神の感覚
まったくだ。死が差し迫ってからようやく……、まだ少しではあるがようやく魔力を知覚できた。
だがひとまずは、貫かれた二の腕の再生が先決だ。俺は自分自身の魔力を込め、貫かれた二の腕を再生させた。
これで俺の状態は振り出し、向こうは2人。さてさてここが踏ん張りどころだ。
「……行きますよ」
「……」
「……」
言葉と共に、静寂__。あたり一帯が波の音に包まれる。
「……やっ」
その気の抜けた掛け声とともに、アクアサポートが体を水の鞭へと変化させる。またそれを素早く打ち付けて来るのと同時に急所を的確に狙うアイスタントの光線も攻撃を再開した。
凄まじいコンビネーションだ。恐らくこれが初めてじゃないのだろう。急所を狙う殺人光線を避けても、避けた先には激しくうねる水の鞭が待ち構えている。
しかもこの鞭!いやこの水!主に鞭のようなうねりで動いているだけで、急な方向転換も織り交ぜることで鞭には到底ありえない動きを実現している!
殺人光線は殺人光線でひと時も収まる様子を見せない。
__判断を誤ると致命傷になりかねない。
近距離はアクアサポート、遠距離はアイスタント、2つの布陣が俺を襲う。これが思った以上に厄介だ。そこに眼球光線も加わるとなると実質3人で襲われているようなもの……。
「ほら……そこ」
「……ガアッ!」
……避けられなかった!背中に鈍い衝撃が走る。皮膚が削り取られた感触がした。
光線に気を取られ過ぎて水の鞭に気が向かなかったのだ。だが……。
「……いける!」
水の鞭のみならば致命傷にはならない。ただ皮膚が少し削り取られるだけだ。だが油断はするな!次が来るぞ!
これならダメージ覚悟でアイスタントに近づき、接近戦を仕掛けれる!
段々と力も馴染んできた。これなら1人ずつ始末していけば勝てる!
「このままあなたをなぶり殺しにしていきます。ただ安心してください。最後には贖罪の時間をちゃんと用意します」
「……贖罪の時間なんて要らないわ。……早く殺しましょう」
「あなたは外交的性格とは裏腹に内向的性格は乱暴者ですね。それではだめなのです。邪神と契約した愚か者に贖罪の時間を与えてやらないと、あまりにも哀れだ」
「悪いがッ!時間を用意するのはお前じゃない!俺だ!お前らに走馬灯の時間を与えてやる!」
いいぞ力が馴染んできた!テンションも調子も右肩上がりだ!
__強化魔術だ。強化魔術を使い、魔力を脚に込め、一瞬で近づき、防御の隙を与えず、首を掻っ切る。多少のダメージは気にしない。
…………今だ!
防御を捨てた無防備な突進により俺の体はアクアサポートに鞭打たれ、皮膚が引き裂かれるような感覚が襲う。だがそれでもアクアサポートとアイスタントは反応しきれていないはずだ。このまま首を切る!
だが脚を踏み切り、3歩目を踏み出した瞬間、俺は違和感に気づいた。脚が重いのだ。何かが脚に絡みついて下方向へ引っ張られているような気がする。
しかしそれでも俺は4歩目を踏み出す。
__駄目だ。今のでスピードが落ちてしまった。それに気のせいじゃない。脚に……絡みついているものがある。砂だ!砂が俺の脚に絡みついてスピードを殺している!
「だと思いましたよ」
「……ん」
やがて脚に纏わりつく砂はふくらはぎまでせり上がり、俺の動きを完全に制止させた。やられた……この砂は……この魔術は!
「……
「あなたみたいな力に自信がある人はピンチの中にチャンスを見つけたらそれになんの疑いもせずに乗ってくる。そこにトラップを仕掛けておくと……?まったく戦いやすくて仕方がないですね」
完全に失念していた……アクアサポート本来が持っているかもしれない魔術のことを!あいつは土魔術が使えるのか……まずい!完全に拘束されている!
「
「
自分でもヤタ神様の魔力を扱えれるようになっているのを感じる。魔術の威力が上がっているのも。だが、それでも防がれた。完全に、防がれた。
「……捕まえた」
俺はすぐにアクアサポートに追いつかれ、唯一自由が許されていた両腕も水の鞭でよりきつく、より確実に縛られてしまった。
「それでは、何か贖罪はありますか?それを聞いてから、あなたの頭を貫いて終わりにしましょう」
まずいまずいまずい。人生何度目かも分からない大ピンチだ。魔術は使えない……こう手が使えないと指向性が持たせられないどころかコントロールも俺は出来ない。
もっと訓練しておくべきだったんだ。
魔力を全身から放出して拘束を破壊……駄目だ、そんなことをしたら全身が崩壊してしまう。
「おいシャバナ!どうした!早く吾輩に代われ!」
それも……駄目だ。まだ力が慣れ切ってない俺では、ヤタ神様本体の感覚は知覚できない……。
「贖罪は?罪の意識は?何もないのですか?ないならもう殺してしまいますよ?」
「……もういいから……早くとどめを刺して」
__もうダメだ。こんな……あっさりと、1つのミスで……。いやまて諦めるな。最後まで考えろ!足掻け!
「残念ながらそういうことらしいですので、さようなら。__
アイスタントは俺に手を向けた。
すぐに俺の目には眩い光が飛び込み、僅かな衝撃が脳を揺らした。
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