復活

 「さて、これで僕たちは契約で結ばれたわけだ。そんなわけで早速封印を解いてやろうじゃないか」


 「今ここですぐにですか?」


 どうやらあの島へ行かなくても封印は解けるらしい。少々拍子抜けだ。


 「あと1つ、言っておくよ。封印解除にかなりの魔力を使うから、僕はしばらく戦えないとね」


 「……?」


 まるで今から何かが起こるような口ぶりだった。何かが……戦闘が起こるような口ぶりだった。


 「さあ、早く吾輩の封印を解いてもらおうか」


 しばらく俺が言葉を処理できずに沈黙していると、ヤタ神様が急かすように口を挟んできた。


 「そうあんまりがっつくなよ。でも、ほら」


 そう言ってウィンドは指をパチンと鳴らした。その音は随分と俺の鼓膜を震わせ、風に乗ってどこまで飛んでいく大きな音だった。


 「これで終わりだ。封印は解かれたよ。それで1人と1神なにか実感はあるかい?」


 本当にこの一瞬で封印が解かれたのだろうか?俺はまったくもって実感が湧かなかった__。ただ、ほんの一瞬だけ。ヤタ神様を見るとそうでないらしい。いや、違う。見て思ったのではなく、思って見たのだ。俺は振り向いた__。

 覇気が、オーラが、雰囲気が変わっていた。禍々しい、名状しがたく形容しがたいものだ。

 もし俺の限りなく乏しい語彙で絞り出すように例えるなら、目に、首に、胸に、腕に腹に、腰に、脚に、全身に……鋭い針を突き立てられているような気分だ。少しでも動こうものなら全身が串刺しになってしまう。


 「ああ!実に素晴らしい気分だ!体の芯から力が沸き上がるぞ!こんな趣味の悪い空間も元に戻してしまおう!」


 風が吹いていた草原の大地が割れ、瘴気が噴き出す。草木は枯れ、青空が曇りだす__。

 俺にはこの草原が趣味の悪いものには到底思えない__むしろきれいなものに感じる。ヤタ神様の力が戻ったのはうれしいけれど、そんな草原が段々と破壊されていくのはなかなかどうして悲しいが、今はそんな気分ではない。


 「やれやれ……君こそ趣味の悪い空間じゃないか。魔力が無くなったから全部塗り替えされるというのも腹立たしいね」

 「たぎる!たぎるぞ400年ぶりの我が力!実に心地がいい!」


 ヤタ神様の体には両翼が生えてきていた。


 「ハハハ、まったく聞いてないや」


 ウィンドは深々とため息をついた。しかしすぐに真剣な表情へと変わる。


 「さてシャバナ、そうそう萎縮しないでくれ。色々君に話したいことがあるんだ。僕はもう魔力がないからね、この精神空間から追い出される前に、手短に話すよ」

 「……っは、はい」


 俺を貫こうとしていた針は優しく布で包まれていた。

 気づけば座っていたソファはガチガチとした金属の塊へと変貌している。随分と座り心地が悪いものだ。


 「取り合えず君は今から契約者としての力が何段階もあがるだろうね。初めは体が付いていけないと思う。でもそれでは駄目だ。早く適応して__シュオルを抑え込んで力を使いこなすんだ。高揚しているあいつは親の様に手取り足取り力の使い方を教えてくれやしないぞってことで、時間切れだ。君はあいつらに勝てるかな?」


 瞬きの瞬間にはすでにウィンドは消え去っていた。違う。重要なのは『あいつら』と言ったことだ。一体全体……最後に疑問を残してウィンドは消え去っていった。


 「ハーッ!ハッハッハ!実にいい!実にいいぞこの高揚感!シャバナ!これであの契約者共を皆殺しだ!」

 

 ……ん?ふと、俺の体が揺さぶられている気がした。咄嗟に振り向くが、何もない。そりゃそうだ。もうこの空間には俺とヤタ神様しかいないのだから__。

 違う現実世界だ!これは……レジーナからのメッセージ!


 「起きろシャバナ!襲撃だ!」


 目を覚ましたとき、俺の体は宙に浮いていた。急いで状況確認に努める__。右前方にはレジーナ、視界の奥には地上に人影、下には小屋が見える。左に見えるのは、多分気を失う前にいた海岸だ。となるとあの小屋はレジーナの家かなんかだろうか?じゃああの奥に見える人影が……。


 「シャバナ!起きたか。首尾は!?」


 ハッとするように、焦ったようにレジーナは言った。


 「完璧だ!封印は解けた!そっちは!?」


 「お前を小屋で寝かせていたら襲撃を受けた!あの感じ……」


 「神の契約者……代理人!そうだな!?」


 と、俺はレジーナが言い終わる前に先走って答えた。

 しかし、なぜ居場所がばれた?俺の少し足りない思考力から導き出される答えは1つだった。封印が解かれたことによる、ヤタ神様の溢れ出る力が察知されたのだ。

 契約者の男は、真っ白なコートで全身身を包んでいた。エージェントじゃない、別の契約者だ。ゆっくりとこちらへ向かって来ている。


 「そうだ!っ来るぞ!」


 「天使の梯子ヘヴンズレーザー

 

 コートの男から放たれた光線を俺達は危機一髪で躱す。もちろん躱したのはレジーナの魔術でだ。エージェントがいないならウィンドの契約者であるレジーナに速さで勝てる奴はいない。


 「シャバナ……戦えるか?」


 「……レジーナは逃げてくれ。お前は関係ない。俺の戦いなんだ」


 「……ッ私も戦える!」


 「いいから逃げてくれ!」

 

 もともとレジーナには封印を解いてやる義理もなにもなかったのだ。ならここで戦わせるのは気が引けてしまう。封印を解いて欲しいのも、元はと言えば俺自身のためなんだ。

 __これ以上レジーナを巻き込むわけにはいかない。


 「っふ……!ふざけんなよ!!」


 張り裂けるようなレジーナの声が、俺の鼓膜をつんざいた。


 

 




 



 


 


 


 

 



 

 

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