『神崎さんは知っている』

甲斐悠人

第1話「放課後のラブレター」


「……なんだこれ」


山口翔也は、机の中に押し込まれていた一通の封筒を手に取っていた。

白地にピンクの縁取り、見覚えのない筆跡で、彼の名前が書かれている。


「山口翔也くんへ。放課後、図書室で待ってます。――“秘密”の話、しよう?」


隣の席でちらりと覗き込んだのは、同級生の神崎楓(かんざき・かえで)だった。黒髪ロング、学年トップクラスの美少女にして、なぜかいつも翔也のことを監視しているような目で見てくる、少し不思議な存在だ。


「ラブレターか……モテるねぇ」


「いや、これはちょっと違う」


翔也は封筒を裏返すと、目を細めた。

――そこには、暗号のように意味不明な記号と数字の羅列が書かれていた。


《B3-17-α:23:59まで》


「……何かのコードか?」


「……っ!」


隣で、神崎楓の表情が一瞬、強張ったのを翔也は見逃さなかった。


「神崎。何か知ってるのか?」


「べ、別に! なにも!」


「嘘は嫌いだよ」


「……ほんと、観察力だけは無駄に高いんだから」


神崎は小さくため息をつき、翔也の耳元に顔を寄せて囁いた。


「放課後、行くなら……気をつけて」


「なぜ?」


「そこ、普通の“告白”の場所じゃないから」



---


放課後、図書室。

人気のない時間帯。

翔也が扉を開けると、そこには一人の少女が待っていた。


金髪に近い茶髪、透き通るような肌――クラスでもあまり話さない、美術部の月島すみれ。


「来てくれて、ありがとう。……山口くん。あなたに、“殺人事件”の相談をしたいの」


一瞬、時間が止まったような錯覚に陥った。


恋と謎は、いつも唐突に始まる――

翔也の静かな日常は、静かに、しかし確実に音を立てて崩れていく。


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『神崎さんは知っている』 甲斐悠人 @Kai_yuto

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