天皇の家出

ちびまるフォイ

ハナコの休日

「緊急ニュースです。宮内庁の発表によると

 呑ノ屋宮のみやのみやの御息女・華子はなこ様が家出あそばれました」


広いお庭を必死に探すSPや宮内庁職員が映る。

その表情の狼狽っぷりに自体の大きさを物語っている。


「もし華子様をお見かけあそばされましたら、

 宮内庁までご連絡ください。番号は0120-xxx-xxx」


天皇家の家出は大きなニュースとなり列島を揺らした。

揺らしすぎて地球の海洋プレートが引っ込むほど。


「天皇が家出したなんてバレたら、国外にどう思われるか!」

「せっかく新憲法作ったのに承認してもらえない!」

「変な男に捕まった大変だぞ!!」


ことは一刻を争うが、捜索は規模が大きくなるほど難航する。

それもそのはず。

SNSでは面白おかしく誤情報が飛び交いノイズになった。



>【緊急】天皇家・華子様を保護しました!


>天皇家の兄です。この度の騒動を謝罪します。


>華子さま保護の寄付金を集めています



魑魅魍魎による妨害工作に宮内庁はブチギレだった。


「こいつら全員、不敬罪でぶちころせないか!?」


「不敬使えるの天皇だけです、落ち着いてください!」


「そうだ! GPSティアラは!? アレなら居場所わかるはず!」


「駄目です! 華子様、ティアラを置いています」


「スマホは!? 逆探知できないか!?」


「それも置いていってます!」


「なんて計画的で徹底した家出なんだ!

 もっと向こう見ずで突発的にやってくれよ!

 そっちのほうがまだ特定できるのに!!」


天皇家という鳥かごの中の生活が長く、

華子様はこの外へ自由に出られたらと考えあそばされる毎日。

それがただの家出を大脱走劇たらしめる用意周到さを生み出してしまった。


「そうだ! 家出の定番といえば友達の家だ!

 華子様の学友の家は!?」


「SPを派遣しました。しかしどこにもいません!」


「まさか、SNSで募集されているような

 いかがわしい家出保護おじさんのところへ行ったんじゃ……」


「しかしスマホを置いているし連絡は取れないのでは?」


「い、いや! SNSが更新されているぞ!?」


宮内庁職員はSNSで華子様が更新あそばされているのを発見。

そこではカフェの新作ラテをご堪能あそばされている華子様。

家で報道によるブームもあって、いいねがカンストしていた。


「華子さま!?」


「別のスマホを用意してアカウントにログインされているようです!」


投稿には #皇室まぢムリ #家出なう #自由 などのハッシュタグが並ぶ。

絶妙にちょっと古い感じが、大和撫子みを感じられて高評価を加速させる。


「おい! このカフェを!!」


「皇室ヘリを向かわせました! ですがもう現場にいないようです!!」


「くっ! 時間差投稿か!! 店員にどこへ行ったか聞け! 断れば不敬だ!」


「それが"秘密♪"といたずらっぽく言われて、それ以上は知らないと!」


「クソかわいいなもう!!」


その後も華子さまによる定期的な家出の投稿に宮内庁は四苦八苦。


はじめて電車にご乗車あそばされる姿や、

思いついたようにスキマバイトへと挑戦あそばされる様子が出てくる。


けれど写真や投稿の場所に向かったときには、

すでに華子様の姿はなく、逃走劇にも終わりが見えない。


「どうすればいいんだ! 全然見つからない!」


「おのぼりの天皇さまが行きたがりそうなスポットには

 先回りしてSPを派遣しましたが一向に見つかりません!」


「もう日が暮れるぞ!」


「あの人に頼りましょう」


「本気か? あんな怪しい人間に……」


「他にないでしょう!?」


宮内庁の職員たちは国内でも完全秘匿されている場所へ向かった。

それは天皇家直属占い師の場所だった。


「ひっひっひ。ここへ来るなんて珍しいじゃないか。

 前天皇の結婚相手を占ったとき以来だ」


「実は……天皇家の御息女・華子様が家出あそばされた。

 いくら街を探してもまったく見つからないんだ」


「なるほどねぇ。それで居場所を占ってほしいと?」


「そうだ」


「では税金を。今回もたらふくいただこうじゃないか」


「ぐぬぬ。こいつ……」

「抑えてください! 背に腹は代えられません!」


「わかった。税金でお前の生活はむこう10年保証しよう」


「契約成立だ。それじゃ占うよ。むむ、むむむむ!!」


占い師が水晶を取り出して力を込める。

プロジェクションマッピングが水晶に映像を映し出す!


「見える、見えるよ! そう遠くへ行ってないね」


「なんだと!? 近場はさんざん探したのに!」


「いいや、もっと近く。これは……家?」


「い、家?」


職員やSPたちは慌てて天皇の御所へと戻った。

なんと華子様をついに見つけることができた。


あれだけ家出をしていると思っていた華子様は、

外で用が済んだら御所に戻り、あとはSNSを利用して踊らせていただけだった。

ずっと御所でポテチをご賞味あそばされていた。


ほっとした職員だったが、安心したことでやっと変化に気づく。

みるみる血の気が引いていく。


「お……恐れ多くも、華子様。その玉髪ぎょくはつは……?」


「あ気付いた?」


「それにそのお召し物も……」


「超カワイイでしょ?」


宮内庁職員および天皇家ひいては周囲のSPたちは冷や汗を流した。


ピンクの髪に浅黒くなった肌。

蛍光色のネイルに、極端に短いスカート。

カラコンで大きくなった瞳は感想を求めていた。



「この上なく……麗しくあらせられます……!」



ギャル化した華子様が報道されると、

万民からさらに敬愛を賜り、お慕いされる存在となった。

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