アシェンプテル

こはる

第1話 『アシェンプテル』

『アシェンプテル』


灰かぶり娘という意味を持つそれは、私につけられたあだ名だった。


昔は幸せだった。


私には魔法の才能があり、両親がいつも褒めてくれた。


けれど、母が死んでから生活は変わってしまった。


父は母が死んだあとすぐに再婚した。


その時、義母と2人の義姉が家にやってきた。


まだ、このときは耐えられた。


でも父が事故で死んだあと義母と義姉たちは私を妹ではなく、『召使い』として扱うようになった。


私の部屋は義姉にとられ、天井裏になった。


冬は寒く、暖炉の近くで眠ることが増えた。


朝になると顔には灰がたくさんついていた。


だからか、私は『アシェンプテル』と呼ばれるようになった。


毎日、毎日いびられる。


こんな生活嫌だ。


そうだ、自殺しよう。


けれど、それじゃ、なんにも面白くない。


「お母さま〜舞踏会用のドレスはどうしましょー?」


義姉の声が聞こえてひらめいた


舞踏会


これだと。


舞踏会にはこの国の王子が主役らしい。


なにやら婚約者を決めるために行うとか。


なら、私も舞踏会に行き、どうにかして


王子を殺せば、自分のこのクソな人生に華が咲くのではないか


この国の重要人物を殺してから死ぬ、なんて素敵な最期だろう。


それからは舞踏会に行くための準備をした。


けれどそれは義母と義姉たちにバレ、禁止となった。


(どうしよう。どうにか、舞踏会にいかないと)


気づいたら舞踏会の日になり、行く方法が見つからず悩んでいた。


義母たちは先に行ってしまい、ついていくという選択肢もなくなってしまった。


そんなとき、私の目の前に魔法使いが現れた。


「可哀想な『アシェンプテル』。ワタクシの魔法を使って舞踏会につれてってあげましょう。ですが忘れないで。ワタクシがあなたにかけた魔法はすべて12時に解けてしまいます。気をつけて」


カボチャは馬車となり、来ていた服は立派なドレスになった。


そうして私は馬車に揺られながら舞踏会に行った。


ナイフを握りしめ、失敗したらどうしようと震えながら。


そうして舞踏会につき、王子を見つけた。


彼は長い黒髪を後ろで一つにまとめいかにも王子のような服装をまとっていて、女性が群がっていた。


(どうにか一人になってくれないかしら...)


そんなことを思っていたとき、彼と目が合った。


そうして笑顔を私に向けた。


周囲から黄色い悲鳴が降り注いでいた。


ただでさえ王子は顔が良くて輝いているようなのに笑顔になるとその輝きが増して見えるのだから恐ろしい。


そんな彼が私に近づいてこういった。


「レディ。私と一緒に踊りませんか」


正直予想してなかったので驚いたがこれは彼に近づくチャンスだと思った。


そうして一緒にダンスを踊った。


正直、王子の顔は近いこともあって破壊力がやばかった。


ダンスが終わったあと私は王子から解放されず、一緒にバルコニーに行くことになった。


バルコニーには護衛がいないらしい。


これは間違いなくチャンスだ。


今なら誰にもバレずに彼を殺せる。


それから私と王子は少しだけ世間話をした


そうして気づいた。彼は世間から噂されている『王子』ではないということ。


そういうふりをしているだけで、本当は年相応の男の子なのだと。


楽しかった。そんな彼と話していると昔、両親と幸せに生きていた頃に戻れたような感じがした。


けれど私はもう、戻れない。私は彼を殺すためにここにきたのだから。


幸せだったときに戻れたような感じがしたとしても、それでも、私は彼を殺したいのだ。


そうして私は隠していたナイフを彼の腹に刺した。


真っ赤な花が彼の腹からさいていた。あたり一面に鉄のにおいが漂う。


私は彼から離れようとした。けれど、彼は離してくれなかった。


彼は私を抱きしめた。意味がわからない。


そんな彼は「それじゃ、だめだよ。殺したいならもっと深く刺さないと。」と私の耳に囁くように言った。


もっと?私は自分の精一杯の力をかけたつもりだ。


「女の子って非力だからね。しょうがないから私...僕の力を貸してあげるね」


そういって彼は私の手をナイフのグリップを握らせ、彼の手はそれを包み、


彼はそれを思いっきり貫かせた。


温かい、赤いものが私の手にまとわりついた。


何をしているのだ、この王子は。


私は怖くなり、逃げ出した。


笑っていた。彼は間違いなく、笑っていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


昔々、ある国に『完璧』を求められる王子がいました。


彼にとって人生はいつも退屈でした。


彼にはこれから王によって決められた女性と結婚し、子供を作り、国を治めるという道しか残されていなかったのです。


そうして婚約者を決める舞踏会が近づいたとき、王子は魔法を使って国にいる女性を見ることにしたのです。


ですが、理想の女性は見つからず落ち込んでいたとき、ある少女を彼は見てしまいました。


その少女は『アシェンプテル』と呼ばれていました。


その少女は王子のことを殺そうとしていました。


なんと王子はその少女に『恋』をしてしまったのです。


そうして舞踏会が行われ、彼はその少女によってナイフで刺されました。


彼は死の間際笑っていました。


なぜなら、この退屈な人生を初めて恋した少女のおかげで終わらせられることができたからです。


そうして舞踏会が行われた翌日、人々は混乱しました。


なにせ『完璧』と言われた王子が死んだのですから。


同じ時、『アシェンプテル』と呼ばれた少女が王子に刺されていたナイフと同じもので腹を貫かれ、死んでいました。


王はこの事実を受け止め王子と少女の事件に関連性はあるのか、犯人は誰なのか国の兵士達に必死に探させましたが結局何もわかりませんでした。


そうして数十年後、この国の王は死に、後継者もいなかったため滅んでしまいましたとさ。

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アシェンプテル こはる @kohakoha2132

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