新聞配りの少女

三門兵装 @WGS所属

第一話

 アスファルトを焼くように照り付ける陽光――夏本番の8月頭。

 その午後3時と言えば、何もこんな暑い時にまで夕刊を刷らなくたっていいのに……と、くそ真面目で定評がある同僚の新田君に言わしめるほどの暑さである。

 しかしながら、お天道様もねんねこころりしている時間に自転車をかっ飛ばして朝刊を配っている荒木田沙良あらきださら(私だ、私)にとってみれば、大変だねー、と他人事として笑える無縁の世界だ。

 確かに昨日までは無縁の世界、「だった」のだ。 

 

(いくら何でも暑すぎるでしょーっ!)


 私は今日、いろいろとあって夕刊配りのバイトに駆り出されていた。

 いつもどおり朝刊の受取所へ行ったらトレードマークの笑い皺を深く刻んだ村田さん(つまりは私の上司、腰の曲がったおじいちゃんだ)に「バイト代足しとくから今日の夕方もよろしくね」と、言われてしまったのだ。

 やっぱりいろいろとあったなんて嘘である、ただ割り増しされたバイト代に目がくらんだだけだった。

 そうしてそんな軽い気持ちで夕刊配りのバイトを受注した私は、汗水たらしてせっせこ自転車をこいでいるの、だが。

 真昼間は寝るかだべるかして生きている沙良では気づけなかったのだ。この時期の真昼間の天敵が、まさか紫外線ではなく純粋なる暑さであるなんて言うことには。


 つまりは自業自得だよ、ちくしょーっ。


 日焼け止めをこれでもかと塗りたくり、わざわざ光を吸収しやすい黒のマームカバーを引っ張り出し、そして相棒のヘルメット――使われすぎて黄ばんでしまった姿を日中に晒すのを沙良は申し訳なく思っている――を身にまとって、サングラスでもかけてしまえば不審者間違いなしのこの服装は、熱を全然逃がしてくれない。それなのに熱気はアスファルトからも跳ね返って私を両面焼きにする。

 確かに今日は人手が少なかったのだから致し方はない。致し方はないし、受けた仕事なのだから文句もなければ、そんなこと言うつもりもないのだけれど。


(あの人、絶対裏で笑ってるっ!)


 こんな暑い中にうら若き乙女を放り込んで、両面焼きにした挙句蒸し焼きにするとは、私をステーキにしたいのだろうか。きっとそうに違いない。

 しかも暑さの元凶であるこのアームカバーとヘルメットは村田さんがくれたものとだ。そうだ、きっと村田さんは巨人の手先だったのだ。


 なんて、あのいつもニコニコとした顔を恨めしく思い浮かべてしょうもないことを考えながら、沙良は今、ようやく半分の50部を配り終えたところである。

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