2
ぱかりぱかりと馬を駆る。
うららかな陽気。穏やかな愛馬。
口うるさい爺や。
「よろしいですかな。そもそも
駿府の今川館を出てこちら、ひたすらに説諭してくる。
昨今の情勢にはじまり、今川家の立ち位置、直冬方の武将、戦力、姻戚関係、今回の戦の意義、具体的な行動日程等々。微に入り細を穿つの語句がこれほどあてはまる事象もそうあるまい。
延々と続く熱弁はついに武士の心構え編に突入した。はじめのうちは目新しい情報と丁寧な語り口に惹かれたが、10日目となると疲れもする。こちとら十歳であるぞ。
「三郎。」
「む、なんですかな。」
出陣前に食べる昆布のありがたみについてとうとうと語っていた殿村三郎は、やや不思議そうに貞世の顔を見た。ともかく話題を転換したい。よろこんぶってなんやねん。
「あー、直冬殿はどういった御方ですか?」
三郎は渋面をつくると、咳ばらいをひとつした。
「直冬殿は直義様の聡明さと尊氏様の豪胆さを併せ持った御方です。お強いですぞ。」
貞世は感嘆する。聡明で豪胆とは、超人ではないか。
「・・・そんな方を誅伐しに行くわけですか。」
「ですな。傘下も桃井様はじめ建武以来の歴戦の勇士。一筋縄ではいきませぬ。」
まじかあ。やだなあ。
貞世が悲嘆にくれていると、三郎が怖い顔でこちらをにらんだ。
怖気づくなというのであろうか。
「ところで貞世様。」
「なんですか?」
「某は、70になります。それだけ、経験を積んでいるわけですな。」
「はい。」
「当然人とも会ってきた。ゆえに、ある程度ものの見方というものに自信があります。どう見られるか、ということも。」
「そうですね?」
何の話だ。
「その、取って付けたような敬語はやめなされ。不快以外のなにものでもない。」
ぱちくりと、目を瞬かせる。
「どのような意図があるかは存じませぬ。しかし貞世様。あなたは今川家の名代としてここにおられる。あなたの評判が今川家の評判なのです。今川の息子はふざけたやつよと噂されては、御屋形様にもご迷惑がかかるのです。」
「・・・」
「無礼というのは、形式ではない。心根ですぞ。」
「・・・なるほど。」
「ゆめゆめお忘れなきよう。」
「・・・わかった。」
三郎が、渋面のまま離れていった。
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