AIが詠んだ世界
Tomato_Ichigo
第1話 文芸部に知らされた衝撃の事実
ー私たちは世界を
どのように感じているのだろうかー
受験生と言われ始めた4月
文芸部部長の原まどかは勉強そっちのけで俳句作りに励んでいた。
平年並みと言われた今年の桜は4月中旬になった今でもわずかに花びらを残している。
古びた校舎の端にあるこの教室
ー文芸部部室ー
と書かれた黄ばんだ紙が入り口のドアに張り付けられている。
新入生の部活動見学期間に入り、学校中が静かな熱気に包まれているが、この教室ではシャーペンの芯を罫線の入ったノートに書きつける音のみが聞こえる。
教室の端で1人の男子がしきりに時計を気にしながら、遠くで俳句に向き合うまどかを見つめる。
「俺、もう帰ってもいい?ここ、集中出来ないんだけど。」
「だーめ!もし一年生がきたらどうすんの?ひーくんがいてくれないと困る。」
「いや、俺がここで勉強してるほうが逆効果だろ。俳句に興味を持ってる文系の生徒なんて、大抵数学の問題を見せたら逃げていくんじゃないのか。」
「そんなこと言うなら、ここで勉強するのを禁止するよ。」
「いいよ。俺はお前の心からのお願いを幼馴染のよしみで受け入れたんだ。もともと、こんな部活に入る気はまったくない。だからこの部活やめる。」
ひびきは厚さ3センチほどもある参考書を閉じ、スクールバッグに手をかけようとする。
「待って、ここで勉強することを少しは許可するから、やめないで。ひーくんがやめたら私一人だけになっちゃう。」
「分かった。この教室をこれからも勉強部屋として使わせてもらう。」
ひびきは、シャーペンに芯を補充しながら、ぶっきらぼうに返す。
「たまにはさ、ひーくんも息抜きに俳句を一句ぐらい詠まない?」
いつもより小さい声でおそるおそる呼びかける。
「やだ。俺は文系じゃないんで、そんなのには興味はない。」
生粋の理系であると豪語しているひびきは、俳句には全く興味を示さない。
「俳句に文系とか、理系とかは関係ないじゃん。感じたことを素直に表現するだけなんだから。」
おばあちゃんの影響で小学生の時に俳句を始めたまどかは俳句に対して特別な感情を持っている。
「素直に表現するのは、難しいんだよ。俺には、心の中にしまっておくほうが向いてんだ。」
ひびきは閉じ込めていた思いが溢れる。
「そんなに強く言わなくてもいいじゃん。せっかくだからやってみたらって言ってみたのに。」
「そんな簡単に言うなよ。」
カチャン
ひびきは急に持っていたシャーペンを置き、顔をあげる。
部室には一瞬の沈黙が訪れる。
「それより俺のことをひーくんっていうのはやめろよ。学校なんだからさ。」
「いいじゃん、昔っからひーくんはひーくんだもん。」
語尾をわずかにあげ、からかうように言う。
ひびきの方に視線を向けると、一瞬視線が交差する。
「お前と幼馴染だということがバレたらめんどいんだよ。」
ひびきはすぐに目を逸らす。
「変に意識しちゃうから?」
まどかはなんだかんだ部室に来てくれるひびきが嬉しいと思っていた。
「それよりお前は勉強しろよ。受験生だからって口うるさく言われてるだろ。」
「ひーくんには1番言われたくない。それから逃れたいからここに来てるのに!」
高2であるがひびきはいつも部室で数学の問題を解いている。
「ひーくんだってたまには数学じゃなくて、息抜きに俳句を詠めばいいのに。」
だんだん小さくなる声が教室の床に落ちていく空気を感じる。
「俺は…医者になんなきゃいけないんだよ。だから…数学を解かなきゃいけないんだ。」
まどかの声とは裏腹に徐々に声を荒げていく。
バンッ 参考書を机に置く音が部室中に響き渡った。
沈黙が続いた。教室にあった全ての音が無くなった。
突然、部室のドアが開く音がした。
「冴島先生。珍しいですね。」
まどかの声が沈黙を破る。
冴島先生は一応文芸部の顧問だ。
しかし、情報の先生だからか全く俳句に興味がないように思える。
「お前たちに伝えなければいけないことがある。」
普段とは違う神妙な雰囲気にひびきもかすかに耳を傾けた。
「…今年中に新入部員を5人以上集めなければこの部活は廃部だ。」
「え、廃部…。」
2人に聞こえないぐらい小さな声がもれた。
「今はこんな感じでほぼ部員がいないけれど、一応伝統ある部活ですよね。それなのに何で…。」
間髪を入れず、言葉を投げた。
「学校側からの命令だ。俺のせいじゃない。」
冴島先生はいつも通りだ。張った声を出すわけでもなく、淡々と情報だけを伝えている。
「いいんじゃない。辞めるのにいいきっかけじゃん。」
「だめなの。ここがないと。」
まどかの声はかすかに震えている。
「まあ、部活を無くしたくないなら部員を集めるためのアイデアを考えておくんだな。じゃ。」
冴島先生はそそくさと職員室に帰って行った。部室のドアはいつもより少し大きな音を立てて閉まった。
「ねーどうしよう。なんかいいアイデアを考えてよひーくん。」
「え、俺?自分で考えろよ。」
「ひーくんが好きなチョコアイスを買ってあげるからさ、お願い。」
ひびきは聞こえていないふりを続ける。
「ねぇ、聞いてる?考えてよ。」
「わかったよ、考えればいいんでしょ考えれば。」
ご褒美に釣られひびきは渋々考え始めた。
「じゃ、その辺の本からなんかいいのを探してみたらいいんじゃねーの。」
文芸部の部室の隅には埃の被った年代物の本が積み重なっている。
「一応、俳句とか短歌とかの本がいっぱいあるね。在原業平の和歌もあるよ。ねぇねぇ、在原業平の作品について調べてみない。」
「それだったら、俺はやりたくない。」
「何で。」
「昔の偉人に興味がない。」
はぁー まどかのため息が漏れる。
その時、まどかは一冊の本に目を留めた。
表紙には 「AIと俳句」と書かれている。
「ひーくんって情報とかAIに興味はある?」
「まあ、嫌いじゃねーけど。」
「じゃあさ、AIと俳句の関係性について調べてみることにしない?」
「AIと俳句。へぇー。聞いたことのない組み合わせだな。」
ひびきは上の空で答える。
「ちゃんと興味を持って。」
まどかは10分くらい本を物色したが、役に立ちそうな本は見つからなかった。
「しょうがない、廃部の危機を救うためにAIと俳句についてやってみようかなぁ。」
まどかは半信半疑で調べてみることにした。
影が徐々に長くなってきた頃、部活動終了時刻を知らせるチャイムが鳴り響いた。
*アイスに釣られて幼馴染のお願いを聞いてあげたひびきがかわいいなと思った人は、
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