第10話 体調

 昔のことを思い出していた。


 きっと光姫ちゃんたちにとってはそんな昔のことじゃないんだろうけど、私にとっては……。


 時々、小学生の時のことが思い出せなくて、光姫ちゃんたちと会話が噛み合わないときがある。


 そんな時――ああ、私は本来ここにいる存在じゃないんだって……そう思うの。


 もう一度光姫ちゃんに会いたい。その笑顔がみたい…それだけを思って過去に戻った。


 でもやっぱり会うとそれだけじゃ満足出来なくなる。光姫ちゃんともっと話したい、もっと知りたい、もっと触れたい……。そう思うようになってしまった。


 私が過去に戻ったことで、おそらく光姫ちゃんとより親密になった。告白されて……付き合うこともできた。変わっている、未来は変わっているはず……なのに。


 光姫ちゃんの顔を見ると、どうしようもなく切なくて。いっそもっと離れないように…私から離れられないように繋ぎ止めておきたい。


 「ねえ、光姫ちゃん……大好きだよ////」


 「え!!////う……うん////光姫もね、みっちゃんのこと……んっ――――」


 不安を塗り潰すように、強く口づけした。光姫ちゃんのぬくもりを一番近くで感じたくて、唇を押し当てる。


 かかる吐息が名残惜しいけど、唇を離した。光姫ちゃんはキスをするとつい呼吸を忘れそうになる癖があるから……。


 「えへへ……みっちゃん…//」


 幼い表情の中にどこか色っぽさがあって……光姫ちゃんが最近大人びていくのを傍で実感していた。


 「光姫ちゃん、私達ずっと一緒だよねっ…離れていかないよね?」


 「光姫がみっちゃんから離れるなんて……例え、何されても離れたりしないよ!それくらい好きなんだあ////」


 「そんな事言われたら……色々したくなっちゃうな…♡」


 「…………いいよっ……何されても////」


 光姫ちゃんは付き合ってから凄く私に好意を示してくれるようになった。これだけ一緒にいた私でも驚いたくらいに。


 「ね、もっかいキスして……♡♡?」


 光姫ちゃんが可愛くおねだりしてくる。理性が吹き飛びそうだけど……既所のところで抑えた。



 「だ〜め。そういえば光姫ちゃん、どこか体調悪いとかない?」


 「む〜〜〜。してくれないのっ………みっちゃん」


 「うっ、ごめんね……でもせっかくだしお話しよっ?」


 「ん〜…………わかったあ。でも光姫どこも悪くないよ!光姫が風邪引いたこととか今までなかったでしょ!」


 「たしかに…じゃあそれじゃないのかな……」


 「それじゃないって?」


 「あっ、何でもないの!じゃあさ、例えば……どっかこの夏出かける予定ある?」


 体調じゃないなら事故とか……?『事故』……何かが引っかかる。


 「えへへ……デートのお誘いってこと?光姫はいつでも空いてるんだあ。これから色んなところに行こうね」


 「う、うん!夏は色々イベントあるよね。花火大会とか、祭りとか、プールとか――――ってごめん。光姫ちゃんはプール苦手だっけ…?」


 「う〜ん……でも、みっちゃんと一緒なら行ってみたいかも……」



 「も〜光姫ちゃん可愛すぎっ!えい」


 「わわ!」


 光姫ちゃんに飛びついてみる。自然と私は光姫ちゃんを見上げる形になっていた。お互いの息遣いまで聞こえてくるような…そんな時間。



 「あ……//」


 「みっちゃん……♡♡」


 頬に暖かく、柔い手を添えられる。その手からは興奮が伝わってくる。そのまま顔を口元まで引き寄せられた。艶めかしい唇に再び触れる。


 「……っん……光姫ちゃん……♡♡」


 触れ合っているのは口もとだけ……。それだけでも光姫ちゃんを強く感じて、鼓動は更に高鳴る。

 最近、積極的な光姫ちゃんに私はドキドキしっぱなしだ。


 「……ん………みっちゃん可愛いね。顔とっても赤いよ?ドキドキしたの…?////」


 「うん…………した……ずっとしてるよ////…光姫ちゃん……なんか最近大人びたもん…」


 「それはみっちゃんもでしょ〜。突然大人っぽくなったと思えば誘惑してきてさ……今日だって急に家に誘ってきたくせに〜////」


 悪戯な笑顔を向けられる。すぐそばにあるその綺麗な顔にいつも見惚れそうになる。



 ――私は、確かに光姫ちゃんから見れば大人びたんだろうな…。でも……私は過去に戻って自分の幼さを感じることの方が多い。


 「可愛げがあるのはほんと身長だけなんだから〜。あ、もちろんみっちゃんは超絶可愛いけどね!全部が!」


 「うん!光姫ちゃんも誰より可愛いよっ。学年一可愛いもん。というか学校一かも!」


 本心から出た言葉。私の中で光姫ちゃんはそのくらい可愛くて、憧れで……。


 「それはないよ〜。みっちゃんの方が可愛いもん!割と男女揃ってみんなみっちゃんが一番可愛いっていう子多いんだよ?」


 そうなのかな……?でも私は、光姫ちゃんに可愛いとさえ思ってもらえればそれでいい。その他なんて全く興味はなかった。



 ◇◇◇



 あの後、もう少し話したり、イチャイチャした。

 でも……光姫ちゃんが死んでしまう理由は分からなかった。


 もしかしたらやっぱりこの世界なら光姫ちゃんは死なないんじゃ?ついそんな楽観的な思考にたどり着いてしまう。


 でも駄目だ。それで後悔したって遅い。少しでも情報を掴まなくちゃ……。


 あと、今日は光姫ちゃんに触れることができた。一度もすり抜けたりしなかった。


 一体何故だろう。すり抜けるときとそうでない時の違いはあるのだろうか。


 変わらず未来から来たことは全く話せなかった。それがこの世界のルールなのだろうか…。それとも……?今度光姫ちゃん以外にも試してみる必要がある。





 その日の帰り道。夏空のいわし雲の下、光姫ちゃんのことだけを考えていた。


 何だか――――ふらふらする。


 皆で海で遊んだときくらいからそうだ。微妙に体調が優れない。光姫ちゃんには気づかれなかったけど……。


 ここのところ気を詰めすぎなのかもしれない。ストレスで体調を崩しているのかも。


 やけに重たい体を動かして、その日は帰路についた。

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