感情豊かだ

「黒仮面、今いいかい?」


 次の定例会の日付も決められ、定例会も終わり、各自が時間をおいて路地裏へと繰り出していたころ、俺は会議を仕切っていた若い男に声を掛けられた。

 何か用だろうか?いや、用が無ければ話しかけはしないな。何の用だろうか?


「……何の用だ?」


 なぜだろうか?この仮面を付けていると性格が強気になる気がする。仮面を付けている俺と仮面を付けていない俺、どちらが本性なのだろうか、どちらも本性なのだろうか。


「の、前に礼と挨拶をさせてくれ。僕はレブルズダリファ支部リーダーのロイだ。君とは初めてだよね?」


 軽く右へ首を傾げながら自分のことをロイと名乗った男は言った。どうも自信なさげなだが、そういう自己不信が性分なのだろうか?


「俺達二人ともが一度会ったことを忘れているという可能性を除けば、お前と俺は間違いなく初対面なはずだ」


 「なんだかとても回りくどく言うね……。でも、それならよかった」


 ロイは少し大げさに胸を撫で下ろしながら言った。そして生憎これが俺の性分だった。


「__仲間を助けてくれてありがとう。何度も言われているかもしれないが、僕からも改めて言わせてくれ。助かったよ」


 ロイは俺の手を握り、前屈みになりながら頭を下げ、深々と礼をした。

 __周りから少々視線を感じる。それもそうか。人が深々と頭を下げているのを見て、何だろうと気にならない人はいないだろう。


 そもそも俺の知る限りではリーダーというのはただでさえ注目される役職のはずだ。そんな人物が頭を下げているのであれば、そりゃ気にもなるか。


 __というかいつまで頭を下げているんだこの男は。

 人に感謝されるというのは悪い気分はしない……むしろ嬉しいが流石に限度というものがあるように思えた。そろそろ視線が痛くなってくる頃だ。


「……そろそろ顔を上げてくれないか」と、俺は少々ぶっきらぼうに声を掛けた。       

 __あれ?今の俺は客観的に見て嫌な奴かもしれない。

 

「ああ!ごめんごめん!」と、深々と下げていた頭はどこへやらロイは勢いよく頭を上げ、握っていた俺の手を放し、俺に向き合った。いちいち動きが大袈裟だ。中々感情豊かな人らしい。


「それで?結局俺に何の用が?」


「そう!それだそれ!忘れるところだったよ」


 忘れるところだったのか……。


「僕たち支部長は秘密の連絡網で連絡を取り合っているんだけどね……あ、これ言っちゃだめだったっけ……?」


 言っちゃだめだったのか……。


「……まあいいや」


 まあいいのか……。

 こんな情報漏洩しまくりの奴にリーダーが務まるのか、なんだか不思議に思えてきたけれど、それは人望とか指揮力とか、きっと色々あるのだろう。

 

 ロイは続ける。


「それで君のことをボスに報告したら随分と興味を示したんだよ。ぜひ一度会いたいということらしい。ということでどうだい?」


 幸運だ。「ぜひ会いたい!」と、言おうと思ったのだが、傭兵仕事のことを考えるとどうしてもためらって黙りこくってしまった。

 俺は両腕を組み、しばし考える。


 もちろん感情操作の件について、レブルズのボスに会うことは大きな手掛かりになるだろう。調査の一環として会っておきたいが……ただ問題はその時間が取れるかということだ。


「ああ!そんな萎縮しなくても大丈夫大丈夫。僕も一度会ったことあるけど、かっな~り気さくな人だったよ!」


 いや、萎縮してるわけではないのだが……。一体全体なんで……そうか、こんな仮面を付けていたら感情を読み取るなんて、無理な話だ。これじゃただの八つ当たり。


「……もしかして何か別のことかい?時間のことだったり、交通費だったり」


 __これは驚いた。


「……え?ああ、まあそうなんだ。色々忙しくてね、その……レブルズ本部とかまで行く時間が取れそうにないんだ」


 ただの予測かもしれないが俺の悩みの種を的中させたことに、俺は少し、驚いた。

いや、かなり……驚いた。

 __なるほど、このロイという男がリーダーな理由が少しわかった気がする。

 

「それなら大丈夫!その時はボスの方から会いに来るらしいからね。君がわざわざレブルズ本部行く必要はないよ。いつがいい?都合がつくようなら明日でも明後日でも、そこんところも君が決めてもらって大丈夫だよ」


 まだ俺は会うなんて言ってないのに……、ロイは両手の親指を立て、自信満々に言った。__?いや待て。


「……明日でも?」


「それは言い過ぎでは?」と、言わんばかりに俺は確認する。


「うん、明日でも。あっ明日にする?いいよそれじゃ今から連絡しようか?時間は夜がいいかな?」


「ああ、頼む」


 あ、__しまった。食い気味に掛かってくるロイの勢いに負け、ついあっさりと返事をしてしまった。まあ夜なら時間を作れないこともないが……。


「了解、それじゃ連絡するね」


 そう言ってロイは懐から何か石板のようなものを取り出した。

 恐らく連絡に使う魔道具なんだろう。かなり重たいだろうな。


 __いや、だけど、どういうことだ?

 

 俺はもちろんレブルズ本部の場所もボスの住所も知らないが、本部を利便性の観点から王都……もしくはその近辺だとし、ボスも同じく王都、もしくはその近辺にいると考えると、馬を走らせたとしても5日から7日はかかる距離だ。


 それを1日で?王都近辺ではないにしろ、まさか本部をこんな南端近く置いている可能性はかなり低いだろう。ボスが近くにいる可能性もだ。

 __ただの素人意見だが。


 いつの間にかロイは石筆の様なものを使って石板に何かを書き連ねていた。

 やはりその魔道具でボスと連絡を取り合っているのだろう。

 __大人数に見られているが、いいのだろうか?


 まあいい。


 __さて、思考を整理しよう。色々考えはしたが、結局は……。


 ボスがここから1日足らずの距離に住んでいる。

 魔術が関わっている。


 の、2つしかないのは素人でも考え付くことだった。


 

 

 


 


 

 

 

 

 


 


 


 

 


 


 


 



 


 


 


 

 


 


 


 


 


 


 

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