前の笑顔は、世界を歪める。だから、私は“記録の終焉”を始める」


「終焉……?」


「記録は、感情を保存する。だが、笑顔は“感情の暴走”を引き起こす。お前の妹も、それで壊れた」


俺は、拳を強く握りしめる。


「俺の笑顔が、誰かを壊した。それは、俺の罪だ。でも、お前が記録を消す理由にはならない」


クロノは微笑んだ。


「記録は、秩序だ。だが、笑顔は秩序を乱す。だから、私は“笑顔の記録”を世界から消す」


その瞬間、地下記録領域が開かれた。そこには、数千の記録端末が並んでいた。すべて、“笑顔”の記録。


「これが、世界中の“笑顔”の記録だ。私は、これを消去する」


カイが叫ぶ。


「ふざけんな!それは、誰かの希望だろ!」


クロノは言った。


「希望は、絶望の前兆だ。笑顔は、感情のピーク。だから、壊れる。だから、消す」


俺は、剣を構えた。


「なら、俺が守る。笑えなくても、守れる」


クロノは、手をかざした。記録が、黒く染まる。“記録の終焉”が始まった。笑顔の記録が、次々と消えていく。その中に、妹の記録もあった。


「やめろ……!」


俺は、叫んだ。でも、笑えなかった。クロノは言った。


「お前が笑わない限り、記録は守れない。だが、笑えばまた誰かが壊れる」


俺は、迷った。笑えば、誰かが傷つく。笑わなければ、記録が消える。そのとき、カイが俺の肩を掴んだ。


「レン。お前の笑顔は、誰かを壊すかもしれない。でも、それでも――誰かを救うんだ」


俺は、震えた。そして、少しだけ――口元が、動いた。クロノが止まった。


「……それが、お前の答えか」


俺は、言った。


「俺は、笑えない。でも、笑おうとする。それが、俺の戦いだ」


クロノは、背を向けた。


「ならば、記録の神域で待つ。お前の笑顔が、世界を壊すかどうか――そこで決着をつけよう」


そして、彼は消えた。記録の終焉は、始まったばかりだった。

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