明日、僕は転生するらしい。
みたらし
明日転生するって神様が言ってた
夢の中で、知らない男にこう言われた。
「明日、君は転生するよ。おめでとう。次の世界でまた会おう」
夢は妙にリアルだった。声の響きも、背景の白い光も。
目が覚めたあとも、その感触が肌にこびりついていた。
ベッドの上でぼんやりと天井を見ながら、
俺、 は思った。
──転生って、死ぬってことだよな?
朝の空は、やけに青かった。
雲はちぎれたように散っていて、陽射しがまぶしかった。
母親が作ったいつもの目玉焼き。
父親の小言。
妹の不機嫌な「早くして」。
いつもの朝。
でも、今日が最後なんだと思うと、
全部が、少しだけ美しく感じた。
学校に向かう道も、
昨日までとは違って見えた。
風の匂い、カーブミラーに映る自分、電柱の影。
「ここを歩くのも、たぶん今日が最後なんだな」
そう思っただけで、少し胸が締めつけられた。
教室では、いつものやつらがいつものバカ話をしてた。
俺はその輪の端にいて、いつもみたいに笑って、うなずいて、返した。
だけど内心では、
(俺、明日いないんだよ)
と何度も、何度も思っていた。
俺が明日死ぬことを、誰も知らない。
それは少し寂しくて、でも少し安心でもあった。
「なあ、トモヤ。お前、今日テンション低くね?」
隣のミナトが言った。
俺は曖昧に笑ってごまかす。
「ちょっと寝不足。変な夢見た」
「どんな?」
「……明日転生するって、神様に言われた」
「は?」
「まあ、忘れてくれ」
ミナトは眉をひそめたあと、「寝ろ」とだけ言って教科書を開いた。
それが、やけに優しかった。
⸻
その日は、何も特別なことはなかった。
体育ではバスケ。
昼は購買のパン。
放課後は図書室で本を読むフリ。
それでも、どれもが一瞬一瞬きらめいていた。
ありふれた、けれど確かな「今」だった。
(もしも、これが夢だったらいいのに)
(もしも、明日が続いてくれるなら)
でも、俺は知ってる。
明日になれば──俺はここにはいない。
そう信じていた。
……でも、死ななかった。
朝、目を覚ました俺は、生きていた。
息をして、体は動いた。
布団の温もりも、光の匂いも、確かに“ある”。
拍子抜けするくらい、何も起きなかった。
「夢だったのか?」
そう思って起き上がった、その時。
部屋のレイアウトが、微妙に違っていた。
机が左に寄っている。
カーテンの模様が知らない柄だった。
母親の「おはよう」の声が、昨日とまったく同じトーン、同じ言い回しだった。
──それを、俺は“聞いたことがある”と思った。
昨日と、まったく同じだった。
学校へ行っても、何かがズレていた。
教室の壁のポスターが違う。
席が一つ足りない。
ミナトが──俺を見て「誰?」と言った。
それでも俺は、生きていた。
でも、これは“昨日までの世界”じゃなかった。
俺だけが、どこか違う場所に立っているような感覚。
(ああ──転生って、こういうことか)
俺は死んでない。
でも、“この世界の住人”じゃなくなった。
そう、気づいた。
夢の中、再びあの神様が現れた。
「よく頑張ったね、 トモヤ。
君は、ただ“目覚めてしまった”だけなんだよ」
「ここは君のために作られた世界。
けれど、君はそれに“気づく側”になってしまった」
「君は転生する。
──この箱庭を出て、“自分の意志で”生きる世界へ」
「怖がらないで。君は、もう人間になっているんだ」
俺はうなずいた。
昨日までの世界がどれだけ優しくても、
それが“作られた優しさ”だったなら──
俺は、それを手放してでも、“本当”を選びたかった。
だから俺は、目を閉じて言った。
「ありがとう。
ここは、優しい夢だった。
でも、目を覚ますよ」
目を開けると、
そこは知らない空の下だった。
風が吹いていた。
俺はそれを、“生きている”と感じた。
──トモヤ、17歳。
転生完了。
明日、僕は転生するらしい。 みたらし @MITARASI_
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