9.探偵に似ている仕事
「いたよ! 追跡、開始!」
「ああ……うん!」
古月さんがまたも、張り切って走っていく。追いつけるのか、少々不安だ。
落とし物がないか後ろを向いたとき、噴水に映ったぼくの姿。奇麗には見えなかったような気がする……。
「おーい! 御影! 置いてくわよ! こうやってボンヤリしてるから、一緒に来たくなかったのよね……」
「あっ! ごめん!」
せっかちな古月さんが颯爽と走っていく。彼女に文句ばかり言われないよう、気をつけなくては!
「何か、追跡してると。やっと、完全犯罪計画部の仕事になってきたって感じかな?」
「アタシとしては探偵かな」
彼女の言う通りだ。浮気や家出人の尾行をすることだってある。いっそ、思い切ってこの部活を「探偵部」に変えてしまっても良いのではないか。
そのことについて、口に出してみると古月さんは腹を抱えて笑い始めた。ちょ、ちょっと! 今、尾行中だよ!? バレないように電柱の裏へ移動すると、彼女はこう言った。
「いや……御影なんかが探偵やんのは無理だって」
その言葉にぼくは腹を立て不機嫌な顔をして見せた。その様子を見て、彼女は適切な言葉をぼくにぶつけていく。
「あんたと小説の中の探偵じゃあ、月とすっぽんよ!」
「そうだな。有名すぎると、尾行とか絶対無理んなってきちゃうからな」
「それって……あんたが月ってこと? 違うからね、違うからね!」
古月さんはぼくに何度も釘を刺す。それほど彼女が慕える探偵とは、一体? 一度、お目にかかりたいぼくなのであった。
そんな話や考え事をしていたら、ゴールについてしまった。まだ全然、歩いた気もしていない。中学の頃、十五分くらいかかった登下校の通学路でももっと歩いたはずだ。
何かあると予想していただろう古月さんは、肩を落とす。
「って……あっけなく尾行終わっちゃったね」
「そう、気を落とさなくてもいいと思うよ」
古月さんとぼくの視界にあったのは、宮古の表札。それと、その表札がある家を影にしていたアパート・田中。終着点だ。
ここに来るまで、何も起こさなかった理由としては浜野さんを見つけられなかったからだろうか。
「アタシたちが歩いていた道は、浜野さんも通る可能性もある場所よね……もしかして、浜野さんは勝手に彼をストーカーと勘違いした何てこと……」
「それはないんじゃないかな」
ぼくは彼女に依頼書の話をした。あれに書かれていた情報は、下着を盗まれたことや部屋が散らかっていたこと。少なからず犯罪が起こっているのだから、勘違いはないであろう。
そう伝えると彼女は納得し、両手を合わせていた。
「じゃあ……やっぱり調査をしないとね」
「どうする? 今から、相手の次の行動を待つ? その方が……」
「情報も手に入りそうだし、いいわ」
家の前に立っている電柱に隠れて張り込みをする。これ、刑事ドラマでみたことがあるぞ。
「これって、どう考えても完全犯罪をやる人の行動とは思えないんだけどなあ」
「そうね……けど、絵里利言ってたわ。敵を知り己を知れば百戦危うからずって」
「誰が百回も戦うんだよ……」
ことわざだということは知っているのだが、ツッコミたくなるのが悲しい習性。
「まあ。腰を据えてじっくり待つしかないのよね」
ぼくは大きく息を吐きながら「それは違うぞ」と言いたくなる。ぼくの性分だと、何故か釣りの時、餌にかかる獲物を待っていられなくなりタモを振り回してイワシなどの魚を捕まえてしまうのだ。
つまり、ぼくの伝えたいことは待っているだけではなく、こちらもアプローチをしようということ。ぼくの足は前に向かって、動いていた。
「え? え?」
「この部活入っといて、今さらだけど。何驚いてんだよ……これっくらい!」
神の手と呼ばれたぼくの……ピンポンダッシュ!
鳴らす! だが、走ろうとした瞬間扉は開いた。勿論のこと、宮古さんにぼくは見つかってしまう。
「え? 君達、どうしたの?」
「しまった……! あっ! アタシも出てきちゃった……」
飛び出てきてしまった古月さんも彼の眼中に映りこんだだろう。最悪の失敗! これは依頼全てに影響してしまうミスだ。これは……もう許されないのでは。
そう悔しい思いを胸に目線を下へ。
…………本当に許容されるべきではないものを目撃してしまった。彼の手には女性物の下着が大量にあった。これを並べれば、店だって開けそうだ。
「えっと……」
もう確信できる証拠もあるから、騒ぎになる前に逃げようとした。古月さんは、それを成功させて遠くへと目をくらましたようだ。置いてかれたぼくは、どうすればいい。
目前にいる宮古とかいう男は、青ざめた顔でこちらの様子を窺っているらしい。もしかして、ぼくを口封じする機を狙っているんじゃないだろうな……。
「待って! これは勘違いなんだ!?」
そう思って、駆け足を始めるのだが、彼の大声でぼくの足は停止した。
「ど、どこが勘違いなんですか?」
「……説明するには、上がってもらうしかないから」
「えええええ……無理でしょ。ここからどうやって弁論するつもりなんですか……!」
もしかして、家の中に詰めて口封じをするつもりなのか。
と言っても、彼の素性は分かることは確か。そもそも、だ。今の目の前の彼は悪意を持って行動しているような顔に見えるか。
本当に困っているような表情だ。
自分が彼女に好かれるべきだと勝手に考え、下着を洗ってあげようと善意的な思考をしている可能性もある。
ただ、それであったら普通に話せば尻尾を掴めるのではないか。
「とにかく、誤解なんだよ」
それならば、どうして誤解なんて言葉を使うのかも今一つ分かってはいない。
悪だと思っているのなら、すぐにぼくに口封じを決めるのでは。運動をやっているのだ。ぼくを中に連れ込むことも造作もない。
逆に善意なら誤解と言うのもおかしい。
訳が分からない。だからこそ、ついていくことにしてしまった。
「分かりました。上がります」
「何かあったら」と言おうとしたのだが。そこで口にするのをやめた。ぼくは最初ピンポンダッシュをするつもりだったのだ。
ある意味不法侵入。何でいたのだと聞かれても困るので、ここは彼の気が弁明に集中よう仕向けなくてはならない。
「で、どういうことなんですか? この下着は一体……!?」
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