ラプンツェル

宝井星居

第1話 プロローグ【現在】

「いいけど、ママも使うからiPad2時間までにしてね」

「え〜💦 150分てあるんですけど!」

「嘘、なんでそんな長いの? ディズニープラスじゃないの」

「ディズニープリンセスに夢中なーんて、ママの育成プランにないっしょ?」

 ユカリは皮肉っぽい笑みを浮かべていた。MACのヌードカラーの上にドラコスのリップを重ねづけしている14歳。平均よりはいけてると思う。別居中の夫に目が似たのがとてもよかった、そこだけ不倫野郎の功績と認めてやる。ユカリもぱっちりした目を意識していて、二重の瞼にはうすくラメ入りシャドウを伸ばしている。それにしても今どき中学生のまつ毛加工技術は神業。母世代うちらにはとても真似できない。つけまつ毛不使用で一割以上大きく見せることに成功している。

(……だな。プリンセスものじゃなさそう)

 ユカリがサブスクで見ようとしている映画タイトルを確認してみよう。


 


「あ……」

「危っ」

 iPadを落としかけた、いや手から滑り落ちかけたのをユカリがキャッチしてくれた。

「どしたの更年期障害?」

 そんな言葉も覚えちゃってるんだ、ネットネイティブだな。

「まだアガル気ありません」

「でした。ママけっこう若く見えるから更年期じゃないね」

 見えるってなに💢 けっこうって? 30歳弱しか離れてないのに。ただ十四歳の自分がユカリほどキラキラしてなかったのは確か。目と二重以外はわりと似たと思うけど……この子が私の遅れてきた思春期のプリンセスということにしておいて、いいのか。


 それはそれで。

 ラプンツェル……そのイメージ、髪の長い少女、童話でもプリンセスでなかったはず。その少女の名が心を大きくかき乱した。二十七年前の記憶から引き出されただ。ラプンツェル。ロマンチックでもなんでもない、忘れていたい思い出したくない方の記憶だ。記憶というはこの中にしまっておいた

 とっても髪が長かった。中学二年の時クラスメートだった小菜田こなたせり……。





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