3人目
「魔術とはこうするのですよ__。
アイスタントの両手から光線が放たれる。2本の光線だ。これなら避けられる。
だがそんなとき、視界の片隅をふと小さな物体が横切った。石ころサイズの小さな物体。眼球だ。こちらを見ている。なぜ?どうして?あれはなんだ?
ただ、俺の全身が危険信号を発していた。あの眼球の視界……直線状にいるのは、やばい。急遽砂浜を踏みしめ、右斜め後ろへステップを踏む。
__これなら2本の光線と、眼球の視界からも逃れられる。
「!!」
正解だった。避けた瞬間、眼球からは別の魔術が射出された。あのまま2本の光線だけ避けるようにしたら、頭を……貫かれていた……!とんだ初見殺しだ。
「っはあ、はあ、はぁ……」
俺は不本意ながら肩で息をするようにして呼吸を整える。すぐ精神を揺さぶられるのが、俺の悪い癖だ。
そして眼球は!?眼球はどこだ!?あった!俺の周りを旋回し続けている。
「……初見でこれを避けるんですね。なら……これでどうです?」
アイスタントは眼球、右手左手と光線のタイミングをずらしながら、頭、首、腹、金的と確実に急所を狙ってきている。凄い精度だ。
「何やってるシャバナ!吾輩の力を早く使え!」
そんなこと言われても……感覚がつかめないんだ!
でも……光線は避けられている。このまま時間を稼げばきっと力が順応してくるはずだ。
「って思ってますよね。あなたはそれでいいかもしれませんが向こうはそうはいかないのでは?グズグズしてるとエージェントがかたをつけてこちらにやってきますよ」
「残念だが、そうはいかないな。勝つのはレジーナだ」
「本当にそう思ってるんですか?あの女も契約者らしいですが、エージェントに勝てるほどとは思えませんね。エージェントの強さはあなたが身をもって知っているのでは?」
悔しいほどにその通りだ。今でもエージェントには勝てる気がしない。それでも、レジーナは勝つ。なんてったって……。
「それでも、レジーナが勝つって言ってるんだから、勝つんだよ」
あいつ自身が、『勝つ』と言ったんだから。
「凄まじい信頼ですね。信仰とも取れます。だがその信仰も僕のウーノス様に対するものに比べたら砂粒以下です。まあ僕としても長引くのは避けたいんですがね、エージェントがこちらに来るまで待つより、あなたが力に適応するリスクの方が大きい」
そうだ。やはりこのまま時間稼ぎに努めるべきなのだ。そうやって回避している間に俺は力の感覚を掴んでやる。そのためには、やはり魔術だ。
「
「
アイスタントに向かった炎はアイスタント前方に発生した結界によって完璧に防がれた。感覚もつかめないままだ。今のも俺の魔術式でしかない。ヤタ神様の魔術式の感覚がつかめない。
だが時間はあるんだ。光線を避けるのにも余裕が出てきた。このまま力の感覚を掴むまで、何回でもやってやる!
「こうやって撃って守ってだったら、やっぱり僕の方がジリ貧ですね。はあ……もともと僕は不器用なんです。僕にはあの眼球をサポートに置くような近接戦闘が出来ない。遠距離はいいけど近距離はてんでダメ……。エージェントだったらこうはいかないでしょう。この特殊魔術の眼球だってそこから魔術を放てるだけ。決して術速も速くない。この結界だって接近されたら無意味だ。このままじゃ遠距離近距離どちらでやっていても勝てない」
そう悲壮感を漂わせながらアイスタントは言った。
「……なんだ?諦めてくれるのか?」
「いえ……ということで今回は近距離か遠距離、どちらかで勝てるようにしようと思いましてね。人間らしく、お互いの力不足を補って」
「……なんだ?」
力不足を補う……エージェントのことか?だがそれなら今はレジーナが戦っているはずだ。
「やっと来てくれたみたいですね」
海から水しぶきが上がった。その水しぶきは、うねり、伸縮し、やがて鞭のような形を成し、俺の体を勢いよく打ち付けた。続けざまに飛んできた光線が二の腕を貫く。
クソッ……!そういうことか!
俺の体を激しく打ち付けた水は段々と人の形を成していった。その姿が完全にあらわになったとき、始めてそれが女だと分かった。全身を動きやすそうな青みがかった半袖半ズボンで固めている。
3人目!
「……うるさい、私がいなかったら勝てないくせに……」
……感覚で分かる。契約者だ!それもウーノスのじゃない。水の神、ウォーターの!そうかこいつら!ウォーターとウーノスを介して繋がっているんだ!
水の神の契約者は、俺にちらっと眼をやった。
「……私は神の代理人……アクアサポート……あなたを殺します」
「やれやれ……なかなか暗い人ですね。いいです、早いこと殺ってしまいましょう」
なかなかどうしてまずいことになった……貫かれた二の腕からは血が噴き出している。このままじゃ……時間を稼ぐことが失血死にも繋がってしまう。
そもそも契約者2人相手にして時間を稼げるものなのか……?
____俺が気を動転させ頭の整理が追い付かないとき、処理しきれない情報の中。俺は一筋の光を掴んだ。
感覚で分かる……?まて、そんなこと今まで無かったはずだ。感覚を……感覚を掴めている!
「そうだシャバナ。それでいい。死を身近に感じて、ようやく掴んだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます