王殺しの闇魔導士~復讐者の国盗り街道~

谷春 蓮

第一章

冒険者貴族復讐編

計画通り

 「お父さん!お母さん!」


 「逃げろシャバナ!逃げるんだあああああ!!!」


 「逃げてシャバナ!走って!」


 「ハァーッハッハ!!死ねやオラァ!!」


 あの日、父さんと母さんは死んだ。殺された。


 _______


 「シャバナお前はクビだ、このパーティーから出ていけ」


 俺は少しにやけてしまいそうになった。まさしく待ち望んでいた瞬間だ。


 「まさか……冗談ですよね?」


 俺は必死に敬語を保った。


 ここは冒険者たちが主に利用する大衆酒屋、そのテーブル一つ挟み、金髪の筋骨隆々の貴族の青年、バーンは俺にそう告げた。バーンが着ている鉄の胸当てには彼の貴族の家紋が大きく入っている。


 「俺が一度でも嘘をいったことがあるかぁ?このボケナスが!もう少し考えて喋れよ!」


 バーンは自分が貴族であることを利用して仲間にも傍若無人な態度をとり、素行も悪い、だが実力は確かであり、依頼の後の打ち上げは普通の冒険者ではとても手が届かない高級酒屋に連れて行ってくれることや、気に入った奴や機嫌がいい時には羽振りがいいのでバーンの周りには常に人が集まっていた。

 

 「俺のパーティーに入った当初は確かに役に立ってたかもしれないが、今はどうだ!?前の戦闘で魔物の一匹でも倒したか!?足手まといなんだよこの間抜けが!」


 バーンは俺に怒鳴り込んだ。一会話につき一罵倒を入れこまないと気が済まないのだろうかこの人間は。こんな人間でも貴族というのだからこの国は間違っている。


 「でも俺はこのパーティーに長年貢献して……黒魔術で敵を妨害したり……」


 すぐに了承すると不自然かもしれない……少々抗議したほうがいいな。もちろん敬語で。


 「黒魔術は敵の妨害専用の魔術なのかぁ!?それに今貢献してなかったら意味ねぇだろゴミカスが!この俺!貴族のバーン・アリメント様のパーティーには役立たずはいらねぇんだよ!それにお前の黒魔術、気持ちわりぃんだよ。ったく黒魔術士なんて入れなきゃよかったぜ」


 黒魔術ねぇ……バーンはそういって激しく机を拳で叩いた。それでも酒場の客や店員たちが目もくれないのは冒険者という荒くれものを主に相手にするこの酒場にとってこの程度日常茶飯事だからであろう。


 「でも……」


 ……うん、まったくもってその通りだ。


 実際俺は最近の戦闘でまったくに役に立っていないのは自負している。完全に役立たずと言える立場だ。口も性格も悪いがバーンの言ってることは正しい。至極まっとうな追放理由だ。相変わらず口が悪いが。

 

 だが……


 「それに俺達は国からの洞窟調査依頼を受けた。明日探索に出る。国からだぞ!当然報酬もバカ高いんだよ!そんなところに役立たずのお前を連れて行けるか!」


 俺が本当に使ってるのが黒魔術だけならな。


 「そうですか……分かりました。このパーティーから出ていきます」


 この追放も全部俺が仕組んだことだとしたら?国からの調査依頼……報酬もだけど難易度も高いんだろうなぁ……こいつはよく俺、いや俺たちに理不尽な暴力を振るってきた。顔が不快だとか、立ってるところが邪魔だとか、そんな理由だ。しかも殴られるのは男だけ。


 「やっとわかったかこの役立たず。さっさと出てけ」


 もし俺が全部仕組んだことだとしたら?さぁ!酒場を出て行こう!いやまて、顔に出る。出来るだけ落ち込んだように酒場を出て行こう……

 

 「おい待て。金は?」


 金?何も頼んでないはずだけどな?それにこういうのは奢ってくれるもんじゃないのか?貴族のくせにケチな野郎だ。


 「どういうことです?」


 「俺がここで今から飲む金だよ!早く出せ!迷惑料も込みだ!」


 まじかよこいつ……でも出さないと返してくれそうにないな。


 「ほらよ」


 俺はバーンに今持っているすべての金を財布ごと叩きつけて酒場から出て行った。

 おっと敬語を忘れてしまっていたな。


______


 「まさか!こんなにうまくいくなんて!」


 全部うまくいった!クビになったのも!そのあとにあいつらが受ける依頼も!全て!バーンの俺に対する認識「最初は使えたが俺たちについていけなくなった役立たず」そうなっているはず。俺がそう仕向けたのだから!もうあんなクソ野郎に敬語なんて使わなくていいのだ。これも全部全部全部!俺の故郷を滅茶苦茶にしたこの国と貴族たちへの復讐と革命のためだ!あの日からお前の顔を忘れた日はなかった!冒険者になり、使いたくないもない敬語を使いお前の懐に入りこんだ!これがその第一段階だ!

 

 「あ……」


 やばい、興奮しすぎた。今置かれている状況を忘れていた。有り金全部投げつけてしまったので今日宿に泊まる金がない。


 「やってしまった……」


 浮かれ過ぎはダメということだろう。まぁ今夜は野宿だ。こんな寒い日に野宿はいやだけれどもしょうがない。


 「寒いなぁ」


 そうして俺は人目につかない路地裏で夜を越すことにした。季節は冬の真っただ中、凍えるような冷気で身が引き締まるようになりながら夜を過ごした。それが原因かな。

 夢なんてまったく見ないはずの俺が夢を見たのは…………


 随分と昔の夢だった。故郷の夢、俺の頬を懐かしい風が優しくなでていた。でも悲惨なあの日の夢だった。俺が復讐を誓った、あの日の夢。故郷に貴族たちが来た、苦々しく悲しい夢。思い出せと言わんばかりに、脳裏に浮かんできた。


 忘れたことなんて……たった一度としてないのに。











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