第15話

私が店内を見て回っているうちに、陛下は何やら買い物をしていた。

おそらくご自分がつけるものだろう。

見目が麗しい陛下には、きっとなんでも似合う。


陛下が店内を出ていくのを、慌てて着いていく。


「セレスティナ。甘いものは好きか?」

「甘いもの…ですか?」


私はあまり甘いものを食べたことがない。

それでも鮮明に覚えているのはーー母と食べたプリンだろうか。

とても甘くて美味しくて。


「好き、だと思います」

「そうか、良かった」


彼はそういうと、近くにあったカフェへ入っていく。

そこはどうやら、女性から大人気のカフェらしく、すでに行列ができていた。


「陛下、並びませんと」

「並びたいのか?」

「へ?」


もしや、実力行使なさるおつもり…!?


「あの、こういうときは並んだほうが…」

「冗談だ」


くすくすと笑っている。


「か、からかわないでください…!」


そのとき、「あら、陛下」と声をかけてきた女性がいた。

すごく妖艶な見た目をしている。


「ご機嫌麗しゅう、陛下。隣の方は?」

「婚約者だ」

「まあ、婚約者」


彼女は私をじっと見つめると、ふっと嘲るように笑った。

この人は、私を馬鹿にしたーーということか。


「そうでしたのね。ご挨拶させてくださいまし。私は、オーブリー公爵家の長女、イザベラ・ルル・オーブリーですわ」


私は、こういう時ーーきっと、今まで緊張してきただろう。けれど、毎日暇なおかげで学び直していたことが、自信になる。


「はじめまして、イザベラ嬢。ノクターン家王女、セレスティナ・ラナ・ノクターンですわ」


自分にとって、できる限りの華麗なお辞儀カーテシーをする。イザベラは一瞬私を睨みつけたが、すぐに元通りの貼り付けたような笑みに戻っていた。


「まあ、ノクターンの。セレスティナ王女殿下、よろしくお願いしますね」

「ええ、こちらこそ」


ひととおり私と交流を終えた後、イザベラはすぐに陛下の方を向いた。


「そういえば陛下、今度父が伺いたいそうですわ」

「…」

「後日お手紙をお送りしますね」


あんなにベタベタと陛下にくっついていても、陛下は何もしない。もしかして、陛下はあんなふうに、妖艶で美しい女性の方が好き…?


「あ、そうだ、陛下」

「…」

「今度のお披露目会、楽しみにしていますね。きっと女性全員が陛下に見惚れてしまいますわ」

「…」

「嫉妬してしまいそう…」


思わず憤ってしまった。

婚約者の前でする発言ではないし、「嫉妬」だなんて…陛下はあなたの婚約者じゃないのに……。


「セレスティナ」

「はい」

「食べたいものを先に選んでおけ」


そういって、置いてあるメニューを手に取り私に渡す。

それから、陛下はイザベラの方を向いた。


「そこをどけ。邪魔だ」


と一言。

その眼差しは、凍えるように冷たくて…。


イザベラは私に踵を返して、去っていった。

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忘れられた王女の幸福 月橋りら @rsummer

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