神殺しの闇魔導士
「七割……?それで吾輩の封印は解けるのか?」
「おいおい。舐めてもらっちゃ困るし、勘違いしてもらっても困るよ。僕は七割程度でも今のお前とは比べ物にならない力があるし、まだ封印を解いてやるとも言ってないんだけどね」
ウィンドは高く鼻を鳴らした。
「……どうせそれもお前の好きな取引なんだろう?何が望みだ?」
「よくわかってるじゃないか、僕と取引しよう。」
__今現在において俺はこの会話にまったく参加することができないでいる。それは話についていけないのもあるし、実際それが大きい。
だが、全盛期の七割ほどしかないというウィンドの覇気に、能力に、言葉に威圧されている部分があるのもまた事実だった。
「でもシュオル。僕が取引をするのはお前とじゃない。シャバナ、君が僕と取引をするんだ。力を与えるのシュオルだけど実際に戦うのはシャバナだろう?それならシャバナと取引しないとフェアじゃないね」
そうして2人だけの空間だった場所に俺が入り込む余地が生まれた。
「取引……俺は何を差し出せば、何をすればいいんです?」
「簡単さ。水神……ウォーターを殺してもらいたいんだ」
それはあまりにも軽々しくウィンドの口から放たれた。俺はそこに憎悪や怒りの感情を感じる取ることが出来なかった。もともとそんななんて感情持ち合わせていない淡々と、あっさりと、当たり前のように、ウィンドは言った。
確かに取引の内容は単純明快、一目瞭然、直截簡明だったけれど、一体全体、神と人間では殺しの意味が違うように思えた。
そもそも神は殺すことが出来る存在なのだろうか?
「……本気で言っているのか?」
さて、神殺しだとか2000年とかでどんどん話のスケールが大きくなっているような気がする。いや実際に大きくなっているのだけれど、実感がわかないというのが正直なところだ。
俺が神を殺す?ヤタ神様と同類の神を?殺す?
「ああ、僕は頭がおかしくなっていないし、いつでも本気だ」
「人間に神が殺せると?」
残念だが人間と神の殺しに関する認識は同じだったらしい。
そもそもただ国と貴族に復讐したいだけの俺が、なんでこんな神々の戦いなんかに巻き込まれてしまってるのだろう?胃が痛い。もちろん復讐を『ただ』なんて言うつもりはないけれども……。
「そこは僕も協力するさ。もちろんこの取引に応じるならお前の力も借りることになるけどね」
ヤタ神様の口から深々としたため息が漏れた。
「一度こてんぱんにやられているのに、まだ懲りないのか」
「僕が懲りるなんてことは今までもこれからもないさ。実際僕が負けたのは地の利が悪かっただけだ。次は勝てる。だけどそれをシャバナという協力者を得ることで確実なものにしたいわけだ。特に悪い取引じゃないと思うけどね?」
しばしの間、沈黙が流れる。
「……わかったもういい。お前が何を企んでいるかなんて大体予想はつく。吾輩は懲りたので否定も賛成もしないがお前がその気ならその気でいい。だからシャバナ、お前が決めろ。」
やれやれといった風にヤタ神様は俺に丸投げしてきた。いや、戻って来たのか。
しかし、なにが『だから』なのかは少し理解に苦しむところがあった。
またもや沈黙が流れる__。その間もウィンドは優雅に紅茶を飲んでいた。
__俺には選択肢があるようで、あるように見えるだけで、あの2神が何を企んでいるのかは分からないけれど、たとえ企みが分かったとしてもこの問いに対する答えは、道は、実質1つしかなかった。
「__分かりました。やります。取引しましょう」
ウィンドは口角を上げてニヤリ微笑んだ。__ヤタ神様もだ。
「いい返事を聞けてうれしいよ。それじゃその取引を確実なものにしようか」
そう言ってウィンドは懐から一枚の紙を取り出した。
「さあ、ここにお互いサインをしようじゃないか。これもある意味、契約だね」
確かにそのテーブルの上に差し出された紙をよく見ると取引の内容が羅列されており、その下には2人分のサインを書くスペースがあった。
「よく見てもらって構わないよ。サインには……ほら、このペンを使うといい。書き手の魔力を使ってインクにするペンだ」
そう言ってウィンドはまたもや懐から1本のペンを取り出した。
俺は言葉の通りに契約内容をよく確認する__。
ウィンドはヤタ神様にかけられている封印を解き、俺は神殺しに協力する。封印解除に失敗したらどうとか、ウィンドの力についてどうとかは書いてあったが、内容に不自然なところは見当たらない。
神殺しの期間も明記してある。細かく書かれ過ぎて逆に不自然にも思えた。
「自分から言っといてなんだけど、特に不自然なことは書いてないつもりだよ」
ウォーターに執着している理由は謎のままで、そこが少々気になるところではあるけれども、契約書を隅々まで確認した俺は、魔力を込めつつサイン欄に『シャバナ・ララガード』と自分の名前を記入した。
「それじゃ僕も一筆書かせてもらおうか」
そう言ってウィンドもペンを掴んでスラスラとサインを書きあげた。
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