第10話 夢の中の声

『お前、最近夢で笑ってないだろ』


あの日、カイに言われた言葉が、ずっと頭に残ってる。俺は誰にも夢の話なんてしてない。なのに、あいつは知っていた。今日、放課後。俺はカイを屋上に呼び出した。缶コーヒーを差し出すと、あいつは無言で受け取った。風が強かった。空は曇っていた。


「なあ、カイ。お前、なんで俺の夢のこと知ってたんだ?」


カイは缶を開けて、一口飲んだあと、ぽつりと答えた。


「俺の異能、夢に干渉できるんだ。正確には、“他人の夢を記録として見る”ことができる」


俺は言葉を失った。夢を“記録”として見る?


「お前の夢、最近ずっと無表情だった。昔は、妹と笑ってる夢ばっかだったのに」


俺は、何も言えなかった。カイは、俺の“笑顔の記録”を見ていた。しかも、それが変化していることに気づいていた。


「夢ってのは、記憶の奥にある感情の残像だ。お前の笑顔が揺れてるってことは、記憶が揺れてるってことだ」


カイの言葉は、妙に冷静だった。でも、その目は、どこか悲しげだった。


「俺の妹も、夢の中で笑わなくなった。最後に見た夢では、泣いてた」


その言葉に、胸が締めつけられた。カイも、俺と同じだった。誰かを守れなかった。誰かの笑顔を失った。俺は、缶を握りしめた。


「俺の笑顔が揺れてるなら、どうすればいい?」


「記録を見直すしかない。夢の中に、何かが混ざってる。お前の記憶じゃない何かが」


その言葉に、背筋が凍った。俺の夢に、俺じゃない何かが混ざってる?意味は、分からない。ただ、コイツが言うってことは、きっと、嘘では無いんだと思う。

その夜、俺は意識的に夢を見ようとした。眠る直前、妹の写真を見て、笑ってみた。

夢の中。俺は、誰かに見られていた。顔は見えない。でも、確かに“視線”を感じた。そして、声が聞こえた。


「君の記憶は、君だけのものじゃない」


目が覚めたとき、胸が苦しかった。俺の記憶に、誰かが入り込んでる。カイの異能が、それを見抜いていた。

夢の中の声。それは、俺の記録を揺らす“何か”だった。

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