第14話 僕は考える①
石ノ
2年A組の特徴的な生徒
僕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・物語の主人公
正門のすぐ近くを、石ノ森は歩いていた。
草は生い茂り、クスノキも青々と葉をつけている。風が少し吹いて、少し涼しかった。
「石ノ森先生」僕は後ろから声をかけた。
「ん?ああ。まだ、先生じゃないわ」
「僕からしたら、もう先生ですよ。いいでしょう?」
石ノ森は前髪を両手で掻き分けると、肩に掛けたバッグを掛け直して、黒いテカテカとしたスーツのジャケットを脱いだ。
「ええ、良いわよ。それで、どうしたの?」
「その、ありがとうございました」
「それは色紙でもう見ました」
「そうですよね」
・・・・・・
「その、これからも頑張ってくださいね」
石ノ森ははぁとため息をついた。
「何?そのありきたりなメッセージは。まぁいいわ。こちらこそ、ありがとう。またどこかで会えたら、話の続きをしましょ」
「そうですね。そうします・・・・・・。あの、僕、K大に入ろうと思うんです」
「どうして?」
「特に意味はありませんけど・・・・・・、何となく」
「あなたの学力で入れるの?」
「努力ならします」
少しばかりの重い沈黙があった。静かに冷涼な風が、僕の心を通り過ぎたように思う。
「応援しているよ」
「石ノ森先生。僕には言わないんですか?」
「はぁ?」
「だから、僕に事件の真相は言わないつもりなんですか。僕はもう気づいています。あなたは、僕の居ないところで事件を核心に近づこうとしてる。一人で危険を顧みずに。そうでしょう?」
「逆に聞くけれど、どうしてただの生徒に危険を追わせないといけないの?それこそ、意味がないじゃない」
僕はそれもそうだと思った。確かに、これ以上僕が首を突っ込む必要性も無いように思う。でも、少しだけ寂しいと思った。理由は分からない。僕の知らない場所で、僕の知らない時間が流れて、あっという間に誰かが悲しみ、誰かが喜ぶこの世界を、僕は嫌だなと感覚で感じ取った。
「志井先生は、まだだんまりだそうです。完黙だって、長田さんが言ってました」
「あの人はもう、何も話さないと思うよ。それが一番だと思ってるだろうから。きっと娘さんは、駒田先生がこれからも育てるんでしょうね。自分は捕まり、人生のどん底に落ちた。それを志井宏子は、良しとしているのよ。だから、ただ黙って、真実を言おうとしない、いわば、自分だけを悪人に仕立てようとしているということ。でも、私はそれが許せない。どうでも良いと思っている自分勝手な人のせいで、沢山の命と、沢山の人生がめちゃくちゃにされたの。それを黙って見てろって?そんなのどう考えてもおかしいわよね」
「仰る通りです。自分を大切にしてください」
「君もね」
「はい」
「ありがとう。あなたの名前好きよ」
「名前だけですか」
またここで沈黙。
「言ったでしょ?今度また会ったら、話の続きをしましょうって。まぁでも、楽しかった」
「ええ。じゃあ、さようなら」笑顔で石ノ森に言った。
僕は踵を返して、石ノ森と反対の方向に歩き出した。入道雲がもくもくと浮かんでいる。サワサワと草が擦れる音が聞こえた。その音に混じって、「さようなら、
続く→→→
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