春を鬻ぐ
えいひれ
春を鬻ぐ
天井が揺れているのを見るのは今日で何回目だろう。
1年住んだ家の天井に信じられない大きさのシミがある事に先々月まで気が付かなかった。
「ありがとね」
余韻の残る生ぬるい温度の声に私は口角だけを上げて笑う。
頭を撫でられ、手に紙切れを三枚握らされ、バタバタと帰っていくのを見送る。
いつものように玄関の扉が閉まる音と同時に立ち上がりそのまま風呂へ向かう。
シャワーの勢いと共に汗も涙も流れていく。
シャワーを浴びる時だけは泣いていいと決めている。
この生活になってから自分に課しているルールだ。
こうしてまた明日からもこの世にしがみついて生きていく。
春を鬻ぐ えいひれ @raku416
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