殺人鬼編

どう殺すか

 「となると、今日この機会、まだあの契約者が力に順応してない時に殺せなかったのは随分と痛手に思うが……そこんところはどうだ?」


 「痛いところをついてくれるな。この状況は儂も想定外じゃ。まさかアイスタントが負けるとはのう……。エージェントがウィンドの契約者に足止めされているのも想定外じゃった……」


 苦虫を嚙み潰したよう顔でウーノスは言う。


 「それはこっちもだ。アクアサポートがあそこまでやられるなんてな。今でも気を抜いたら首と胴体が離れて死にかねん状態だ」


 「契約者3人がかりであれとはのう……あれでも過剰戦力かと思ったのじゃが……甘く見過ぎていたらしい。無事なのはエージェントぐらいか」


 「そのエージェントとかいう女、なぜ引かせた?あのままウィンドの契約者を殺し、シュオルも契約者を殺すことは出来なかったのか?少なくとも、俺にはその余裕が残っているように見えたが」


 「無理じゃ」


 ウーノスはウォーターの疑問にきっぱりと答えた。


 「ウィンドが魔力を取り戻しつつあった。エージェントでも、魔法が使えない状態では神との戦闘は分が悪すぎる」


 「時間切れってことかよ」


 ウォーターは舌を鳴らした。


 「実際……、あの契約者に一対一で勝てそうな奴はどのくらいいる?」


 ウォーターの疑問に、ウーノスは自分の指を折りながら思考する。


 「エージェントと……プローシー……アイスタントが無理なら……ブラファーも駄目じゃのう……」


 その指が2本以上折られることはなかった。


 「残り5人の契約者の中で2人だけじゃ」


 「俺んとこは1人だな。そいつらを中心にし、他の契約者も合わせて一斉に襲撃するのはどうだ?」


 「駄目じゃ」


 ウーノスはこれまたきっぱりと答えた。


 「儂の契約者達は今現在スタリカ王国との戦争の重大な戦力になっておる。一斉に襲撃するには色々と都合が合わん。どうしても戦力に穴が開く」


 「と、言うことはさっさと戦争を終結させてしまえばいいってことだろ?」


 自分の案が次々と否定されるせいだろうか。少々不満げにウォーターは言った。


 「それが出来たら苦労しないわ。和平の道はもとより無し。戦力も拮抗しておる。封魔士とやらがいるせいで儂の契約者達も本来の力を出せんでいる」


 「……何か策を考えないといけないわけだな」


 「それなら、1つ。考えていることがあるのじゃ」


______


 まだ日も昇っていない早朝、スタリカ王国の南端に位置するダリファの町、俺はその路地裏を歩いていた。

 そんな暇な時間によくよく考えてみると、俺は何かと路地裏には縁があるような気がしてならない。人様に言えないことをしているせいだろうか。

 

 そんな路地裏をしばらく歩いた突き当りを右に行くと、正面に民家のドアが現れた。もちろんこんな利用するのに不便そうなドアが正面口なんてことはなく、裏口である。正面口はこの民家を隔てた通りに面している。


 俺はそのドアを3回ノックする。反応がない。

 ああそうだ。合言葉とかいうやつが必要なんだったか。


 「……王政に死を」


 俺は仕切り直してもう一度ノックをし、言う。

 合言葉がいるのかは甚だ疑問だったが、まあそういうものとして受け取っておこう。


 「……入れ」


 開かれたドアの前には、30代前半ほどに見える男がいた。確か……ギータという名前だったか。

 いかんいかん。人の名前というのはなぜそんな覚えにくいのだろうか。


 「黒仮面、お前で最後だ。遅いから通り魔にやられたのかと思ったよ。もうみんな集まってるぞ」


 そんなに遅かっただろうか?


 案内された民家の地下室には長机に座っている50人あまりの人が集まっていた。随分と広い。そこにはセラとアティッカ……プラタイヤさんの姿もある。アティッカの感情は大丈夫だろうか?いかんせん手掛かりがないので調査が出来ないままだ。


 俺は月に一度開かれるレブルズ定例会議に出席していた。もちろん、黒の仮面を付けてだ。

 傭兵団はこっそりと抜けてきた。つまりは問題にならないうちに出来るだけ早く戻らなければならない。


 そしてこの民家の大きさに見合わない地下室は、後で知ったことだが、どうやらレブルズのアジトとして改築されたものらしかった。


 俺は一番入口に近い席に座る。一番遅く来たのでそこしか空いてなかったのである。見渡す限りかなりぎちぎちだが、欠席者はいないということだろうか。

 それはともかく視線を感じる……。そりゃこんな仮面を付けていたらじろじろ見られるか。俺は合点する。


 「まず初めに、今回の定例会からセゴビア支部のメンバーも加わることとなった。そういうことで、少々狭苦しくはなっているがこのまま続けようと思う」


 セゴビア支部のリーダーだったレジン爺さんとは打って変わってかなり若そうな……(20代前半ぐらいだろうか?)地下室前方にいた男が立ち上がって言った。


 俺は会ったことがなかったが、恐らくダリファ支部のリーダーなんだろう。


 「えー……。それではまず、色々な現状報告からいこうか……。」


 そんなこんなでレブルズダリファ支部の定例会は始まった。いかんせん初めてのことなので身構えてはいたが、蓋を開ければどうってことない、現状の報告に最近の町の様子、これからの指針……計画だったりが話し合われただけだった。

 その計画も前に俺が聞いたことに比べて大きな変化は見られない。


 その議題の中でバーンのことやセゴビア支部のことが出て必然的に俺に注目が集まったりはしたが、それ以外はなんら変哲もない、まさに定例会と呼ぶべき内容である。

 何かを期待してたと言えば期待していたので、少々拍子抜けだ。


 


 


 


 


 

 

 


 



 

 

 


 


 


 

 


 

 

 


 

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