第14話・爆発の魔法の使い手達



 日本でも、異世界でも初めてのカチコミは非常に緊張感無く、恙なく進んでいった。


 工場内部に進んだ我々は、漫画で見たダンジョンではないかと思うほどのトラップの洗礼を受けることになったのだが。


「あっ!」


 カチャッと音が足元からなったと思えば目の前から自動掃射が行われると思われる機関銃がこちらを向いていた。


「【風の魔法】」


 だが、師匠は全く焦らずに魔法を展開し、銃弾は僕たちに届くことなく地面や壁に叩きつけられていった。

 機関銃も僕たちが奥に進んだ頃は見るも無残な姿で発見された。



「そういえば、どうして魔道具なんて便利なものがあるのに罠で使わないんだろう?」

「そうだね、さっきの罠もドミノ倒しに起動した、すごく原始的なものだったしどうしてですか、師匠?」

「魔力での探知を防ぐためじゃな。下手に魔道具を使えば、魔法使いにはすぐばれてしまうし、電気もそれに類する魔法使いであれば気づけてしまうからの」


 確かに、ここに入ってくるということは魔法使いなのは確定のため原始的な罠を用いるのは理にかなっている。



「でも、師匠は発表された後に風の魔法を使ってませんでした?事前に、何らかで探知して迎撃したってことですかね?」

「違う、儂でもあの罠を探知することはできんが、【身体強化の魔法】の応用で反射神経を強化しとるから、後でやっても間に合うのじゃ」

「えぇ…」


 そりゃあ、師匠が強いわけだ。

 相手からすれば、こっちが先制攻撃で奇襲にも成功したという場面で師匠の強化された反射神経とそれに追いつく強化された肉体によって放たれる迎撃の風の魔法。


 その上、僕のように切ってとか手刀が必要になるなどはなく、【風の魔法】とつぶやくだけで弾丸を打ち落とし、機関銃の銃身を折る風――と言うか、嵐をぶっ放せる。


(非常に単純だけど、それゆえに相手も対策がしづらい。僕が魔法アリで戦ったら瞬殺だな…)


 少しばかり探索してみれば、エントランスのように開けた空間にたどり着いた。


「侵入者発見!壁を展開せよ!」

「【【【【【【土の魔法!!】】】】】】」

「それを、補強せよ!!」

「【【【【【【鉄の魔法!】】】】】】」


 奴らがそう詠唱すると目の前に土で作られたた壁が出来上がり、その前を鉄が何層にもわたって土の壁を覆うように展開された。


「あんなに並べられた、おじいちゃんでも…」

「そうじゃな、あそこまで防御に特化された魔法を正面から砕くのは面倒じゃ」

「えぇ…それじゃあ、どうします?上から昇っていくか、それとも煙を充満させていぶり出します?」


 さらっとできないとは言わない師匠に若干引きながら、冷静に壁を分析する。

 少なくとも僕の煙の斬撃や爆弾では何十回攻撃しようとも突破することはできないだろう。


 しかし、少し上を見上げてみればご丁寧に隙間が空いている。

 だが、これまでのやたらと原始的なトラップを見ればこれも罠なのではないかと思ってしまう。


(いや、でも理に適っているのか?)


 現状の戦力で、はっきり言って師匠と真正面から戦える魔法使いが相手にいるとは思えない。

 なら、すべきなのは奇襲でのワンチャンを狙う事、しかしこれも師匠の前では厳しい。


 この場合ならば、相手はもっと手数を揃えるための時間稼ぎやもしかしたらこの鉄の壁の向こう側には有利に戦えるように陣地を敷いているかもしれない。



「阿歩炉、ごちゃごちゃと小難しいことを考える必要はないのじゃ」

「いや、正面から行くのは流石にダメですよ。やっぱり、僕がこっちから煙で燻します」

「いつ、正面から乗り込むと言ったのじゃ?…見とれ、【風の魔法】」


 てっきり真正面から乗り込む気かと思ったが、師匠はその場から動かず魔法を詠唱する。

 しかし、先ほどと同じように周囲から竜巻が展開されることはなかった。



『うわぁぁぁぁ!?』

『どうして、竜巻がぁ!?』


「うわぁ…」

「酷いね…」


 その代わりに、壁の向こう側から何が起こったのかすぐに察しが付く悲鳴が響き渡って来た。



「魔法の遠隔発動じゃ。真正面から攻撃するよりも背中を狙った方が良いからの」

「魔力があれば発動できるって理屈ではわかりますけど、発動前の魔力を外側で操作するってすんごくしんどいんですけど」


 魔法は魔力とイメージによって発動するが、その魔力の位置は遠くなければ僕でも遠隔で発動することができる。


 いつぞやのヒグマ戦の時は石に魔力を込めて霧散しないようにすることで遠隔で発動させることに成功した。


 だが、今回師匠がやったのは自身の魔力を送り込み遠隔で魔法を発動させた。

 しかし、魔力と言うのはイメージを送り込めば勝手に魔法になるため移動させようとイメージすればそれが魔法として実現してしまう。


 それが、起こることなく魔力を集中させ魔法を発動させたのは師匠の妙技と言えるだろう。



「壁が崩れていくね~」

「うん、まるで滝みたいだよ。立派な壁でも中に敵がいたんじゃ意味ないよね」


 少し違うが、トロイの木馬と言う奴だろう。

 大きな音を立てて崩れた壁の向こう側にはあからさまに準備してましたと言わんばかりに大集合して倒れている黒ローブの集団がいた。



「そういえば、僕たち師匠について行っているだけですけど『ザ・ワン』の位置ってわかってるんですか?」

「わかっとらん、じゃがなあれの起動には脳みそが必要じゃから、とりあえず人のいる場所に向かっとるだけじゃよ」

「だから、こんなに接敵するんですね。師匠が瞬殺してますけど……」

「うんうん、おじいちゃんが強すぎて私たちずっと後ろから見てるだけだしね」


 ここに来るまでで、接敵した回数は5回。

 そのどれもで、今のようにガチガチでこちらを仕留めようとする洗礼を受けたが師匠がすべてを跳ね返していった。


 だが、その時だった。僕たちがいた広場の向こう側の入り口から強力な魔力の波が襲ってきた。


「ッ、下がっとれ」

「素晴らしい!!これが、伝説に歌われる『風の賢者』様!我らの野望…いえ、救済の一助としてこれ以上の物はない!!」


 暗い影の中から現れたのは黒ローブ越しでもわかるスキンヘッドの僧侶のような装いの男であった。

 身長は僕を超え、その上からの目線から放たれる威圧感は思わず身震いしてしまうほどだった。



「一助とは『ザ・ワン』のことじゃな」

「なんと、知っておられましたか!その通り、我らが保有する大量救済兵器には優れた魔法使いが必要です。どうか、我らと共に来てくださればそこのお二方の命は保証しましょう!!!」

「ッ」


 こちらを、向いた瞬間に全身に鳥肌が立ったのがわかった。

 こいつには、勝てない逃げるべきだとそう本能が叫んでいた。


(そうか、あの壁はこいつが来るための足止めだったのか…)


「断る、そう言ったら?」

「もちろん、戦うことになるでしょうね。まともに戦えば、私に勝ち目はないでしょうが、そのお荷物を抱えている貴方であれば十分に勝機があるでしょう」


 威圧感と奴が纏う魔力からそれは冗談の類ではないと理解させられる。

 ちらっと、エナさんの方を見てもその圧を感じているからか思わずその場に膝をついている。



「ふむ、それはどうかの?」

「…であれば、容赦はしません。私の名はウーヌス…参ります!【爆発の魔法!】」

「ッ、危ない!」


 奴が魔法を詠唱した直後、魔力が視認できるほど魔法になりかけている紫の魔力弾が放たれ僕とエナさんの元に迫る。


 危機を察知した僕はエナさんの元に駆けより彼女を抱えながら横に思いっきり跳んだ。



 バゴォォォォォン!!



 背中に鈍い衝撃が伝わるのを感じながら、背後を見てみると僕たちに当たらず壁に激突した魔力弾は爆発し、壁にクレーターを作り上げていた。



「なるほど、その魔力弾が当たったところが爆発するというわけじゃな。もはや、ミサイルと変わりない」

「えぇ、えぇ!!そうでしょう、そうでしょうとも!私の【爆発の魔法】は兵士だった時に見た迫撃砲のものですから。威力は折り紙付きですよ、貴方も見たことがあるんじゃないんですか?」

「そうじゃな、本当に多くの物を奪ってきた……じゃから、もう誰も奪われないように儂が戦うのじゃ」


 戦争で奪うものは、何も命だけとは限らない。

 家族や友達、大切な人を失うことで心が奪われ、町やインフラが粉々に破壊され社会を奪う、そして命と心、社会を奪われたものは同時に未来を失うことになる。


 そして時として人を狂わせてしまうこともある。



「奪う?違いますよ、救済です!!救済のための、救済のために、救済のためだからこそ、あの兵器が必要なのですよ!!【爆発の魔法】」


 詠唱すると奴の周囲から夥しいい数の魔力弾が形成され放たれる。



「そうか、ならもう眠るべきじゃな【風の魔法】」

「そんな脆弱な魔法で何ができ……」


 てっきり、あの魔力弾でこちらを爆殺させる気だと思ったが師匠が詠唱した途端に紫の魔力が霧散した。


 それは、てっきり師匠が風の魔法でどうにかしたのかと思ったが師匠の魔力はウーヌスの魔力には何も干渉していないどころか風も生まれていない。



「なんじゃ、魔法は使わんのか?」

「はははっ、ご冗談を私が今、魔法をそちらに放っていればあなたの魔法によって跳ね返され爆破されていたでしょう」

「簡単なことじゃ。お主のイメージは迫撃砲から着想を得ているということは着弾によって爆発すると考えられる。つまり、一定の衝撃がなければ爆発しないというわけじゃ」


 阿歩炉やエナが知る由もないが、迫撃砲は先端部に取り付けられている信管が着弾時に作動し炸薬に点火、これにより爆発が起きる兵器なのだ。


 その、信管にも様々な種類があるのだが――アインツがしようとしたのはその信管、すなわち先端部分を刺激せずに魔力弾の勢いを風で弱めウーヌスに向かって返そうとしたのだ。



「確かに、風はお主の爆発の魔法と比べれば破壊力は劣る。しかし、どんな魔法も使いようじゃ…さて、魔力弾が破られたがお主はどうするんじゃ?降参するなら、苦しまず一瞬で片をつけてやるのじゃ」

「そうは行きません、これでも魔法使いの端くれですからね。諦める気はございません」

「そうか…残念じゃよ」


 この時、ウーヌスは内心勝ったとほくそ笑む自身を必死に抑えていた。


(私の魔法が迫撃砲のように着弾しないと爆発しないのとは別に、多少は威力が落ちますが任意爆破できるものの二種類存在する)


 一射目に任意爆破の魔力弾を放ち、風で防がれたところで爆破し爆風で視界が塞がった内に相手の死角から魔力弾を放つ。


 これも、もしかすれば防がれるかもしれないし、予測されている可能性もあるが二射目にあのガキどもを狙えば視界不良の中、助けに行かざるをえない。


 そうすれば、さらに死角は広がり自慢の風の魔法も間に合わなくなるだろう。



「じゃが、もう勝敗は決した」

「しつこいですね。私は諦めることはしませんよ」

「違うわい…そうじゃろ、阿歩炉。少しは成長した姿を見せとくれ」


 呼ばれた、アインツの視線の先にあるのは先ほどの爆破によって充満した煙の内部――に見えている、阿歩炉が作り出した【煙の魔法】による煙幕である。



「えぇ、少しくらいかっこいいところを見せますよ!【煙の魔法】」


 その煙幕の中から現れたのは、ちょうどゴルフボールくらいの透明の膜の中に煙のようなもやもやが充満している球体を手の中に握っていた。


 それを、ウーヌスに向かって放り投げると彼の近くまで転がっていく――



「こんな、飴細工のような球体で何になるというのだ、こんなもの蹴り飛ばしてみればゴルフボールのように彼方まで飛ばすことができるぞ!」

「蹴り飛ばせるなら、ね」


 阿歩炉が放った小さな煙玉の正体は、昨日の襲撃で使われることがなかった煙の爆弾であった。


 その仕組みは、中心に起爆剤、核となる単純な魔力の塊を煙で覆い、それを凝縮し、まるで空気を入れすぎた風船のようにぱんぱんになった球体を魔力で覆った物である。



「だから、僕が魔法を発動させれば終わりだよ【煙の魔法】」


 当然、そんなギリギリで成り立っているものにさらに内部の煙が追加されれば――


「爆発するというわけじゃな」

「ああぁぁぁぁぁ!?」


 奴の足元で煙の許容量の限界を超えた爆弾は内部の煙を外に吐き出し、ウーヌスを吹き飛ばした。



「じゃが、やっぱり煙の爆弾は威力が低いの。煙の勢いはあるが、所詮は流体じゃから本物の爆弾のようには行かんか」

「くっ…まだ、諦めるわけには」

「じゃから、もう終わりじゃ。そこは、儂の間合い…じゃからな【風の魔法】」


 詠唱と共に爆発の魔法を使う間もなく、奴の足元から風が舞ったと思えば上空に飛ばされ上からも落ちてきた竜巻によって上からも下からもプレスされウーヌスはその場に倒れ伏した。


「…これ、僕必要だった?」


 よく考えてみれば、僕が煙の爆弾なんて使う必要もなく先ほどの遠隔で魔法を発動させたようにやればよかったし、何なら正面から竜巻をぶちまけるだけで圧倒できただろう。


 だというのに、こっちをじっと見て目線で動けと言ってくるのだ。


(これは、学ばせてくれたってことかな……でも…)


 さっき、煙の爆弾を放り投げた時一切躊躇がなかった自分に少し嫌悪感を抱きながら、休んでいるエナさんの元に向かった。


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