第2話 異世界の冒険は夢じゃなかった件
「えーと、つまり私が2年前に見た勇者になって異世界を冒険する夢は本当に会った出来事で、あなたはその時に仲間だった神官カノン……後に魔王として覚醒したカノンだと。倒さないと世界が崩壊するから泣く泣く私が倒したと思ったらあなたは転生の魔法を使った。私はこっちの世界に戻ってきて、カノンはこっちに転生したら子供になっていたと……そういうこと?」
「そ、説明ありがとう♪ そしてこれからよろしくねユーシャ! あ、シショウの方がいいのかしら」
「はぁ……」
私は日暮や夕紗。20歳の乙女であり落語家の真打だ。
2年前事故に遭い意識不明のになった。意識不明の間で異世界の勇者になり、その世界を救う夢を見た……と思っていた。
寄席で私がトリの興行の翌日、二日酔いで目を覚ますと金髪碧眼の美少女がいた。彼女はさっき私が言った通りかつての仲間で、後に魔王になったカノンが転生してきた姿だという。
「本当にあの旅は夢じゃなかったの? 未だに信じられなくて……」
「んー、思い出を話せばいいかしら。じゃあ私たちが最初に出会ったのはカーズ村。村の外に倒れていたあなたをワタシが教会へ連れ帰って介抱したのが初めてよ」
「そ、そうだ。目覚めたらとんでもない美人が介抱してくれたから天使かと思っちゃった」
「ヤダァ、天使だなんて。最初はおかしな事を言ってるなと思ったら異世界からやってきた事がわかって。言い伝えにある伝説の勇者様という事で旅に出たのよね」
「たまたま夕紗って名前だったから盛り立てられたのもあるけど……。夢だと思ってたからノリで行っちゃえってなったんだよなぁ」
「あとあと、ユーシャから初めてのプレゼントは精霊の指輪。ベクタ湖のほとりで渡してくれて、そこで初めてのキッスを……」
「わ、わかったから! 恥ずかしいからやめてー!」
夢だと思っていた異世界の冒険は現実だったらしい。私は2年前に交通事故に遭い異世界に転生……この場合は転移か……していたんだ。
ラノベでよくある展開だし私は完全に夢だと思ってノリノリで世界を救う旅に出てしまった。結構命懸けの旅だったけど夢じゃないなら死ななくてよかった……。
その旅の途中でこのカノンと恋仲になり、魔王に目覚めてしまったカノンを私が倒し、そして転生して子供になったカノンが目の前にいるわけだ。そのカノンは私の弟子に……って弟子ぃ!?
「カノン、アンタ私の弟子になるの!?」
「そう、ラクゴのシショウとデシって親子や恋人を超えた素敵な関係なんでしょう。死んだと思ったらユーシャと一緒に暮らすそんな関係になれるなんて!」
「いや、まぁ師弟関係は確かに切っても切れない仲だけど恋人と比べるのは……。大体一緒に暮らせるかわからなしし、弟子に取れるかどうかも。アンタ落語ってわかってるの?」
「昨日初めて見たわ。特にユーシャのお父様の落語がステキだったわ。ユーシャのは……ドラゴンとか当たり前の話ばっかりで……あ、でも一生懸命やってて可愛かった!」
私の落語は異世界での冒険の経験を盛り込んだファンタジー落語。ドラゴンが出てきたり魔法が出てきたりと荒唐無稽な展開が若い人にウケていたけれどカノンにとってはそれは日常で当たり前なんだな。親父の古典落語の方が逆にファンタジーで魅力的に映ったと。
「ま、まぁ話はわかったし、私も酔って弟子にするって言ったみたいだけど冷静になると即決するわけにいかなくて。ほら、こっちの世界の保護者とかいないの?」
「いないわよ。一月前にこの姿で転生してきて1人きり。知り合いはユーシャしかいないわ。ま、まさかそんなワタシを放り出したりしないわよね……?」
目をウルウルさせて見つめてくる。恐らく嘘泣きだろうがカノンってこういう小悪魔的なところがあるんだよなぁ。そういうところが可愛いんだけど。
「あ、でも初めての弟子だし親父……私の師匠に相談しなくちゃ!」
「アラ、お父様は昨夜いいって言ってたわよ。娘の初弟子だーって喜んでたわ」
親父めー! そこは冷静に判断しなきゃだろ。まぁあっちも酔ってたんだろうけど……。
色々考えたけど結論は一つしかない。
「はぁ、わかったよ。行く宛もないみたいだしとりあえず仮弟子って事で。知らない仲じゃないしね」
「ありがとうユーシャ!」
わかってるのかな。師弟になったら一緒にはいられるけれど前みたいな関係にはなれないって……。でも見た目小学生のカノンをこの世界で保護するにはまずは弟子として引き取るのが確実か。後のことはまた考えよう。
「そうだ、そしたら名前を付けなくちゃね」
「ステキ! 名前を付けてくれるの? ミカエル? ガブリエル? それともジークフリートとか」
「そんなん付けられないよ。落語家の芸名なんだから。そうだなぁ……私の芸名の夕紗の紗と、音の字で紗音ってどう? あまり響きも変わらないし」
「シャノン……ステキ! とっても嬉しいわ。よろしくねユーシャ!」
「はいはい……」
こうして異世界から転生してきた魔王で仲間でカノジョだったカノンを保護するために弟子入りさせた。
落語も何もわかってないカノン改め紗音。まずは私を師匠と呼ぶ事から教えようか……。
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