第2話 三毛猫はいますか? 2
汐入中央小学校に通う怜(れい)と結奈(ゆいな)は、自転車で衣笠山公園を目指していた。
汐入町を南下し不入斗(いりやまず)を過ぎ、JR横須賀線の高架をくぐるとしばらく先を西へ。
二人は長い上り坂を越え、木々に囲まれた道をゆったりとしたスピードで進んでいる。
「怜、ちょっと休もうよ。」
「え、あとちょっとだよ?」
「さっきのお店でアイス食べようよー。」
「戻るのかよ…。」
今年の春先からこの辺りでは女性だけを狙った連続殺人事件が発生していた。月に一度の快楽殺人。
今月も先週末、三笠(みかさ)公園のベンチで女性の死体が発見されたばかりであった。
女性の左肩に刃物のようなもので切った十字の傷がつけられること、性的暴行の痕跡がないこともこの連続殺人の特徴だった。
この連続殺人事件の最初の被害者は衣笠駅から南、衣笠山公園で発見された。着衣に乱れはなく死因は腹と胸の数十か所を刺されたことによる失血死。
その刺し傷の多さに調べは怨恨の線で進められたが、線上に容疑者の一人も浮ばないまま一ヵ月が過ぎ、そして次の被害者が発見されたことで、これは月一の連続殺人事件であるとされた。
「結奈、アイスは帰りに食べよ。それより早く行かないと暗くなっちゃうから。」
「…はーい。」
結奈はわざとらしく不服そうな声を出す。
「先週の三笠公園でもう四人目なんだから。」
そう言いながら怜はさらにスピードを落とし結奈に並ぶ。
「でもさ怜、犯人見つけてどうするの? 天に変わってお仕置きするの?」
「暇つぶしだよ。毎日退屈すぎるんだもん。」
正面を見据える怜。その長いまつ毛で縁取られた大きな目はネコ科の小動物のようでもあった。
「怜、そうゆうのフキンシンって言うんだよ。」
「不謹慎でも何でもいいの。私にとっての楽しみは現実にしかないの。」
天才児と言われている怜の逸話は逆に有名で、一年生の頃には聖書を暗唱し、言語では英語とフランス語をマスターしていた。
そのため、テレビや雑誌で大きく取り上げられた経歴を持つ。
「そうゆう小難しいこと言ってると、また何かの研究機関の人達が来るよ? 悪の組織だよ? 秘密結社だよ?」
「今のを小難しいことだって思う結奈もよっぽどだね。」
結奈もまた数学や科学、美術などを得意とする天才児だった。
「合同運動会楽しみだよねー。」
「結奈は運動好きだもんね。」
「んーそれもあるけど、藤崎(ふじさき)悠(ゆう)に会えるじゃん?」
衣笠東小学校の悠もまた天才児であった。
「結奈って、そういう男が好みだったの?」
「好みかどうかは会ってみないとわかんないけどね。」
「ませガキだね結奈は。」
「怜は?」
結奈は小鹿のようなクルっとした目で怜の顔をニヤニヤと覗き込む。
「残念。着いちゃった。」
二人は衣笠山公園の駐車場、トイレの辺りに自転車を停めると携帯端末の地図を見ながら奥へと入って行く。
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