第3話 魔王の親と、落語家の親な件
「そういえばさカノン……結果的にアンタを殺しちゃった私を恨んでないの?」
「恨む? とんでもないわ。私が魔王になってしまって、私の意思とは関係なしに世界を滅ぼそうとしてしまった。ユーシャが止めてくれなかったらワタシは世界を滅ぼしていたかもしれない。アナタが苦しんでいたのもわかったし……。許せないのはワタシを魔王に仕立て上げた……」
「ヘルベル神父か……」
私が異世界で目覚めた時の事を思い出す。
満身創痍の私はカーズ村の近くに倒れていた。こちらの……現実世界での私は病院に運ばれていたはずだから、今にして思うと魂だけが異世界に行っていたのだろうか。
とにかく大怪我をしていた私はカーズ村の教会で目を覚ました。
「ん……こ、ここは……?」
「良かった、お父様、目を覚ましましたわ」
目の前に私と同じくらいの歳で、金髪碧眼の美少女がいた。天使のお迎えかと思ったね。それがカノンだ。
教会のシスターをしていたカノンは回復魔法で私を治療してくれていた。
「おお、良かった。カノンの魔法で怪我は治ったがまだお疲れでしょう。旅のお人。ここを我が家と思ってゆっくりなさい」
優しそうな声で言ってくれたのは教会のヘルベス神父。孤児だったカノンを引き取り育てた義父でもある。
私達はヘルベル神父の教えで魔王討伐の旅に出た。仲間を増やし魔王を倒した……と思っていた。
ところが私達が最初に倒したと思っていた魔王が真の魔王を封印する存在で、実は魔王信仰していたヘルベル神父の罠だった。赤子だったカノンの身体に封印されていた魔王が目覚めてしまい、世界を滅ぼそうと暴れるカノンを私が倒す事になってしまったのだ。
「まさかあんな優しそうな神父が魔王復活を考えていたなんてね」
「お父様……ヘルベルはその為にワタシを育てていた……。そのせいで世界を……ユーシャごと滅ぼしてしまうところだったわ。世界がどうなったかわからないけれど……ワタシが、魔王カノンが討たれてきっと崩壊は止まったはず。それを止めてくれたアナタには感謝している。またこっちの世界で会えたしね♪」
そう言ってウインクするカノン改め紗音。夢と思っていたとはいえカノンをこの手にかけた事がずっと引っかかっていた。それが姿が変わったとはいえこうして再会できたのは素直に嬉しい。
「お父様と言えば……ユーシャのお父様はステキな人ね」
「あ、そうだ! 親父……師匠に話を聞かないと」
私の父であり師匠である夕立に今回の紗音の弟子入りを相談しなくちゃいけない。
落語家は真打になって初めて弟子を取ることができる。既に真打の私にはその資格がある。
ただ行く宛のない紗音を弟子に取るとなると、紗音は我が家に住み込みという事になる。私は父であり師匠の夕立と二人で暮らしているがもう一人同居人が増えるなら相談が必要だ。そもそも弟子入り自体を反対されるかもしれない。その時は……また改めて考えよう。
「ちょっと、親父―」
私の親父であり師匠の部屋の戸を開ける。ヲタクでゲーム好きの親父は朝からゲームをしていて背を向けていた。
「ねえ、親父さぁ」
「ダメだよ、僕らは親子である前に師弟なんだから。楽屋だけじゃなくて家でも師匠って呼ばなきゃ」
親父……師匠はゲーム画面を見ながらそう言った。それはそうだ。弟子になった日から親子関係から師弟関係に変わるんだ。
「そうですね……師匠」
「なんだい? 紗綾ちゃん♪」
やっと振り向く師匠。自分で言っておきながら弟子としてではなく娘としての名前を呼ぶ。この辺のユルさがこの人の親しみやすい所でもあるので私もつい親父と言ってしまう。
「いや、あの、この子の事なんだけど」
「おー、お弟子ちゃんね」
連れてきた紗綾を師匠の前に出すと笑顔で受け入れていた。
「弟子に取る事になって……いいの?」
「うーん、君はもう真打なんだ。弟子を取る資格はある。大分売れっ子になって忙しくもなるだろう。支えてくれる弟子の存在は大きいよ。僕も君には随分助けられた。それに弟子に教えていて逆に気付かされる事もある。君の更なる飛躍の為にはいいんじゃないかな」
師匠はそれっぽい事を言ってくれてる。それはもちろん正論なんだけれど……
「本音は?」
「金髪ロリッ娘の孫弟子とかサイコー!」
「やっぱそっちかぁ!」
親指を立てて言い切る師匠。もちろんさっき言ってた事も本音なんだろうけど……。
ヲタクな師匠的に実は異世界から来たって知ったらもっと喜ぶだろうな。流石に言わないけど。
「改めてよろしくね……えっと……」
「ワタシは紗音と名付けられました。お父様♪」
「お、いい名前だね。お父様……も捨て難いけど一応夕立師匠って呼んでね」
「一応かい!」
思わず突っ込んでしまう。ユルい師匠のおかげであっさりと弟子入りの許可が下り、紗音を引き取る事は丸く収まったかな?
「あ、そうそう。弟子に取ると言っても未成年の子を取るなら流石に親御さんと面接しないとね。それは大丈夫?」
「あ……えっと……」
流石にそこは突っ込まれたか。紗音が異世界から転生してきて、親はもういませんなんて言えないし……。どうしようとちらっと紗音を見ると。
「大丈夫です。数日中には保護者を連れてきます。ユウダチシショウ♪」
「うん、よろしくねー」
師匠の部屋を出て私の部屋へ戻る。紗音はなんだかご機嫌そうだ。
「ねぇユーシャ。アナタのお父様……ユウダチシショウってとってもいい人ね」
「まぁそれだけが取り柄だし、あの神父と比べたら……ってそうじゃなくて! 保護者って宛はあるの?」
「あー……どうしましょう♪」
そう言ってテヘペロする紗音。何も考えなかったのか……。
まずは紗音の保護者の代役を探さなくちゃいけなくなったけれど。金髪碧眼のロリっ娘で元魔王という事情を受け入れて保護者代わりになってくれる人なんて……いないだろ!
「どうしたもんか……」
紗音……カノンと再開できたのは嬉しいけどまだまだ手放しに喜べないでいた。
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