8.機嫌の悪い女王様

「で、そういうこと?」


 放課後、みっちりきっちり説教されたぼく。主に古月さんの睨みに関して、ぼくはずっと椅子の上で正座を続けていた。


「そうか。それで……信用できる部分もあるけど、あんたのミスも少なからずあるんじゃない? ……やっぱり信じられないわね。こっちは秘密は死守したっていうのに」

「そんなあ……」

「まあまあ、ユニちゃん。陽介君をそんなに責め立てないの」


 何とか東堂さんのいさめもあったおかげで、すぐに解放されることはできた。お詫びとして、窓を開けたときに入ってきてしまった濁った色の青葉や埃を箒で部室の隅へと掃きながら、会話をする。


「東堂さん。色々ありがとね。ぼくの姉さんの奇行にも付き合ってくれて」

「いいのよ。いいのよ。貴方のお姉さん、結構いい人に思えるんだけど。しっかりアイデアも出してたし」

「そんなわけないよ……」


 東堂さんは優しく包み込むようにぼくを許してくれた。それとは正反対に古月さんはぼくに塵取りと箒を渡して、上目目線で命令をする。


「御影。これでゴミを集めて、箒と一緒に片付けてきなさい」

「あ……ああ」


 不機嫌そうな顔をしている彼女の頼みを断れるはずもなく、ぼくは言われた通りに行動した。姉さんにいつか……いつか……ギャフンと言わせてやるからな。そんな戯言を考えて、廊下にある用具箱に箒を入れて掃除を終える。

 ぼくが部屋に三人で古月さんの調査報告(彼女が家で詳細を調べてきたらしい)を聞くことに決まっていた。ぼくは今度はちゃんと普通に椅子に座って話をする。


「あっ……その前に質問だけど」

「陽介君、質問が多いね」

「アタシの話が忘れない程度に早くして……アタシ三秒で忘れるから」


 嘘をつけ! お前は三秒以内に床へと頭でもぶつけて、記憶喪失にでもなるのかよ!


「早く言いなさい」

「なんでっ、ぼ……くたちたん、間違えた。三人なんですか? 確か、四人で活動してたんだよね」


 まだ怒りが治まらないらしい古月さんが急がせたために、ぼくは早口で質問をする。最初の方に噛んでしまったのは少し恥ずかしい。


「あの子は『色恋話については全く興味ないから、引き受ける気がしない。次の依頼が入ったら教えてくれ』って言ってたわ」

「そうなんだ……まるでどこかのワガママ女王様みたいですね」

「え? 誰の事かしらねえ……」


 失言。一応、違う人をイメージして例えを出したのだが、古月さんに勘違いされてしまったらしい。彼女は「質問と妄言はそれだけね」と話すと書類を鞄から取り出した。

 そうして、ぼくに向かって見下すようにこう言った。


「まあいいわ。世間のワ・ガ・マ・マ女王様とは違ってアタシは心が広いから許してあげる」

「う、うん。そうしてくれると、ありがたい」


 そのやり取りを見て、東堂さんは小さく息を漏らしていた。笑うのを必死で堪えているのだろうか。

 古月さんはそれに気づくことなく平然とした表情を見せると、書類の重要な点だけ読み始めた。


「都楽。大学二年生。弓道サークルでまだ弓道をやっている。成績は大学の中で中間。普通に平均的。彼女がいたことはないみたい。住所は……分かりやすく言うと光跡市のとあるアパートのそばの古い一軒家で一人暮らし――」

「あっ! ユニちゃん。アパートってどこ?」

「アパート名? 言って分かるの? アパート・田中っていうんだけど」

「それって……依頼人の浜野先輩が住んでる場所じゃない! そんなこと言ってなかったのに……急いでいた、からなのかしら……」


 東堂さんは立ち上がって、胸からスマートフォンを取り出した……大きな胸だと隠せる場所があるんだな。それは今、どうでも良い。

 依頼人の近所に住んでいる「都さんをこの町から追い出してほしい」という依頼の詳細を変えなければならない可能性が出てくる。依頼人と相談をしなければ。彼女につられて、ぼくと古月さんも飛び上がった。

 たぶん、弓道部に行くことはできない。この秘密の相談がバレてしまうから。となると、することは一つ。

 誰かが浜野さんの家へ行くか。

 東堂さんが最初に手を上げた。


「そうだ。一度話をした私の方が交渉はしやすいと思うし。ユニちゃんと陽介君は、危険だけど……都さんの行動チェックお願いできる?」

「え!? まず……」


 無茶なことを言う。それはぼくにとっては無理難題であるのだが、彼女は自慢するかのように胸を張って書類を手渡してきた。

 今日、都さんが受けるべき講義とサークルが全て終わる時間は16時半。そこまで調査してきたなんて!


「まさか金の権力が使えるアタシがいるべき場所を調べなかったとでも? 正直、アンタと一緒に任務って……納得いかないけど」

「今のところ、しょうがないわよ! 仕事を決行するためにもユニちゃん。男の子との行動を我慢して」

「分かってる。行くわよ! さっさとしないと置いてくわよ! もう時間がないんだから!」


 古月さんが部室を勇ましく飛び出していった。ぼくも追わなくては……。

 そういえば、古月さんの使うシステムを悪用すれば簡単にストーカーができてしまう。そういう技術が普及するのは遠い未来になるのかな、と思うぼくであった。

 この後、ぼく達は夜の闇に向かって突っ走る、そんな覚悟を決めて、外に出ていく。

 最初に向かうは駅のロータリーだった。


「彼のいる場所は今、この辺りね……」

「確かだよね」

「アンタ、アタシの力を舐めてるの? そうに決まってるじゃない」


 帰宅ラッシュ。これから次々と満員電車が走っていくのだろう。ぼくと古月さんは、そんな駅から出てくる人々の観察を開始した。この中にターゲットがいるとなると……つまりそうな息を飲みこみながら近くにある噴水の裏に隠れ、宮古さんを探す。違う。違う。違う。

 たった十分の時間が、苦手な世界史の授業くらい長く感じた。

 そこでぼく達は、彼を見つけることに発見したのである。何度かスマートフォンの写真を見比べて間違いではないかと、確認する。


「いた、いたいたいたいたいたぁ!」


 本当にいるとは思わず、感動してしまう古月さん。そんな彼女に騒がしいとは言えないのがぼくの哀しい性分だ。


「古月さん、色々調べてくれてありがとね」

「お礼なんて言われなくても……! できる限りのことをやっただけよっ!」


 その出来る限りが凄いんだけれどもね。そう思いながら、ぼくは彼の帰宅ルートを確認することとなったのだ。

 ストーカーの怪しい行動。そこから絶対に解決のヒントを見つけてやると意識して。


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