第6話 ババ抜きと筆談

 棚橋たなはし学園の起床時間は、午前六時。オルゴールの音色が放送される。朝食は、午前七時からで、早朝の一時間は、自由時間となる。

 桐花きりかは身じたくを終えてから、図書館へと向かった。早朝に勉強する生徒がいるので、六時過ぎには鍵が開いているらしい。

御所ごせさん?」

 桐花は、当惑していた。真名実まなみが唇の前で、人差し指を立てる。桐花は、四本指で口元を覆った。

 真名実は、トランプをしていた。どうもババ抜きらしい。しかも、相手は男の子だし。仕方がないので、近くの椅子に座った。

 ここは、奥まった場所で大きな本棚がある。入口からは、死角になる。しかし、何故、トランプ。男の子は、昔の書生風の格好で、ハンチングを被っていた。

 勝負がついたらしい。二人は、ノートで筆談している。


「あなたは、たなはしきりかさんの婚約者ですか?」

「そうです」


 ボッと、顔が赤くなる。桐花は、窓のほうを見た。真名実が身体に触れてきて、ノートを見せる。


「ババ抜きの勝者が敗者に一つだけ質問できます」


 婚約者と言うのならば、わざわざ誘いに乗る必要もないのだけれど。長い間心を閉ざしてきた自分には、筆談がちょうどいいのかもしれない。

 桐花は立ち上がり、トランプを混ぜた。


「婚約者の証を見せて」


 男の子は、折れた白羽の矢を見せた。

 やっぱり、正真正銘、私の婚約者なんだ。額に汗がにじむ。


「私はあなたを救いたいのです」


 そう書き残し、男の子は去って行った。



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