第9話 悪のカリスマ

 中級悪魔2体が鋭い爪を突き出して一斉に襲い掛かってくる。

 風魔法で手のひらに小規模の渦巻を起こし、2体同時に引き寄せて一纏めに圧縮した。


「馬鹿な!? Aランク冒険者でも苦戦する中級悪魔を今の一瞬で無力化しただと?」


 拳に魔力を集めながら、ゆっくりとゲズールに近づいていく。


「あとはお前だけだな」


 ゲズール・ディゼルザーク。


 ヴィラン指数は36点。典型的なナルシスト型のヴィランだ。今のところ印象に残る部分は少ないがここからどう動くかで評価は著しく変わるだろう。


「さあ、見せてもらおうか。悪党の執念を」


「調子に乗るなガキが、オレの切り札を忘れたか!! ――握り潰せ、ヘカトンケイル!!」


 百手巨人を呼び出した。


 半透明の長い腕が視界を埋め尽くす勢いで迫ってくる。俺は魔力を込めた拳底打ちでヘカトンケイルの胴体に風穴を開けた。風圧で天井が跡形もなく消し飛んで陽の光が差し込んでくる。


「は……?」


 ゲズールはぴたりと動きを止めた。


「な、なんなんだその威力は……っ、オレのヘカトンケイルは物理攻撃をすり抜けし、魔法耐性があるはずなのに。これほどのダメージを負わせるなんて……」


「覚悟はもう済ませたよな。それじゃあ、孤児院の子たちが受けた痛みをお返しするぞ」


「や、……やめろ。来るな来るな来るな!!」


「喰らえ!!」


 皆の想いを乗せて拳を振るった。


「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 壁に激突し、ふらふらの状態で立ち上がる。想定よりもはるかにタフだ。


「くそ、本当はもう少し研究をしてから使いたかったが、……致し方ない」


 ゲズールは懐から赤黒い塊を取り出した。


「それはまさか、魔王の心臓……」


「その通り。あの騒ぎのあと回収しておいたのだ」


 ヘカトンケイルの巨体が全て魔王の心臓へと吸い込まれていく。 

 次の瞬間、魔王の心臓の周りに骨と肉が形成されて190センチの人型になった。


「――永かった。ついに肉体を手に入れたぞ」


 邪悪な存在を前にして俺の全身が粟立った。


 いま、目の前に圧倒的悪のカリスマが立っている。

 山羊のねじれた角、漆黒の翼、筋骨隆々の体躯。誰に言われずとも理解できた。


 魔王だ。


 ヴィラン指数は94点。過去最高の67点を大きく上回る数値だ。


「くはははははははははははっ!! 素晴らしい肉体だ。魔力が溢れ出てきおるわ」


「残念だがお前は今やオレの操り人形に過ぎない」


 ゲズールは笑みを浮かべながら魔王に対して尊大な態度を取った。


「我は魔王ディアボロス・クリプトス。この程度の縛りなど無意味だ」


 胸元から浮き出た赤い鎖と魔法陣が黒い煙に包まれてボロボロと崩れ去る。


「なにっ!?」


「身の程を弁えよ」


 指先から魔力熱線を放ち、ゲズールの心臓を貫いた。

 部屋の奥にいた息子と妻が青ざめた顔でその場に倒れ込む。


「欲にまみれた人間はぎよやすかったぞ。貴様もその前の若者も、己が目的のために行動していたつもりだろうが、その実、我が新たな肉体を得るための駒として利用されていたに過ぎない」


 俺は鑑定スキルで彼のステータスを覗こうとした。


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 しかし、画面には表示されなかった。

 彼の体内にあるナノマシンは俺たちのものと違うシステムで動いていることが分かった。


 クリプトス。


 秘密結社クリプティックの末裔で間違いない。

 俺を見ても何の反応も示さないので、始祖から数世代が経っていると判断していいだろう。


 空から4体の魔族が舞い降りてきた。


「魔王様。お迎えに上がりました」

「我ら魔王軍四天王、あなた様のご期待に応えられるよう、尽力致しますわ」

「正義執行」

「ハァハァハァ……、生の人間だ」


「お前たちのお陰で我は新たな肉体を得ることができた。素晴らしい働きであったぞ」


「はは~、ありがたきお言葉」


 強大な魔力を感知して衛兵が屋敷の周りを取り囲んだ。


「何事だ!!」

「奴ら、魔族だ。しかも、4体もいやがる!!」


「人間が増えた。また増えた。殺していいか、殺していいよな、殺していいだろう!! 殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい、我慢、できるわけない、生きたまま内臓ぶちまけてやる!!」


「落ち着きなさい、ガザン。魔王様がいま喋っているところでしょう」


「人族のわつぱらよ。しばしの猶予を与えてやろう。勇者亡きいま、貴様らを滅ぼすのは容易い。だがそれでは楽しむ余地がない。ゆえに我は新たなる魔王城にて戦備を整え、しかるのちに魔物を逐次投入していく。それまでに全てのダンジョンを攻略し、戦技を磨いておくがよい」


 そう言い残して魔王は遠方に飛び去った。


 しんとした空気が漂う。


 モモは地べたに座り込み、大きく息を吐いた。


「はぁああっ……。なんなのよあれは!? 魔力の圧で押しつぶされるかと思ったわ!!」


「わたしは何も感じなかったけど」


「嘘でしょ? 鈍いにも程があるわよ」


「シュウくんに守られてるから、平気だったのかも」


「……シュウ?」


 モモは物凄い勢いで振り返った。


「そ、そういえばあんた、人間だったのね。さっきはその、……助かったわ」 


「いや、助けるのが遅くなって申し訳ない。魔力が全く回復しなくてな。ただ見ていることしかできなかった」


「あんたは何も悪くない。あたしが未熟だっただけよ。今日は運よく死ななかったけど、次また何が起こるか分からない。少し冷静になりたいからその辺軽く走ってくるわ」


 彼女は思いつめた表情で屋敷を飛び出した。

 俺とアネットは衛兵に事の顛末を伝えたあと孤児院に帰った。


 魔王復活から数日が経過。


 アネットとグラディスは冒険者養成所を卒業してGランク冒険者となった。

 試行錯誤の末、グラディスはドワーフ譲りの筋力と小柄な体型を活かすため大盾使いにジョブチェンジした。刀使いのモモ、弓使いのアネット、指示役の俺、バランスの良いパーティーだ。


「二人ともGランク昇格おめでとう」


「あんたたち、この短期間で見違えるほど変わったわね」


「ん、がんばった」


「わしは盾を活かした立ち回りが自分の性格に合っていたようじゃ」


「これからこの4人で活動していくにあたって、改めて全員の目標を確認したい」


「あたしは悪い奴を懲らしめたい。……魔王はあれから何の音さたもないけど、世界の平和を脅かすのなら、避けては通れない相手になるわね」


「わしは聖剣を超える武器を作ることじゃな。まずは良い素材を揃えたい」


「わたしはシュウくんのお手伝いができればそれでいい」


「俺も、まあ、モモと同じかな。世界平和を望んでる」


「とりあえず、何をするにしてもお金と力がいるわよね。ダンジョンを攻略して財宝を手に入れましょう。あそこは高度な技術で建てられていると聞くし、グラディスの目的とも一致するわよね」


「そうじゃな。……にしても、ダンジョンの出現、魔王の復活、……なぜ、魔王城から遠く離れたこの場所であれほどの出来事が重なったのか。未だに謎が残されたままなのじゃよな」


「元々、この場所は魔族・亜人族発祥の地のなんだよ。最初に巨人族が生まれて、次に小人族が生まれて、そのあと森人族(のちの古代エルフ族)、土人族(のちの古代ドワーフ族)、魔族が生まれたんだ。古代都市は魔族が作った国なんだよ。魔王が復活できたのはおそらく超古代文明が関係しているんだろう」


「あー、それって創生神話だっけ? あたしがこの国に来たばかりのとき、邪神教団がしつこく勧誘してきて、内容をちょっとだけ覚えているわ。あんたその話を律儀に聞いていたんだ?」


「……まあ、そんなところ」


 創生神話に登場する原初の神とは俺のこと。


 巨人族は俺がこの星に着いてから最初に作り出した知的生命体。この星で人間を作ろうとしたら恐竜サイズになってしまった。そのあと調整して生まれたのが小人族だ。


 古代エルフ族は巨人族と小人族の生体データをもとに作り出した最高傑作。科学の知識を詰め込んで農業と林業に力を入れさせた。古代ドワーフ族は技術の知識を詰め込んで家や農具を作らせることにした。


 地球から持ち込んできた種で作り出した肉用家畜が魔物。地球には存在しなかった魔力を浴びて狂暴化してしまった。


 この星で自然発生した生命体が動物で、猿から進化したのが膨人族だ。


「ん。創生神話の本。読んでみたい」


「もう無いんじゃない? 邪神教団は壊滅したし」


「……そう、ざんねん」


「おぬしら荷造りはしなくてよいのか。わしは今からじっさまに報告してくるぞ」


「そうね。旅の支度を終えたら孤児院の皆に挨拶しに行きましょう」


 傷薬、携帯食料、地図、寝具などを買い揃えたあと孤児院で合流した。領主が交代してから古代都市の中に新しい孤児院が用意された。


「モモお姉ちゃん。いってらっしゃい」

「わたしたち、ずっと応援してるから」


 孤児院の皆でモモの門出を祝福する。

 困らせる子供は一人もいない。これまでにも何度か別れを経験してきたのだろう。


「みんな、ありがとう。それじゃあ、行ってきます」


 馬車に乗って古代都市を出た。

 向かう先はダンジョンが出現したリンヴェルト王国の王都。

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ヴィランの祭典 ~邪神をやめたい俺、世界で一番悪いやつに神の座を押し付けたい~ 小金井三遁 @creativesss

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