第2話 戦友を求めて

時刻は夕暮れ。

王様の助言を快く受け取り、勇者行きつけの酒場で仲間を探すことにした。

勇者は入店後、慣れ親しんだ硬めのカウンター席に腰掛ける。


勇者

「マスター、この店で一番優秀な僧侶を紹介してくれ」


マスター

「いらっしゃい。

『一番優秀な僧侶』ってカクテルを探してるならウチにはおいてないよ」


勇者

「いや、優秀な人間の僧侶を探してるんだが」


マスター

「優秀な人材がこんな時間から飲んだくれてると思うのかい?

ここは、人材派遣会社じゃないんだぜ」


勇者

「じゃあ、なんでこんな時間からこの酒場はやってるんだ?」


マスター

「そりゃあ、あんたみたいな飲んだくれが酒を飲みに来るからだよ」


勇者

「しばきまわすぞ」


マスター

「おお怖、で何にする?

いつもの、水割りかい?」


勇者

「ウィスキーのロックで」


マスター

「どうしたんだ?

いつも水割りで、けちけち飲んでるのに、今日は景気がいいじゃないか。

給料日はまだだろ?」


勇者

「けちけち言うな、ちびちびな。

なーに、少し臨時収入があっただけさ」


マスター

「はいよ、ロックお待たせ。

あんたも俺の店が好きだねぇ」


勇者

「そのへらず口以外はな」


マスター

「まっ注文してくれるってんなら、その僧侶探しも、ちゃんと協力しないとな」


勇者

「どうだか」


マスター

「それで、どうして僧侶を酒場で探そうと思ったんだ?もう酔っ払ってんのか?」


勇者

「ちげぇわ。マスター今日の新聞見たか?

新聞に載ってた魔王を倒しに行く勇者ってのが俺だよ。そして、王様に酒場で仲間を探せと言われて来たんだ。」


マスター

「あぁ。あの、アホ王がいきなり言いだした魔王討伐の犠牲者がまさか目の前にいるとは。

くわばら、くわばら」


勇者

「なんだ、マスター話が分かるじゃないか。

ウィスキー追加。マスターの分もな。」


マスター

「まいどあり。それで、またなんで僧侶が仲間に欲しいんだ?

一緒に戦う戦士とかの方がいいんじゃねぇか?」


勇者

「別に魔王は俺が魔法でチャチャっと倒すから良いんだよ。

それに、僧侶は回復魔法が使えるだろ?

魔王討伐の道中で風邪とか引いたときに直して貰おうと思って。」


マスター

「それなら、薬草とかを携帯した方がいいだろ・・・はい、2杯目。

では、私も。勇者様ご馳走様です。」


勇者

「おう、パーっとやってくれ。

まず薬草なんて不味い雑草、誰が調子悪い時にわざわざ食べるかよ。

それに、俺は薬草が効かない特殊体質でね。」


マスター

「いや、薬草は煎じて飲めよ。

だから、効かねーんだよ。」


勇者

「ん?今なんか言ったか?」


マスター

「いえ何も。頂いてます。」


勇者

「さてどう探すか。

この酒場で最強僧侶トーナメントでもするか。」


マスター

「やめてくれ、ここは酒場だ。

勝負は飲み比べだけにしてくれ。」


勇者

「それもそうだな。

うーむ、どうしたもんか」


マスター

「あらあら、コップが寂しそうですぜ勇者様。」


勇者

「うるせぇ、いつも呼んでもなかなか来ないくせに。同じの追加」


マスター

「まいどあり、でどうするつもりなんだ?」


勇者

「ん?」


マスター

「いや、僧侶だよ僧侶。仲間を探しに来たんだろ?」


勇者

「あー、そういえばそうだったかもな。もう眠くなってきたんだが。」


マスター

「勇者あんた、何しに来たんだ」


勇者

「おかわりしに来た。同じの追加」


マスター

「ペース早くないか?

今日仲間見つける気ないだろ。ハイおかわり」


勇者

「どうもね。マスター俺決めたっ。

この店で一番酒強い僧侶仲間にする」


マスター

「なんでそうなる?

酒強いからって、優秀な僧侶って訳じゃないだろ」


勇者

「いいんだよ、優秀さなんてどうでも。

どうせ魔王討伐なんて誰が行っても魔法でチョチョイで勝てるんだから。」


マスター

「えらい自信だな。

もしそうだとしても、背中を預ける仲間なわけだろ?

優秀で信用できる奴を選んだ方がいいだろ」


勇者

「バカ言え。

優秀な奴があの王様の思い付きで任命された勇者と一緒に冒険しようと思うか?」


マスター

「うっ」


勇者

「でも天才の俺は気づいたんだ、まともな神経してる奴は、魔王討伐について来ようと思わない。なんせ、世界は平和だし魔王討伐なんて本来必要ないからな。」


マスター

「へーそーなんですねー。

あー燃えるゴミって火曜だったかな」


勇者

「だから、優秀な俺は考えた。

優秀な僧侶に酒をたらふく飲ませて酔ってる間に、仲間に就職させようとな。マスター聞いてるか?」


マスター

「あー聞いてます聞いてます。

あっいけね、回覧板まわし忘れてたな。速く回しに行かなきゃ」


勇者

「そのための協力をマスターにもして欲しい」


マスター

「あー、それは大変だぁ。

今日の夕飯は、チャーハンにするかな。」


勇者

「候補になりそうな僧侶を可能な限り集めてほしい。俺と世界の平和の為に」


マスター

「あーすごいすごい。

はぁ、今年こそは家族で温泉旅行にも行きたし貯金しなくちゃな~。」


勇者

「今夜この酒場で最強の僧侶を決める。

もちろんその酒代は全部俺が持つ。

何せ巨額の臨時収入が入ったからな。

手始めに僧侶探しの手付金とチップとして受け取ってくれ100万だ」


マスター

「あぁ、あなた様こそが真の勇者様です。

せんえつながら、この私めが勇者様のために全力で仲間探しにご協力させていただきます。

お任せ下さい」


勇者

「なんかさっきまでと、態度違くないか?

まぁ、よろしく頼むわ。俺少しここで寝るから、候補者集め頼むわ。よろしく頼むわ。」


マスター

「未来の英雄様の仰せのままに」


勇者

「ZZZ」


マスター

「こうしちゃいれねえ、さっさと町中の人間に声を掛けなくちゃ。呼べば呼ぶほど金になる。街の人間全部が金貨に見えるぜ。

おーい、ウェイトレスちゃん少し店番頼む。」


ウェイトレス

「マスターやけに上機嫌ですね。

もうお酒飲み過ぎですよ。」


マスター

「まだ、ウィスキーロック一杯だけさ。

ちょっと、街から金貨を連れてくるから店番任せたぞ。」


ウェイトレス

「マスターなんの話してるんですか?」


マスター

「今に分かるさ」


マスターは、ウェイトレスに店を任せた。

沈む夕日よりマスターは街を早く走り回った。

臨時収入と世界平和と、ついでに勇者の為に僧侶を探して。


勇者は、まだ知らない。

マスターの商売人としての手腕を。

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