大剣と翼

 「撃て!!」


 木々のざわめきが耳をくすぐる刹那、レジーナの声がそれを貫いた。


 「漆黒の弾丸ダークバレット!」

 「炎石砲フレアストーンキャノン!」


 魔力を溜め込んだ渾身の一撃が木々の合間を縫い空気を切り裂きながら、一直線で俺には見えない兵士達のもとへと突き進む。


 「レジーナ!頼む」

 「任せろ。しっかりと命中させてやるさ」


 放った魔術が木々に覆われ見えなくなったころ、遠くから炸裂音が響き渡って来た。その凶暴な音に俺は思わず耳を塞いでしまう__魔術は当たったのか?


 「当たったか!?」

 「ああ。ちゃんとやったさ。でもこんなんで満足してもらっちゃ困るな」


 そうだ、気を取られていたが魔術命中の成否に限らずに俺達は任務を遂行しなければならない。ならば今すぐ場所を変えるんだ。


 「ああ!頼む!」

 「よし!舌かむなよ!風の荷車ウインドキャリー!」


 瞬間、俺達を包むように下から風が吹き上げた。体がフワッと軽くなる。内臓を全部捨ててしまったようだ。


 「うわっ!すごいです!浮きましたよ!」


 気づけば4人の中で一番体重が軽いミラディの体は既に地面を離れ、わずかながらもフワフワと宙に浮いていた。


 「おい!まだかよ!」

 「うるさい!集中が切れるんだよ!そんな言うならお前も手伝いやがれ!」


 ルルゲラが叫んだ通り、比較的体重が重い男2人はまだ両脚が地面をしっかりと踏みしめていた。レジーナも既に体が宙に浮いている。


 「お前らの全身をつかめた!飛ぶぞ!もう1回言っとく、舌嚙むなよ!」


 来た。下から吹き上げる風が柔らかく俺の体を包み込んだと同時に、視界が追い付かないほどの速さで空へと飛び上がる……痛い。木々の葉と枝が自分の体を傷つける。

 肌を切り裂くその痛みがなくなったころ、俺の視界のはるか下には生い茂る木々が見えた。


 「どうだ!見たかルルゲラ!4人ちゃんと飛ばしてやったぞ!ハハハハハハ!!私は凄い!凄いのは私だ!私を褒めたたえろ!風魔導士なんて全員私以下だ!私に勝る風魔導士なんてこの世に存在しないんだああああああああああ!!!」

 「すげぇよレジーナ!さすがレジーナ!」


 レジーナが声高らかに宣言する。何がひねくれ者だ__誰がそんなことを言い出したんだ__そいつは耳も目もイカれてるとしか言いようがない__こいつはひねくれ者なんかじゃなくて唯我独尊自己肯定感マシマシの傲慢魔導士じゃないか……


 「分かったから声を抑えて早く移動してくれ。南西に向かうんだ。早くしないと敵にばれる」

 「飛んでますよ!私達飛んでるんです!」


 ミラディは1人楽しそうにはしゃいでいた。


 「ああ飛ぶぞ!ルルゲラ、シャバナ、攻撃は譲ってやる!」


 俺達の体は急加速し、体を掻き分ける風が頬に突き刺さってくる。


 「ウワアアアア!!!!早いです早いです!ビュンビュン飛んでますよ!」


 この今の状況を底抜けに楽しんでいるミラディは緊張感を何処かへ無くしてしまったのだろうか?

 そんなことを考えて間もなく、下から阿鼻叫喚とした声が聞こえてくた。下を見る。近づいたこの距離なら俺でも見えた。敵兵達だ。


 「っく……おいおい!スピードを落としてくれ!これじゃ狙いが定まらねえ!」

 「そうだレジーナ!スピードを落としてくれ!」

 「ヤッホーイ!」


  ルルゲラの言う通り視界も狙いも定まらない。これでは当たるわけないのは明白だ。


 「うるさい!私がサポートしてやるから早く撃て!」

 「ああもう!炎雷一閃えんらいいっせん!」

 「っ漆黒球ダークボール!」


 俺達はもうなかば適当に魔術を放った。この速さでは魔術が命中したことすら確認できない。


 「オラァ!命中したぞ見たか!今の私は無敵だ!いや……シャバナのがかき消された!クソッ!」


 いや、レジーナが言っている通りなら半分命中したらしい……らしいが俺にはそれを確認するすべがなかった。だが、半分かき消されてしまったということは相手がこの状況に対処してきているということだ。そろそろ一時撤退とするべきかもしれない。


 「イエーイ!ナイスです!」


 「レジーナ次は北だ!ルルゲラ!まだいけるか?」

 「誰に聞いてんだ!まだまだこれからだろうが!」

 「北だな!?全速力で飛ばしてやる!」

 「よし!だがひとまず次の攻撃で撤退しよう。相手が段々この状況に適応してきた」


 ……なんだあれ?その時、地上、その地上の俺がギリギリ視界に入る片隅で何かが光った。もちろんただの気のせいとも何かの反射とも捉えることもできるし、俺もそう処理しようとした。だが、俺がそう思考を巡らせる一歩前にミラディが叫んだのだ。


 「何か来ます!頭を守ってください!」


 あ……死ぬ。死んだか?俺。気づけばその光の点は、俺の目の前までやってきて目を貫くところだった。俺が気のせいとか反射とかの可能性を考え始めたのはなんとも恥ずかしいことながらまったく、油断していたということこの上ないのだが、光……いや光をまとった物体が目の前まで来てからやっとだった。


 「消魔ディスペルマジック!」


 助かったのか……?ミラディがが唱えると同時に……いやこの時の俺はそもそもミラディの言葉、我が目を貫かんとしている物体両方を認識していない状態だったのだけれど、とにかくミラディの封魔術により俺に降りか……いや振りあがろうとしていた脅威はものの見事に消し去った。

 たったそのひと時だけ。


 「なかなか腕のいい封魔士がいるものね」


 レジーナが急ブレーキを掛けたことで起き上がった体の目の前には、光の代わりに大剣と背中に純白の両翼を携えた1人の女がいた。

 いつの間にいた?どこから現れた?


 

 


 



 









 






 

 



 



 

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