第15話 笑えないまま、戦場へ

レンは、笑わなくなった。妹の記録を見て、自分の笑顔が誰かを壊していたことを知った。

それ以来、あいつは笑わない。でも、俺は知ってる。

あいつの笑顔は、誰かを救ってきた。俺も、救われた一人だ。

だから、俺は――あいつを殴ってでも、笑わせる。


第三区の旧記録管理局跡地。そこに現れたのは、“黒の英雄”。

感情を否定し、記録を破壊する異能者集団。彼らの目的は、“笑顔の記録”の消去。


「笑顔は、偽りだ。記録に残す価値はない」


そう言い放ったのは、黒の英雄の一人、“クロウ”。

彼の手には、妹の記録の断片があった。


「これは、君の妹の“泣き顔”だ。記録管理局はこれを隠していた。君の笑顔が、彼女を壊した」


レンは、無言で近くに置いてある剣を拾い、抜刀する。笑わず、叫ばず、ただ斬る。

その姿は、まるで感情を捨てた兵器だった。


「レン!お前、それでいいのかよ!」


俺の声にも、あいつは振り向かない。クロウが感情兵器を発動する。

“笑顔の記録”を強制的に流し、戦意を奪う。周囲の仲間が次々と倒れていく。

でも、レンだけは耐えた。笑えないから。


「笑えないことが、武器になるなんてな……皮肉だな」


俺は、あいつの背中に叫んだ。


「でもな、レン。お前の笑顔は、誰かを壊すためのもんじゃねぇ。誰かを“繋ぐ”ためのもんだろ!」


クロウが俺に向かって言った。


「君も、笑顔に縛られていた。妹を守れなかった過去があるだろう?」


俺の記録が流れる。妹が、笑っていた。そうだ。俺にも妹がいた。でも、俺は守れなかった。

笑顔の記録だけが残って、彼女の“本音”は消えた。俺は、レンと同じだった。


「俺も……笑えなかった時期があった。お前の笑顔に救われたんだよ!」


レンが、振り向いた。初めて、目が揺れた。


「カイ……」


「お前が笑わないなら、俺が殴ってでも笑わせる。お前の笑顔は、誰かの檻じゃない。誰かの“出口”なんだよ!」


クロウが笑った。


「ならば、君の笑顔も壊してやろう」


感情兵器が暴走する。妹の記録の断片が、空中に浮かぶ。

そこには、泣き顔の妹が映っていた。


「レン。あなたが笑ってくれたから、私は“笑顔の妹”になれた。でも、本当は――泣きたかったの」


レンは、涙を流した。でも、笑わなかった。それでも、前を向いた。俺は、隣で笑った。

それが、俺たちの答えだった。


……レンは、異能のおかげで笑えば強くなる。だから笑うことに固執してた。そして笑顔が好きだったから、笑ってたはずだったのに。



◇◇◇◇


みなさま、いつもありがとうございます。

おかげさまでレビュー(⭐︎)20まで達しました。

これからもよろしくお願い致します!

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