コウちゃんとリク

@cs23772

第1話 リク

夕方、公園の片隅でサッカーボールを蹴るリクの声が響いた。


「ねえ、コウちゃん! パス出して!」


まだランドセルが大きすぎた頃。

リクは俺のことを、誰よりも自然に“コウちゃん”って呼んでいた。


それが嬉しくて。

でもちょっとくすぐったくて。


その声を聞くたび、「ああ、今の俺はこの子の“味方”でいられているんだな」って思えた。


俺が仕事で帰りが遅くなっても、

「コウちゃん、今日サッカーの練習で1点決めたよ」って自慢げに話してくれた。


ある夜、寝る前にぽつんと聞いたことがある。


「なんで“お父さん”って呼ばないの?」


リクは少し困った顔をして、でもすぐに笑って言った。


「だってコウちゃんは、コウちゃんだから」


…それだけだった。


名前でも役割でもなく、「自分だけのコウちゃん」。


その呼び方に、どれだけ救われたか、今のリクに伝えるすべもない。


ミナミとの関係はもう戻らない。

リクの中で、俺の存在も遠くなっているかもしれない。


でも、心のどこかで。


もう一度、呼ばれたい。

「コウちゃん」って。


たったそれだけで、俺はもう一度、あの時間に帰れる気がするんだ。

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