自動ドアが反応しないことに怯えていたけど、あの頃はとにかくせっかちだったんだろう
黒川未々
村上春樹オタク
私は村上春樹オタクだ。
世間一般よりも村上春樹が好きだと自覚したのは、社会人になってからだった。
小説はもちろん、エッセイも旅行記も好き。たまにラジオも聴いていた。
作品の書き方に困ったら、村上さんはどのように書いているだろうかとふと考える。
後から自分の一文を見て、「あ! 村上さんっぽい!」と気付くこともある。どこがどうとは説明できないけど、直感で。
以前、「村上春樹は批判しにくい」とSNSに書き込んだ人がたくさんいいねをもらっていて、私の好きだった漫画家さんもいいねをしていた。
ショックだった……
村上春樹を話題に出すとアクセスやリアクションが稼げるのだ。
私はむしろ、「こんなに批判されている作家はいない」「批判してもスルーしてくれている作家はいない」と思っている。
「村上春樹は純文学だ」という人もいる。
もちろん文学だけど、純文学作家からは違うと言われてしまうのではないだろうか。
私も、厳密には違うと思っている。エンタメ小説だ。ファンタジー要素もある。
一昨日、実家で『職業としての小説家』(新潮文庫・2015年)を久々に読み返した。全然覚えてないはずなのに、無意識にそこに書いていることを実行していたことが判明した!
ちなみに村上さんは本書の冒頭で、「小説家同士は仲良くなれないのでは?」と自身の経験から語っている。
そんな身も蓋もない事を言うと、カクヨムをはじめとした交流もできる投稿サイトはどうなってしまうんだ? と思うかもしれない。
私の友人も小説を書いている。なろうに投稿することを勧めてくれた友人だ。
私は思うのだけれど、「小説家」と言ってもいろいろいるのだ。
私は恋愛小説家(文学より)。短編〜中編小説家。
友人はファンタジー小説家、BL小説家。長編小説家。
私はBLもファンタジーも読むけれど、今のところ、どちらも書くつもりはないし、これから先も書ける気がしない。
これが同じジャンルで作風も似通っていたなら、きっと仲良くなれていない。
もちろん、友人は気遣いの人で、それで今のところ楽しく活動できているのも多分にある。
昨日は『職業としての小説家』を引用しながら、「村上さんはこう言っている。こうやって書いてみてはどうだろうか」と話してみた。
引用しながら私も何か掴めた気がする。
今までは「この場面が好き」「このキャラが好き」「この一文がいいね」くらいしか言えなかった。完読作品が増えてきたからか、「ここを変えてみては?」と自然に言えるようになってきた。
そもそも、こんなに村上さんがね! 村上さんはね! って話せる機会がなかったので嬉しかった。
完全に偏見なんですけど、村上春樹好き同士も仲良くなれない気がする。話せば打ち解けると思うんだけど、まず自分から話しかけに行かなさそう……
私は大学生の時にサークルに村上春樹好きの先輩がいたけど、一回も話しかけに行こうと思わなかったし、先輩もそうだったみたい。
村上さんは仕事をなんとか処理していくコツも知っている。
だから、
・書きたいのに書けない
・一文も書ける気がしない
・この頃、書いていて手応えがない気がする
そんな人は読んでみてほしい。
文章を書くことはそんなに芸術的じゃなくてもいいんだ。気負わなくていいんだと教えてくれている。まずは自由であるべきだ。
それから、しっかり観察して、些細な天啓を見逃さないこと。Epiphanyっていうらしい。わかりやすく言えば、唐突に直感的にひらめくこと。
「今日、会社やめよう」
「彼氏と別れよう」
「髪を切ろう」
「そうだ、京都行こう」
そんな感じ。宗教的な話でも、スピリチュアルな話でもありません。日々の積み重ねといくつかの偶然で生まれるものだと思う。
私も小説を書く時はいつもそういうひらめきがある。
アイデアはあるのにな〜とうずうずさせておいて、「書き始めよう」って気持ちが、書き出しの文章とセットになって現れるまで待つ。書くべきことは、向こうからやってくる。
ムーンライトノベルズで連載している小説は、書き始めるまで17年掛かった。
たっぷり時間をかけること。
本を読むこと。
これも大事なんだそうです。
「奥さんに読ませる」というのも一緒だった。
私の場合は、母と夫。
友人とはジャンルが違うので強制はしていない。「時間があったら」「好みに合ったら」の条件付きだ。
継続的に読んでくれている人は本当にありがたく、得難い……私にどんな癖があるのか、何を言わんとしていて、それを出来ているか、出来ていないか。前作は出来ていたのに、今作はここがちょっといまいちだetc. 明言しなくても、その人たちの中には必ずある。
そんな人が勇気を出して言ってくれた意見は、通りすがりに匿名で「おもしろくないです」と言われるのとは全然違う。反射的に、「いやぁ……でもぉ……」と口答えしてしまうのだけど、冷静になったあとでは結局、直します。
そんなわけで『職業としての小説家』は、おもしろいのでぜひ読んでみてください!
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