第26話 乱打戦頻発!これが歴史の修正力なのか?(ドイツの田舎町編)

 CLグループステージ初戦ユベントス対ボルシア・ドルトムント。

 

 乱戦を演じた片割れドルトムントは、良く分からないチームだ。

 なんとなく阪神タイガースに似ていると思っている、黄色と黒だし。


 最大の特徴は、スタジアムを一杯にする熱狂的なファンの存在だ。

 ヨーロッパでも熱狂度は随一と言われている。

 

 経営面では試合に出れないイングランドの有望若手選手を引き抜きレギュラー起用して成長させる、ということを良くやっている。そして高値で売る。

 アーリング・ハーランドの件を含めて、トップの一歩手前のクラブとしての立ち位置を取っている。


 金銭面で賢い選択だとは思うが、果たしてそれでバイエルン・ミュンヘンに勝てるのかと思う。

 彼等の目的はステップアップする事で、ドルトムントのためにプレーする事ではない。

 でもドルトムントはそれを認め 2番手3番手の立場を受け入れているのだから。

 

 プレー面の特徴はこれと言って無い、オーソドックスなサッカーだ。

 以前低迷していた時期もあったが、大分持ち直している。リーグ戦でも好調だ。


 ただユベントス戦では、酷かった。ミドルシュートが撃てたのも、ユーベがDFラインの前のスペースを開けていたからだ。

 セール・ギラシは優れた選手だが、随分と楽にプレー出来ていた。


 守備では、プレスもマークも何故か常に緩かった。

 ユーベのFWドゥシャン・ヴラホヴィッチの途中出場からの2G1Aの活躍が話題になったが、あんなのフリーでプレー出来たからだ。

 あれだけの選手がDFに邪魔されなければ、そりゃ良いプレーは出来る。


 アディショナルタイムでの失点もそれまでの失点も完全にミスだ。完全に勝ち試合を落としている。

 これをミスだと思わず人材不足のせいにしたら、

より規模の小さいクラブはどうすれば良いのだ。


 ユーベもドルトムントも激闘とかドラマチックとか言いたいのかも知れないが、恥ずべき結果だと思った方が良い。




 今期のドルトムント戦を洗っていた時、ハッピーサプライズ!凄く素敵なチームを見つけた。


 そのチームの名前は1.FCハイデンハイム。ドイツ南部バーデン・ヴュルテンベルク州の中にある小さな町の小さなクラブだ。


 因みにバーデン・ヴュルテンベルク州は温泉地として有名で、バーデンも入浴という意味を持つ。

 あとテディベアの名門・シュタイフ発祥の地でもある。

 ドルトムントのような工業都市ではなく森が多く、緑と温泉とぬいぐるみの地方だ。

 さらに州議会の与党がなんとビックリ、同盟90/緑の党(環境活動の党)だ。



 そんな州にあるハイデンハイム、'23年にやっとブンデスリーガ昇格を果たした弱小クラブだ。

 昨シーズンの成績は18チーム中16位。プレーオフでの劇的勝利でなんとか残留を果たした。


 今シーズンではリーガ4戦4敗、唯一の勝利はカップ戦で4部のチーム相手にあげたものだ。


 5−0の圧勝に思えるが、守備ではPK判定1つと疑惑のセーフ判定1つがあり、攻撃ではクロスボールがそのままゴールに吸い込まれたり、GKのキックをブロックしたのがゴールになったり、バックパスのミスを拾ってからのゴールと、圧倒しているとは言い難い内容だった。



 では何故そんなチームが良いのかというと、規律正しい守備が良いのだ。


 監督のフランク・シュミットは、なんと'07年からずっと指揮を続けている。

 現在ではとても珍しい長寿監督で、チームからの信頼もとても厚い。

 チームのプレー振りから、おそらく”教育者“タイプの監督なのではと思った。


 昨期のプレーオフでも今期の負け試合でもチーム一丸となって守備をしている。

 昨期の16位という成績はチーム崩壊したからではなく、個の力が足りなかったせいだと思われる。

 

 そう思わせるくらい熱心にきちんと連動した守備をしていた。

 特筆すべきなのはセオリーに忠実な守備をしていることで、ドイツサッカーによく見られる悪癖も少ない。


 ドイツサッカーは一対一・デュエルに拘っているせいか、無茶な仕掛けや無駄なファウルが目立つ。

 一対一での責任を果たそうとして、チームプレーを忘れる瞬間が結構ある。


 ハイデンハイムはそこら辺がきちんと躾られている。

 焦ってボールを取り返そうとは、決してしない。


·エリア内ではタックルを控え、相手の攻撃を妨害しながらシュートコースを絞る守備をしている。

 

·シュートブロックをする際は、PKを取られないように足元のボールではなくシュートコースを狙う。

 

·ボールを見ている時でもマークする相手を手で触れて、位地や動きを把握している。


·プレス時も無理にはボールを奪い返そうとせず、

攻撃方向を限定する。

 

·ボールを奪えそうな時を待ち、二人三人で奪いに行く、等など。


 こんな風に守備の基本が徹底教育されている。今ではなかなか珍しいことだ。


 それでも失点して負けているのは、やはり個の力が足りないからだ。

 振り切られたり、競い負けたり、スーパープレーをされたりだ。

 そして取り返せない。スーパープレーなんて滅多に出来ないからだ。



 たとえ少ない予算でも、教育と熱意で戦う小さなクラブ。

 監督もゆっくりとだが、着実に業績を積み上げている。

 国際的な知名度は殆どないが、シュミット監督は現代サッカーの隠れた英雄だ(地元では特に)。


 これがキレイな表現で、ぶっちゃけて言うと

“金がないから選手は小粒、でもやってる事は極めて正しい”

 ブンデスリーガを無課金プレイしているのだ。


とても応援したくなるチーム・クラブだと思った。


 


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