第2話 理不尽と執念

 進学などできる状況でなかった香月紗那の最初の勤め先は今はもう無いだった。

 何の資格も持たないただの“高卒”だった彼女にとって、勤め先が廃業してからの再就職のハードルは高く、結果、色んな事に手を染め、理不尽をも味わいつくした。


 その象徴としての彼女の信条は「男には負けたくない!!」という事。


 その為にはどんな手練手管を使っても情報をモノにし、それらの情報を元に、寝ても醒めても繰り返し繰り返し考え抜いて戦略を立て、それを実行する。


 今の仕事に就いてからもそれは変わらない。


 けれども!!競合する他社の男を打ち負かしても、別の男どもが“利”を得るだけ……


 しかし、私はやらねばならない!!


 先程、情報が入って来たはそのうち各社にも情報が伝わるだろう……しかし対応できるのは篠田工業さんだけ、あそこはつい最近、担当替えになった筈。探りを入れねば……


 彼女はスマホを取って電話を掛けた。


「ああ、常務さん! ご無沙汰しております。久しぶりに楽しみませんか? 奥様は篠田社長と同行で外遊なさってるんでしょ? ならば私とご一緒いただく時間もございますよね?」



 彼女に選択の余地は無い。例え仕事を変えてたとしても所詮、道は変わらない。



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